映画のまち、創造のちから Vol. 2/ 「子どもの映画教室」Report(後編)
2019年3月21日に山形ドキュメンタリーフィルムライブラリーで行われた「子どもの映画教室」。
参加した子どもたちは、まずは映画の「うら側」、普段見ることができないフィルム収納庫や映写室に足を踏み入れ、映画を映し出しているフィルムが「パラパラまんが」で、映写機が「パラパラまんがめくり装置」であることを知った。
1895年12月28日、パリのグラン・カフェの地下でリュミエール兄弟(オーギュスト1862-1954、ルイ 1864-1948)によって行われたのが世界初の「映画上映」とされている。それから120年あまり、近年になって映写装置はデジタル化されたが、基本の仕組みは静止画の連続投影、やはり「パラパラまんがめくり装置」のままだ。
そう考えれば自分でも何とかできそう、それならみんなでつくってみよう、というのが今回のワークショップである。
手本にしたのは映画前史、フランスの発明家エミール・レイノー(1844-1918)が1877年に発表した「プラキシノスコープ」(絵を動かす装置)と、その発展形の「プロジェクション・プラキシノスコープ」(動かした絵を投影する装置)だ。
「プラキシノスコープ」は市販の組立キットを入手することができたが、今回重要になる“スクリーンに映す”手本にしたかった「プロジェクション・プラキシノスコープ」は、写真と広告イラストしか入手できなかったので、想像と試行錯誤を繰り返す必要があった。さらに、今回は簡単に入手できる材料で組み上げたい。日用品で映写機ができたら素敵ではないか。ホームセンターと100円ショップに足繁く通い、ストロー、ボビン、箸、クリップ、カードルーペなどなどを買いそろえて何とか試作品が完成したのは、参加募集が始まった後だった。
くるくる回すと絵が動く、スライド投影装置(むかし幻燈機と呼ばれていた)なので、「くるくるゲントウキ」と呼ぶことにした。
そして迎えた当日。
フィルムライブラリー探検で見た映写機のしくみをなぞるように、「くるくるゲントウキ」を組み立てていく。
ルーペと紙コップで作った映写レンズ。本体は段ボールと割り箸。映写ランプ代わりの光源になる小型のLEDライトはちょっと斜めにするのがコツ。
そして「フィルム」になる円盤づくりにとりかかる。
CD大の透明な円盤にカラーのペンで直接絵を描く。これが動く映像になる。
下書きしなくても大丈夫。どんどん描いて、その溢れる情熱で本体にまでオリジナル・ペイントをする子。じっくりじっくり考えて、きれいな模様を描き上げた子。3才の子が描くうずまきは、大人には真似できない独特のバランスだ。
そして、いよいよ完成した「くるくるゲントウキ」を持って試写室へ。
試写室の灯が落とされる。映写ランプがぼんやりと光る。光に向けてレンズをかざすと、自分が描いた絵がスクリーンに写る。「おーっ」と歓声が上がる。ちょっと小さいけど、きれいに映ってるよね。
さて、円盤を回してみると…。あれ? 動かない?
うーん。紙芝居みたい。
ちょっと早く回してみたら? 「あ、動いた。」
子どもたちが入れ替わり立ち替わり「ぼくの映画、わたしの映画」を上映していく。花が咲く、鳥が飛ぶ、魚が泳ぐ、アイスクリームが溶ける、車が爆走する。短いけれどそれぞれの映画ができた。
初めての「くるくるゲントウキ」は、キットとしての完成度は低かったかもしれないけれど、工夫しだいでもっと面白くなるだろう。さっそく帰りに材料を買いに行くという子もいた。 「もっときれいにうつしたい」 「いえでもいっぱいえいがをつくりたい」
映写機の仕組みだけではなく、暗闇で始まる物語に期待するわくわく感も、120年前から変わらない、と思う。たとえ小さくても、それが自分がつくる物語だったら、もっと嬉しいんじゃないか、とも思う。その思いを信じて、「みんなでつくって、みんなでみる」映画ワークショップと試行錯誤はつづく。
※写真提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭