この街で、芸と女を磨く
仲乃家 桃太郎さん
「こんな女性になりたい」と、女子が憧れる女性がいる街はいい街だ。
品があって、チャーミング、ものごし柔らかく、そして温かい。
主計町(かずえまち)の一番人気芸妓(げいぎ *1)・桃太郎さんは、まさに“女子が憧れる女性”だ。
金沢には「ひがし茶屋街」「主計街」「にし茶屋街」という三つの茶屋街があり、
今も多くの芸妓さんが活躍している。
検番からは三味線や笛の音、路地裏ではさらりと着物を着こなした芸妓さんの後姿にうっとり…なんてこともしばしば。
「芸妓や女将さんなど、金沢は女性職がいきいきと働ける街だと思います。男の人に負けじと張り合うのではなくて、女性だからこそ、しなやかに頑張れるんです」と桃太郎さん。
最近では大学卒業後にお茶屋さんに入るケースも多く、富山県出身の桃太郎さんも金沢美術工芸大学を卒業後、2006年に知人の紹介で仲乃家に飛び込んだ。
「それまで、お茶屋さんに入ったこともなかったので、ガチガチに緊張していたんですが、おかあさんが明るくて、それでいてスッと粋で―。私がこれまで見てきた“着物を着た女性”とは纏っている雰囲気が全く違ったんですね。そのときなぜか “あぁ、大丈夫”って思えたんです」
まぁとにかくやってみなさい、と女将さんの快活な一言で始まった桃太郎さんの芸妓人生。ある日のスケジュールはこちら。
午前中:お囃子のお稽古
午後:踊りのお稽古
夕方:髪結い後 お座敷のための支度
夜:お座敷
夜は11時頃に終わることもあれば、ときには深夜におよぶことも。
「楽な仕事ではないですが、毎日とても充実しています。芸妓さんって、意外と体力がないとだめなんです。笑 」
一日の大半は芸のお稽古に費やす。やはり芸の道は、長く険しい。
「ちょっと目の前のことができるようになって、嬉しくなって…その積み重ねです。私は何もあたわっている(*2)わけではないので、不器用ながらコツコツやるしかないんです」
そうした地道な努力と、天性の愛嬌で主計町一番の人気芸妓へとのぼりつめた桃太郎さん。目下の関心事は“芸妓さんの数を増やすこと”だとか。
「お茶屋というのは会社ではない、人がつくっている空間です。だから芸妓さんが育たないことには成り立たない場なんです」
桃太郎さんが考える、芸妓に必用な素養をたずねると
「芸妓は総合力。容姿や芸事にあたわっていても(*2)、活かせるかどうかは、一緒に働くお姐さん方とのチームワークや協調性、お座敷での経験値でしかない。お客様のご要望、興味のあることを汲み取る力も欠かせません。芸妓はまさに夜のおもてなしコンシェルジュなんです」。そう話す優しい目の奥に強い意志が感じられた。
取材の帰り際、桃太郎さんがお茶菓子を包んでそっと手渡し、(金沢ではこれを“お道忘れ”という)「いつもあんやと」と見送ってくださった。
芸妓さんは生きる金沢文化。
そのDNAは、完成された女性美への憧れと共に、次の世代へと受け継がれていく。
「まず飛び込んでみてみること。気持ちさえあれば、裸一貫でいいんです。
あとにひけないくらいの方が人生楽しいですよ」
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*1 芸妓:舞踊や音曲・鳴物で宴席に興を添え、客をもてなす女性。芸者・芸子のこと。
*2 あたわる:桃太郎さんの出身地、富山の方言で「与えられる」の意味。
URL | 金沢芸妓・桃太郎(@nakanoyamomo)さん | Twitter |
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住所 | 石川県金沢市主計町2-5(仲乃家) |