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中山ダイスケ × 山岸清之進【前編】/ぼくらのアートフェス 2

2018.08.10

2018年秋開催の山形ビエンナーレ直前。全国のアートフェスのディレクターにフェスへの想いを語っていただきその魅力を紐解くトークシリーズ「ぼくらのアートフェス」第2回のゲストは山岸清之進さん、聞き手は東北芸術工科大学中山ダイスケ学長です。

「ぼくらのアートフェス」archive はこちら

中山ダイスケ × 山岸清之進【前編】/ぼくらのアートフェス 2
左より、中山ダイスケ東北芸術工科大学学長、山岸清之進さん

東京からローカルへ
鎌倉ルートカルチャーのはじまり

中山:「ぼくらのアートフェス」2回目のゲストは「プロジェクトFUKUSHIMA!」そして「ルートカルチャー」のプロデューサーである山岸清之進さんです。

山岸:こんにちは、よろしくお願いします。 ぼくは福島市の出身で、東京の大学に出てメディアアートを専攻し、表現活動をしてきました。卒業後はテレビ番組のディレクターの仕事をしながらメディアアートの活動をずっと続けていました。

2005年、30歳ころかな、東京より自然と文化の豊かなローカルのほうがいいかも、と鎌倉に引っ越します。住んでみると歴史も文化もあり、アーティストやミュージシャンも多い、すごく面白いまちでした。

それでこのまちの古いお寺でアートフェスやったらめちゃくちゃ面白んじゃないかと、最初の「ルートカルチャー」というイベントをやったのが2006年かな。妙本寺というお寺にミュージシャンを呼んでライブしたり、すぐ横の幼稚園でワークショップをしました。

中山:ふだんテレビ番組の仕事をして、土日にライフワークとしてイベントをやっていたんですね。

山岸:そう。少し前にNHKの教育番組でUAが歌のお姉さんの「ドレミノテレビ」という番組を制作してて。スタジオで聴く彼女の童謡が本当に良くて、ライブなら最高だろうと思って、実際にお寺でやってみよう!と。

中山ダイスケ × 山岸清之進【前編】/ぼくらのアートフェス 2

中山:市の協力をもらったんですか?

山岸:主にはお寺との関係ですね。地元育ちの仲間が「同級生で住職いるから相談してみるよ!」みたいな感じでした。それまでの音楽イベントってホールで聴くのが一般的だったし、FUJI ROCKのような大規模の野外イベントもあったけど、全く違う文脈のローカルの小さなアートフェスのこれは先駆けのひとつだったんじゃないかな。

中山:ルートカルチャーのメンバーって、パン屋さんや役者、大学の先生とかいろいろな職業の人たちが集まっていて、仕事とは別にこの活動の場を楽しんでいたのが印象的です。大人が文化祭をやっている感じで、全く異なる職業のプロたちが、商売ではない表現活動を土日に家族も巻き込みながらやっていました。

山岸:本当に、部活みたいでしたね。

で、そんなふうにルートカルチャーの活動を鎌倉でやってきたわけですが、これとまさに時を同じくして、福島で「FOR座REST」という活動をしている人たちの存在を偶然知りました。 「FOR座REST」は、福島市内の公園にある築120年を超える国指定重要文化財の古民家で開催されている、音楽イベントです。

それをぼくらと同じタイミングで、しかもぼくの本当の地元でやってたわけです。 それまで関心を向けることもなかった福島に、それから目が向くようになりました。ぼくは心のどこかで地元のことを諦めるような気持ちでいたけど、彼らは福島を諦めないでやっていたんですね。

ぼくはすごい衝撃を受けまして、それから「FOR座REST」と一緒になって企画をつくったり、福島でもルートカルチャーと考えが通じることをやり始めたり、というようなことをやるようになりました。

中山ダイスケ × 山岸清之進【前編】/ぼくらのアートフェス 2


FUKUSHIMAを

ポジティブな言葉に

山岸: 2011年、東日本大震災が起こりました。原発事故が起き、問題がどんどん大きくなりました。それまですごく地味で目立たなかった福島は、ものすごくネガティブなイメージとともに世界中の注目を浴びる存在になりました。

そんな福島の状況に向き合わなければと「ドレミノテレビ」の出演者でもあったミュージシャンの大友良英さんと震災後すぐ連絡を取り合い「これはなにかしなくちゃいけないような気がする。まだどうしていいかわからないけど、なにかするときは一緒にやりましょう」と話したんです。

中山:大友さんも福島の出身ですか?

山岸:小学3年の頃に引越してきて高校まで福島市で過ごしたという、僕の高校の大先輩です。 大友さんのほかに、遠藤ミチロウさんというザ・スターリンという日本のパンクロック界のレジェンド、この方も二本松市出身でぼくの高校の先輩なんですね。そしてもうひとり、福島市在住の詩人の和合亮一さん、今回の山形ビエンナーレにも参加されますよね、この3人を共同代表として「プロジェクトFUKUSHIMA!」を立ち上げ、2011年5月8日に福島で記者会見しました。

中山:具体的な何かを決めて?

山岸:記者会見では「1万人を呼ぶ無料の音楽フェスティバルを夏に開催します」とだけ発表しました。そんなことが本当にできるのか、どうやったらいいのかもわからないけど、こういう困難な状況のなかだからこその祭りが必要なんじゃないか、と。

中山:音楽イベントどころじゃないって思う人もいたかもしれませんね。

山岸:実はちょうどこのとき、6月開催予定だった「FOR座REST」は中止せざるを得ないという判断をしたばかりでした。ぼくらも福島のなかにいたら「祭りだなんて、とても。。。」って感じになったかもしれないけど、大友さんにしろミチロウさんにしろ、ベースが東京にあったから、そういうことが言い出せたのかもしれません。

中山ダイスケ × 山岸清之進【前編】/ぼくらのアートフェス 2

中山:少し客観的な視点だったのかもしれないですね。

山岸:プロジェクト立ち上げのステイトメントがあるので、ちょっと読みますね。

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2011年8月15日、福島で、音楽を中心としたフェスティバルを開催します。 また、これをきっかけに様々なプロジェクトを長期的に展開していきます。
タイトルは「FUKUSHIMA!」。 「ノーモアフクシマ」でも「立ち上がれフクシマ」でもなく、なんの形容詞もつかない「FUKUSHIMA」。現在の、ありのままの福島を見つめることから始めたい。そんな思いで、福島で生まれ育ったゆかりの音楽家や詩人らの有志が集まりました。
地震や津波の被害のみならず、解決の見通しの立たない原子力発電所を抱える現在の福島では、フェスティバルどころではない、という意見もあるかもしれません。 それでも、いやそんな時だからこそ、現実とどう向き合うかという視点と方向性を人々に示唆する力を秘めている音楽や詩やアートが必要だと、わたしたちは信じています。不名誉な地として世界に知られたFUKUSHIMA。 しかし、わたしたちは福島をあきらめません。故郷を失ってしまうかもしれない危機の中でも、福島が外とつながりを持ち、福島で生きていく希望を持って、福島の未来の姿を考えてみたい。 そのためにも、祭りが必要です。
人々が集い、語らう場が必要です。 フェスティバルを通して、いまの福島を、そしてこれからの福島の姿を、全世界へ向けて発信していきます。
FUKUSHIMAをポジティブな言葉に変えていく決意を持って。

2011年5月8日

プロジェクトFUKUSHIMA! 実行委員会
和合亮一/遠藤ミチロウ/大友良英
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大風呂敷をひろげ
いろんな考えを包みこむ

山岸:最初のフェスティバルは、福島市郊外の公園、四季の里で開催しました。会場に敷かれたカラフルな布、これをぼくらは「福島大風呂敷」と名づけました。

本当にフェスを開催していいものか、専門家と一緒にこの会場の放射線量を測りに行った時に、放射線衛生学の木村真三博士から、「放射線量的には1日や2日人が集まるのに問題はないレベルと言えるけれど、公園の芝生は放射性物質が付着しやすいから、直接被曝を多少でも低減させるためにも、何かシートを敷いたらいい。ブルーシートでもいいから」とアドバイスを受けたんです。

ブルーシートはあまりに震災のイメージと直結するかもしれない、ということで、美術家の中崎透さんと建築家のアサノコウタさんに入ってもらい、みんなで持ち寄った布を縫い合わせてそれを広げようということになったんです。

中山ダイスケ × 山岸清之進【前編】/ぼくらのアートフェス 2
プロジェクトFUKUSHIMA!「福島大風呂敷」(2011) 撮影:鉾井喬

中山:「大風呂敷」って言葉には「できそうにない大げさな話」みたいな意味もありますよね。

山岸:そもそもこのプロジェクトでぼくらが宣言したことが「大風呂敷」でしたし、この大風呂敷に見合うものができたらそれは素敵なことだし、それくらい大きなものをぼくらはつくろうとしているんだっていう気合も込めまして。

中山:みんなでつくったんですか。

山岸:ネットで呼びかけたらたくさんの布が全国から集まり、布を縫う作業場にもボランティアとして近所のおばさんたちや学生たちが昼も夜も来てくれました。縫いあがった大風呂敷は、1枚のユニットの大きさが10m×10mになっているんですけど、広げてみると風にバーっとなびいて、一気にハレの日の祭りの場になりました。元々はセシウム対策のためのはずの大風呂敷にそんな効果があったということにぼくら自身も驚きました。

中山:綺麗だし、機能的だし。みんなの善意が目に見えるのもいいですね。

山岸:8月15日、公園を覆うくらいの6千平米にもなった大風呂敷を広げて行われた「フェスティバルFUKUSHIMA!」は、いろんな批判もありましたが、すごくいいイベントになりました。

翌年の2012年もぼくらはフェスティバルをやるべきだと思いましたが、全く同じ形でやるのはちょっと違うかも、と議論になりました。震災による「分断」をどうにかしたい、という想いがありまして。

中山:分断というと?

山岸:原発に対する姿勢とか、避難をするかしないかとか、大小様々な分断があちこちに生まれていました。たとえば、ひとつの家族のなかでも、小さなお子さんを抱えたお母さんは「どこかに避難しなきゃいけない」と思うとすると、一方のお父さんは「大丈夫じゃないか」って言ったり、おじいちゃんは「先祖代々の土地を離れるなんてとんでもない」って言うとか。

避難したらしたで「故郷を捨てるのか」って批判されたり、とか。そういう悲しい分断をつなぎとめる架け橋になるようなことが、ぼくらのテーマなんじゃないか、と。

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フェスティバルFUKUSHIMA!(2012) 撮影:鉾井喬

 ということで2012年は、いろんな考えを包み込む象徴であるこの大風呂敷を旗につくり変え、福島だけじゃなくて世界各地で色も大きさもバラバラの旗を掲げようよ、と「Flags Across Borders」っていうのをやりました。やってみるとこれはこれでコンセプトが立っててすごく良かったけど、「なんかちょっとムズカシイ」とか「何をやっているかわからない」という声もありました。

それで、これはこれで良かったけど、次の2013年にはまた違うかたちにしようと議論になり、「盆踊りがいいんじゃないか!」という結論になりました。


〉〉〉後編へつづく


山岸清之進(Seinoshin Yamagishi)/プロジェク卜FUKUSHIMA! 代表・ディレクター。1974年福島市生まれ。慶応義塾大学SFC大学院在学中よりメディアアートユニットflowを結成し国内外で活動を開始。NHKの教育番組「ドレミノテレビ」(グッドデザイン大賞/2004)や、ウェブサイト「NHKクリエイティブ・ライブラリー」(日本賞経済産業大臣賞/2013)などを企画制作。2006年、鎌倉を拠点とするクリエイティブNPO「ROOT CULTURE」を仲間と立ち上げ、寺院を会場にした「新月祭」(2006)を皮切りに、神奈川県立近代美術館鎌倉館ミュージアムカフェの運営(2011〜2013)、演劇作品「花音」(2013)、「鎌倉[海と文芸]カーニバル」(2014)など、地域の文化資源を生かした様々な企画、プロデュースを行う。2011年、東日本大震災の直後より音楽家・大友良英氏の呼びかけでプロジェクトFUKUSHIMA!に参加。2015年からは同プロジェクトの代表を務める。プロジェクトFUKUSHIMA!として、毎夏福島市で開催する「フェスティバルFUKUSHIMA!」(2011〜)、福島から発信するインターネット放送局「DOMMUNE FUKUSHIMA!」の運営を行いながら、「あいちトリエンナーレ」(2013)、「札幌国際芸術祭」(2014・2017)、「フェスティバル/トーキョー」(2014〜2016)、「アンサンブルズ東京」(2015〜)など各地のアートフェスティバルや、森美術館「六本木クロッシング展」(2013)、豊田市美術館「20周年記念展」(2015)などにも参加。2018年には、休業温泉旅館を会場にした芸術祭「清山飯坂温泉芸術祭」を初開催するほか、福島を起点に活動の幅を広げている。

中山ダイスケ(Daisuke Nakayama)/1968年香川県生まれ。現代美術家、アートディレクター、(株)daicon代表取締役。共同アトリエ「スタジオ食堂」のプロデュースに携わり、アートシーン創造の一時代をつくった。1997年ロックフェラー財団の招待により渡米、2002年まで5年間、ニューヨークをベースに活動。ファッションショーの演出や舞台美術、店舗などのアートディレクションなど美術以外の活動も幅広い。山形県産果汁100%のジュース「山形代表」シリーズのデザインや広告、スポーツ団体等との連携プロジェクトなど「地域のデザイン」活動も活発に展開している。2018年4月、東北芸術工科大学学長に就任。

 

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