家族で繋ぐ、温かなお菓子「プリンとブッセのお店 あうる」
山形市中心部では、今次々とリノベーションが起こり、注目を集めるエリアがあります。それが七日町・シネマ通り。
小さな点(店舗や拠点)から、大きな面(街やエリア)へと活動の広がりを見せる、エリアリノベーションが起きています。
そんなシネマ通りに、2018年の5月、新たなお店が誕生しました。
「プリンとブッセのお店 あうる」です。
お店は七日町二郵便局の向かいで、バス停の目の前にあります。白く綺麗に塗られた外観と、お店の中をのぞける小窓が目を引きます。
店長の庄司佳奈子さんと、シェフの和田諭さんにお話を伺いました。
母親同士が姉妹で、従姉弟である庄司さんと和田さんは、おじいさんをはじめ、親戚一同がお菓子屋さんという環境で育ちました。自分たちでもお菓子作りをしたり、小さい時からお菓子に囲まれてきたのだといいます。
高校卒業後、一度は他の勉強をしていた和田さんですが、もともと好きだったお菓子作りを忘れられず、製菓の学校へ行くことを決意します。
卒業後、お菓子屋さんでの修業を経て、山形へ帰郷した和田さん。山形でしばらく過ごしている中、庄司さんの結婚式がありました。
「和田くんが作るお菓子がすごく好きだったので、結婚式のギフトに焼きドーナツを作ってもらいました。結婚式に来た人たちから、美味しかったと言ってもらい、『自信持ちなよ。お店やりたいね!』と声をかけました」(庄司さん)
そして去年、周囲の勧めに推されて、お店を始める決意をした和田さん。開店前の計画の際は、和田さんのお母さんがオーナーとしてお店作りの主体となったそうです。
「お店を出そうと考え始めたとき、コンセプトとメニューはまだ漠然としていた状態でした。そんな時、母が『看板メニューとしてプリンとブッセがあれば、お店として納得感があるんじゃない?』とアドバイスをくれました」(和田さん)
「和田君の家族がアメリカ旅行のお土産で買ってきたふくろう(owl:発音は“あうる”)の人形をお母さんが気に入って、『お店のマスコットはこの子!』と言ったことが、店名になっています」(庄司さん)
和田さんのお母さんの念願でもあったお店。内装やコンセプト、ロゴなど、様々なところにお母さんのセンスとこだわりが詰まっているそうです。
庄司さん一家と和田さん一家はとても仲が良く、庄司さんは和田さんのお母さんを「母のような人」、和田さんは庄司さんを「姉のような存在」と言います。
お洒落でありながらも親しみやすいお店の雰囲気は、家族で作り上げた温かい物語があるからかもしれません。
洋酒の香りが特徴的な、お店の看板商品であるプリンは、和田さんのお父さんの影響だと言います。
「父がお酒好きで、家にはマッカランの12年がありました。お店の準備中に、これを使ってプリンを作ったら美味しいんじゃないかと思い試してみたら、美味しかった。少しずつ改良をして、今も使用しています」(和田さん)
もう一つの看板商品であるブッセは、ブルーベリー、ラズベリー、チーズクリーム、ガナッシュという定番の4種類と、季節のフルーツがあります。ブルーベリーとラズベリーはふわふわ食感の生地、チーズクリームとガナッシュはさくさく食感の生地。それぞれのクリームと生地の相性が抜群に良く、ついもう一個と、思わず手が伸びてしまいます。
「お客さんには若い女性が多いですが、おばあちゃんもよくいらっしゃいます。ブルーベリーやラズベリーのブッセ、くものクッキーなど、凝ってないものが人気です。プリンがほろ苦いので、男性の方にも『これなら食べられる』と言っていただけます」(庄司さん)
初めは街の人たちも、お店の小窓からどんなお店なんだろうと見ていましたが、今ではすっかり街の風景に馴染んできました。
斜め向かいのBOTA coffeeでコーヒーを注文する際、あうるのお菓子を持ち込んでもOKというように、近隣のお店とも付き合いがあるそうで、シネマ通りにお店を持ってよかったと感じているそうです。
今回のインタビューを通じて、和田さんと庄司さん、そして和田さんのお母さんの人柄が、お店の雰囲気や居心地の良さ、お菓子の味に表れているのだと思いました。
シンプルで飾らず、そしてそれが優しい気持ちになる。
散歩の途中や帰り道、近くを通ると寄っていきたくなるのは、家族の温かみを感じられるからかもしれません。
家族三世代で積み重ねてきた温かなお菓子の味を、どうぞご賞味ください。
取材・文/北嶋孝祐
写真提供/マルアール