金澤町家に住んでみた。―リノベーション記録と生活のようす―
「いつか町家に住みたい」
夫が人生のやりたいことリストに書き加えて2年。その出会いは思ったより早くに訪れました。
今回は約8か月に渡る改修の様子と、2018年10月から住み始めた生活の様子をレポートしたいと思います。
※金澤町家とは……昭和25年より前に建築された町家のこと
この町家に決めた理由
2016年の秋に千葉県から金沢市に移住した我が家。
金沢に来て最初の住まいは賃貸マンションでしたが、家賃や更新料がもったいない、という思いもあり、次の更新はしないつもりで移住後間もなく、家探しを始めました。
当初は、新築、中古など幅広く見ていました。
新築注文住宅も見学に行き、実際にプランやローン返済の見積もりまで出していただいたのですが、その金額や間取り図を眺めながらふと思い至りました。
「今どれだけハイスペックな家を建てても、10年、20年住めば修繕も必要になる。私たちにはたくさんの部屋はいらないし、住みながら間取りを変えられる可変性のある家が欲しい!」
そうして不動産屋さんに希望のエリアを伝えて連絡をお願いしたり、自分たちでも不動産サイトなどを探す中で、今の家と出会いました。
金澤町家でありながら、広い庭、小屋、駐車スペースが確保できること、大きな傾きなどはなかったことなどが決め手となり、購入を決意しました。
どの設計士さんにお願いするか
町家改修をお願いするのであれば、経験豊富な設計士さんにお願いしたいところ。
とはいえ、設計士さんとどうやって知り合えばよいのか、色々検索してもこの人にお願いしたい、という実感が湧きにくいのが難点でした。
そんな時にありがたかったのは、NPO法人金澤町家研究会が主宰するイベント『金澤町家巡遊』です。
実際に町家改修を経て活用されているお店や、個人のお宅に訪問することが出来、タイミングが良ければその町家を担当した設計士さんのお話を聞くことが出来ます。
お住まいになっている方がどういうポイントでその町家を選んだのか、何を重視し、何を残したのかなどは、自分たちの家の改修イメージを膨らませるのにも役立ちました。
また、知人の紹介で参加した町家改修ワークショップ(ペンキ塗り)での経験から、その町家を担当している設計士さんと知り合うこともできました。
さまざまなイベントや実際に改修された町家に顔を出すと、「こんな雰囲気がいいなぁ。これを作った人にお願いしたいな」という自分の希望も見えやすくなってきます。
我が家では最終的には3つの設計事務所の方に見ていただき、どういう改修を希望するか伝えながら、その予算感やイメージを共有していきました。
何を、どこまでやるか、悩ましい改修範囲
「断熱」「耐震」「建物内の快適性」「景観の保持」など、改修のポイントはいろいろありますが、我が家の場合は、予算とにらめっこしつつ、断熱と建物内の快適性、そして景観の保持を優先に考えました。
まず断熱についてですが、設計士さんと費用感を相談しながら、決めていきました。
我が家は床下と屋根裏に断熱材を入れ、1階のキッチンとリビング、2階寝室と縁側は二重サッシに変更しました。
壁に断熱材を入れると、部屋が狭くなってしまうことや、町家はある程度隙間があることで換気がされ、結露を防げていることなどを設計士さんに伺い、最小限の断熱対策を行いました。
耐震については、設計士さんとも相談した結果、町家の構造上の特性を活かす意味でも大きな補強は行いませんでした。
建物内の快適性ですが、主に水回りを中心に、すべて新しい設備に変更しています。
他にも、ガスヒーター、床暖房、浴室乾燥機…などなど、快適性や機能については新築同様に様々なことが考えられますが、予算やどのような生活をしたいかによって大きく金額も上下するところになります。
物件取得と改修にかける予算の決め方
まず総額の予算は、「同じエリアで土地を買って新築を建てるよりは安く済ませる」という金額で設定しました。
結果的には新築の建売と同額かそれ以下、くらいの金額となりましたが、月々のローン返済金額はマンション暮らしの家賃よりは抑えられています。
また、建売住宅の場合は、2階が壁で仕切られた2~3部屋の間取りとなっているものが多いのですが、改修の結果、部屋のつくりも可変性があるものとなって満足しています。
入居後のお金についてですが、元々古い建物なので、新築よりは早い段階でメンテナンスの必要が出てくることを予想し、マンション暮らしを続けていた場合の家賃と今の月々のローン返済の差額分を、家のメンテナンス費用として積み立てています。
町家の冬を過ごしてみて
2018年秋に改修が終わり、引っ越して間もなく、最初の冬がやってきました。
すべての部屋を断熱材で囲ったわけではないので、やはり冬の冷え込みはそれなりにありました。
エアコンの暖房でベースの温度を上げたり、部屋を仕切って対流ストーブをつけると、だいぶ温かく過ごせます。
光熱費はかかりますが、冬の間はかかるもの、と割り切って過ごしました。(風の通り抜けがよいので、夏はエアコンがいらないのでは…と期待しています)
気密性の高い新築住宅のように、冬にシャツ一枚で過ごすことはできない家ですが、冬の朝のぴんと張りつめた空気を味わい、日ごとに温かくなっていくのを肌で感じながら春を迎えるのも悪くないなぁと感じています。
開かれた家にしたい
私たちは町家住まいを始める前に、町家巡遊などのイベントを通して、町家で暮らしている方のお家にお邪魔させていただいて、町家暮らしのイメージを膨らませることができました。
私たちもこれから町家暮らしを検討している方の参考にしていただければと、開かれた家にしていこうと考えています。
また、敷地内にある小屋はこれからセルフリノベーションの予定です。
小屋づくりやDIYに興味がある方と一緒に進めていけたらなぁと考えています。
(もしご興味がある方がいらっしゃいましたら、Instagramからご連絡いただけますと幸いです)
「町家を活かしていろんな人とまちを作っていきたい」
この家に住み始めてから、新しくやりたいことが沸き上がってきています。