馬場正尊 talk about 山形 05/「リノベーション前の、とんがりビルはヤバかった?」
このビルが発見された時、内部空間には使われていた頃の痕跡がいたるところに散乱していた。
一階は韓国居酒屋だったらしく、こってりとしたインテリアの残骸が残っていた。
現在は地元の有機野菜を使った体に優しい料理の「nitaki」だからずいぶんギャップがあっておかしい。
二階に足を踏み入れると全体が鏡張りで、相当ヤバい場所だったことが伝わってくる。
ステージのようなものがあって、奥の狭い更衣室にはスパンコールのものすごいドレスが打ち捨ててあった。
一体ここで、どんなタイプのショーが行われていたのか、おおよその想像がついたが、僕はそれを頭から振り払った。
今では、さっぱりとクールなアカオニデザインの事務所になっている。
3階より上は住居で、古びた生活の匂いがあちこちに染み付いていた。それがシンプルなアトリエやスタジオになり、インテリアと雑貨の「ティンバーコート」を始め山形における新しいライフスタイルを追求するテナントが並んでいる。
5年以上、このビルは空き物件、というより廃墟だった。
そこにはある時期のシネマ通りの栄枯盛衰が地層のように堆積していた。改めて建物のビフォーアフターを思い出してみると、皮肉なくらい対照的。これもまた、シネマ通りのある時代の変化を象徴しているのかもしれない。
リノベーションがおもしろいのは、その行為が建物や場所との対話でもあるということだ。残置物からその時代の空気を感じながら、次の時代に向けて建物をバトンタッチして行く。
数十年後、誰かがとんがりビルをリノベーションするとしたら、現在の僕らをどのように見るのだろうか。
馬場正尊 Open A代表/東北芸術工科大学教授/建築家 1968年佐賀生まれ。1994年早稲田大学大学院建築学科修了。博報堂、 早稲田大学博士課程、雑誌『A』編集長を経て、2002年Open A を設立。 都市の空地を発見するサイト「東京R不動産」を運営。東京のイーストサイド、日本橋や神田の空きビルを時限的にギャラリーにするイベント、CET(Central East Tokyo)のディレクターなども務め、建築設計を基軸にしながら、メディアや不動産などを横断しながら活動している。
※この「リノベーション前の、とんがりビルはヤバかった?」と題されたコラムは、とんがりビルが発行するフリーペーパー『とんがり通信』(第6号/2017年6月発行)に掲載されたものです。馬場さん、『とんがり通信』編集部さんより許可を頂いてここに転載させて頂いております。(写真:工藤裕太)