【和歌山】有田川に学ぶ、エコなまちづくり ゴミの分別×小水力発電で資金を生む
ゴミの分別は面倒くさい。けれど、地域の皆で習慣化することで、年間数千万円のお金が生まれ、それを地域の基金として子どたちの教育の充実や再生可能エネルギーの導入などに活用し、より良い町をつくることができるとしたら…。
そんなエコロジーでエコノミーな取り組みを、約25年前から実施している地域がある。和歌山県有田川郡有田川町だ。
環境省のグッドライフアワードや新エネ大賞などの表彰を受け、国内外から視察が来るなど、サステナビリティの観点では最先端の、有田川町のエコなまちづくりをご紹介したい。
持続可能な取り組み「有田川エコプロジェクト」
全国トップブランド・有田みかんの生産地である有田川町。国の重要文化的景観に指定される棚田「あらぎ島」があるなど、自然と調和した暮らしが広がる、人口約2万7千人の穏やかな町だ。
この町で、官民連携により行われる持続可能な取り組みの総称が「有田川エコプロジェクト」。数多ある活動のなかで特筆すべきは、ゴミの資源化と小水力発電の導入である。
プロジェクトの原点は平成4年。有田川町は、吉備町・金屋町・清水町が合併した町だが、吉備町時代に、行政と住民が手を取り合って実施したゴミの分別が、現在の活動の礎となっている。
ゴミの資源化。年間約1,000万円の費用削減と約210万円の収入
かつての吉備町では、ゴミは歩道の脇に無造作に積んで回収されていた。他県でもよく見かける光景だ。しかしバブル景気後、各家庭のゴミの量が倍増。ゴミにつまずいた小学生が交通事故に遭いかけるなど、警察が出動するトラブルも度々発生していた。
この問題を解決しようと、役場は、屋根付きのゴミ集積所を各自治会単位で設置。リサイクルをしてゴミの量を減らそうと、分別も徹底した。それらが高品質の資源ゴミとして評価され、3町合併後の平成20年に入札を実施したところ、収集運搬処理業者による買い取りが始まった。
それまで年間約1,000万円を支払って収集・運搬・処理を依頼していたゴミが、約210万円で買い取ってもらえるリサイクル可能な資源と認められたのだ。
起案者・三木さんに聞く、ゴミの分別を始めた約25年前
ゴミの分別活動の起案者である旧吉備町役場の職員・三木 敏男(みき としお)さんに、約25年前の当時のことを伺った。
「早朝は回収業者の人と話して、夜は各地域の委員さんや区長さんに頼んで各家庭から必ず一人は出席してもらって、町が抱えるゴミの問題や、どう変えていきたいかを何度も説明したんよ。
理解してくれた地区から集積所を設置して。説明したり現場を見回ったりを何年も繰り返しているうちに、地域の人が自主的に集積所で立ち番をして、周囲に指導してくれるようになった。思いがつながった感覚がうれしかったなあ。
僕はきっかけをつくったかもしれないけど、やっぱり住民の方々がいてくれたからこそ出来たことやさけ。感謝やね」
浮いたお金は、住民や行政のエコ活動を促進する基金へ
削減できた処理費用の予算は、「循環型社会の構築と自然エネルギー推進基金(旧・低炭素社会づくり推進基金)」として積み立て、住宅用太陽光発電設備や太陽熱温水器などの補助金制度に活用。
生ゴミ処理機の補助制度や、生ゴミを堆肥にするコンポスト容器の1世帯2個までの無料貸出も実施している。
県営ダムで町営の水力発電所。年間約5,000万円の発電収入
ゴミの資源化による財政の安定と、地域資源を生かそうという意識の浸透が基盤となり、平成28年に二川小水力発電所が誕生した。県営多目的ダムの維持放流水を、町が活用する全国初の事例だ。
下流域の環境維持のために放流される毎秒約0.7tの水圧から、最大199kWの電力が生み出される。年間約5,000万円の発電収入も、基金の原資になっている。
起案者・中岡さんに聞く、水力発電所完成までの7年間
二川小水力発電所建設の起案者であり、各家庭の太陽光発電設備など再生可能エネルギー推進のキーマンでもある、有田川町役場環境衛生課長の中岡 浩(なかおか ひろし)さんに話を伺った。
「最初に建設の提案をしたのが平成20年のこと。前例もないため、交渉は難航しました。しかし、東日本大震災や紀伊半島大水害が起き、再生可能エネルギーの重要性が見直されたことで潮目が変わり、約7年がかりで発電所をつくることができました。
いつも有田川町の再生可能エネルギーの根底にあるのは、ゴミの分別活動なんです。地域の方々の努力の賜物ですね」
広がり続ける、有田川町のエコなまちづくり。仲間も募集中
ゴミの分別活動は衰えることなく、現在では総勢100名以上の住民が「ゴミ減量の推進員さん」という役割を積極的に担っている。
他にも、”自然エネルギーで地域を興す”というテーマで「有田川エコフェスタ」という企画を定期的に開催。ゴミ資源化の経緯を紹介するなど、世代が変わっても思いが継がれる工夫がなされている。
ゴミの分別から始まる、エコなまちづくり。徹底と継続は決して容易いことではないが、普段のゴミ出しの「面倒くさい」を「当たり前」に変えることで、これだけ町の未来が変わるのだ。
2018年4月27日まで、地域おこし協力隊も募集しているようなので、有田川町の暮らしに興味が湧いた方は、一度問い合わせてみてはいかがだろうか。
※下記より送信いただくと、今回取材にご協力くださった有田川町役場の職員さんにメッセージが届きます。地域おこし協力隊に関するご質問の他、ご意見・ご感想もぜひお聞かせください。