映画のまち、創造のちから Vol.1/ 「子どもの映画教室」Report(前編)
2019年3月21日、山形ドキュメンタリーフィルムライブラリーで「子どもの映画教室」が開催された。山形コンベンションビューローと山形国際ドキュメンタリー映画祭が主催するこの映画教室は毎年3月が恒例となり、今年で9回目。普段見ることのない、もしかしたら考えたことすらないかもしれない、映画の「うら側」を探検し、映画を作ってみようという体験イベントだ。
山形ドキュメンタリーフィルムライブラリーは、1989年にスタートした山形国際ドキュメンタリー映画祭の応募作品を収蔵しており、ビデオブースで視聴することができる。映画に関する本や国内外の映画資料もたくさんあるのだが、探検はこの部屋の片隅からスタートする。
窓際に飾られた、古い16mmフィルム用のカメラのファインダーをのぞいてみよう。鋳物でできたカメラはとても重い。ボタンを押せば「ジャー」という音とともにゼンマイ(電気ではなく、本当にゼンマイ)仕掛けでフィルムが送られていく。小さな窓越しの世界はちょっと違って見えるはず。
次に探検隊が進むのは収納庫。普段は公開されていない特別な場所。ひんやりとした洞窟だ。ここにはたくさんのフィルムが収められている。銀色の缶をひとつ取り出して開けてみると、ベルトのようなものが芯に巻かれて円盤になっている。映画用の35mmフィルムだ。これもたいへんに重い。しかも小学生がやっと抱えられるこの大きさで20分ぶんぐらいしかない。1本の映画を上映するには、これが何巻も必要になる。
お次は試写室へ。映画の主演俳優の顔を穴が開くほど見つめたことはあっても、スクリーン自体をじっくり見たことはあるだろうか。スクリーンには最初から小さな「あな」がたくさんあいている。スクリーンの裏にはスピーカーが隠れているのだ。「学校の教室にあるスクリーンと違うよね。」と子どもたちにたずねると「教室?スクリーン?」と首を傾げる子。「でっかいテレビならある。」 OHP(も、たぶん知らないよね)やスライド写真(同)を映していた真っ白なスクリーンは、アイロンみたいな焦げた匂いとともにノスタルジーの彼方へ、か…。
探検隊が最後に辿り着いたのは映写室。客席の後ろ、スクリーンに向いた窓の向こう側だ。狭い部屋に35mm映写機が金剛力士像よろしく2台鎮座している。収納庫で見た、あの重たいフィルム円盤を1巻ずつかけてリレーで上映するためだ。
「操作してみたい人!」と呼びかけると何人かの手が挙がった。その前に、まずは客席の灯を落とす。映画には暗闇が必要だ。呼吸を調えてスイッチを押すと歯車と巨大なリールが廻り出し、映画が「助走」し始める。タイミングをはかって次のスイッチ。ランプから導かれた光がフィルムに当たると、スクリーンに映画が踊る。
さらに、レンズを動かして「ピント」をずらしたり合わせたりしてみる。意外とぼんやりした画もきれいだったりするが、それは上映ではあってはならないこと。フィルムはそれぞれ微妙に厚みが違うので、作品ごと、あるいは巻ごとにピントを調整しなければならない。
いったん映写機を止め、フィルムそのものを見てみる。
そんな機会はなかなか無いけれど、光にかざした映画フィルムはとてもきれいなのだ。細長いフィルムにはたくさんの写真が並んでいて、写っている人の位置が少しずつずれている。パラパラマンガのページを縦に並べたのと同じだ。映写機は毎秒24枚のページ(コマ)をめくる、「パラパラマンガめくり装置」なのだ。
何枚かの絵が次々に光に照らされ、レンズを通ってスクリーンに映し出されるのが、120年以上前に発明された映写機のしくみ。それなら手づくりできそうじゃないか。みんなで作って、みんなで見よう。
※写真提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭