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浮遊する音 – トニーニョ・オルタとミナス・サウンド

2019.07.10

 本年4月のギンガに続き、ブラジルを代表するギタリスト/作曲家/歌手のトニーニョ・オルタが、この9月に山形公演を行うことが決定した。ブラジルの押すに押されぬビッグネームが1年に2回も来県するのであるから、驚きを禁じえないという方も多いと思う。主催する我々ですら未だに信じられない。すでに30回余り日本を訪れ、日本のブラジル音楽界でも極めて人気の高いトニーニョだが、今まで地方での公演はほとんどなかったのだから。

浮遊する音 – トニーニョ・オルタとミナス・サウンド

 トニーニョ・オルタは、ブラジル南東部の内陸部にあるミナス・ジェラエス州の州都ベロ・オリゾンチに、1948年に生を受ける。ミナス・ジェラエスとは「鉱物全般」という意味で、その名の通りこの地は古くから鉱物の産地として名を馳せた地域である。

 海のない内陸で山に囲まれているそのロケーションは、過去に山形を訪れたミナス出身のアーティストによれば、景観が山形に似ているという。ミナスの音楽は、伝統的な土着の音楽、入植者たちがもたらした教会音楽、そして欧米のジャズやロック、クラシックなどの影響を受けて育まれた、ブラジルの中でも特異な存在である。それを代表する音楽家が「ブラジルの声」と言われるミルトン・ナシメントだ。リオで生まれミナスで音楽を研鑽したミルトンは、圧倒的で神秘的な歌声と、先進的でいて大地の香りが横溢する音楽性で世界的に多くのファンを持つ。

 トニーニョは幼少の頃より母親から手ほどきを受け、独学でギターを習得し、10代でミルトン・ナシメントに出会う。そしてミルトンを中心とした音楽集団「クールビ・ダ・エスキーナ(街角クラブ)」に参加。その後は順調にキャリアを積み重ね、ハービー・ハンコックやウェイン・ショーター等国際的ジャズ・ミュージシャンとも共演を果たした。パット・メセニーやジョージ・ベンソンなどにも大きな影響を与えたと言われている。

 ミナスの音楽、殊更にトニーニョの音楽は、しばしば「浮遊感」ということばで表現される。日本人の感覚からは全く想像しがたい旋律の展開、しばしば繰り返される転調と複雑なハーモニー、空を駆けるような、しかし柔らかい色彩感のギターのトーン、壮大でいて透明感を感じさせる音楽性が、重力から解き放されたような「浮遊感」もたらすのだ。こういうサウンド・クリエーションが、彼が「ミナス・サウンド」創世の立役者と言われる所以である。歌はお世辞にも上手いとは言えないが、生で聴くトニーニョの歌声は、暖かさの中に秘められた骨太の力強さを感じさせてくれる。

 今回の山形公演は基本的にトニーニョのソロの形をとるが、トニーニョの姪で素晴らしいシンガー・ソングライター、ヂアナ・オルタ・ポポフと、そのパートナーでベーシストのマチアス・アラマンが数曲でゲスト参加してくれる予定だ。通常は都会でしか開催されない貴重な公演を、ぜひあの文翔館の空気の中で堪能し、存分に「浮遊」してほしい。

浮遊する音 – トニーニョ・オルタとミナス・サウンド

浮遊する音 – トニーニョ・オルタとミナス・サウンド

Toninho Horta solo in 山形 / 2019.9.22 文翔館議場ホール(reallocal記事)

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