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第2回 クリエイティブ会議「高齢化社会とテクノロジー」2019.12.4 / Q1プロジェクト/REPORT 断片集

2019.12.25

第2回 クリエイティブ会議「高齢化社会とテクノロジー」2019.12.4 / Q1プロジェクト/REPORT 断片集

2019年12月4日、山形市立第一小学校旧校舎(現まなび館)にて「高齢化社会とテクノロジー」をテーマとするクリエイティブ会議が開催されました。ゲストに古川英光山形大学工学部教授と近藤テツ東京工芸大学准教授をお迎えし、Q1プロジェクト・ボードメンバーであるアイハラケンジ東北芸術工科大学准教授と馬場正尊東北芸術工科大学教授がモデレータを務めました。

ゲル素材の3Dプリンティング研究者である古川教授と、メディアアートやデザインなど幅広い表現活動を展開されてきた近藤准教授とを交えたクロストークは、ときに「やわらかいテクノロジー」や「クラゲ」といった不思議なキーワードで交錯しつつ、「高齢者こそがQ1プロジェクトの強力なドライバーとなるのかもしれない」ことを予感させるものとなりました。ゲストおふたりによるエッジ効きすぎのプレゼンテーションによって興奮と呆気に満たされたこのクリエイティブ会議。その一部ではありますが、交わされた言葉の断片をここに記録します。

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【Q1プロジェクト_ 第2回クリエイティブ会議】
開催日/2019.12.4
テーマ/高齢化社会とテクノロジー
場所/山形市立第一小学校旧校舎

【ゲスト】
古川英光/山形大学工学部 教授
近藤テツ/東京工芸大学 准教授

【モデレーター】
アイハラケンジ/東北芸術工科大学 准教授
馬場 正尊/東北芸術工科大学 教授
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【断片/Q1プロジェクトとは】

「クリエイティブのちからを産業経済へと繋ぐことで持続可能な地域社会をつくろう、というのがユネスコ創造都市ネットワークの基本的な考え方です。山形市は2017年のネットワーク加盟をきっかけに、第一小学校旧校舎を創造都市やまがたの拠点として再整備することを決定しました。その本格始動に向けた動きを『Q1プロジェクト』と名付け、2019~2020年度を『社会実験フェーズ』と位置付けて様々な機会を創出しながら『この場所で私たちは一体何をすべきか』『山形にとってこの場所を有意義なものにするためにどうすべきか』を考えつつ実験していくこととなっています。『クリエイティブ会議』はこのプロジェクトのコンテンツのひとつ。様々なアイデアや知見に溢れた研究者やクリエイターそして企業の方などに実際にこの場所に来ていただき、ここを現場としてどんなことを展開したらいいのか幅広くアイデアを出し合い、観客の皆さんに証人になってもらいながら、面白そうな企画は実際にやってみようぜ、という、いわば公開企画会議みたいなものなのです」(馬場正尊)

第2回 クリエイティブ会議「高齢化社会とテクノロジー」2019.12.4 / Q1プロジェクト/REPORT 断片集
モデレータの馬場正尊東北芸術工科大学教授

【断片/高齢者とテクノロジー】

「以前、古川先生にこのQ1プロジェクトの話をしたら『すごく面白いね』という感想をいただきました。と同時に『かつてこの学び舎で学んだご年配の卒業生の方やご高齢の方たちにも来てもらえるような場所にならなければならないんじゃない?』というご指摘もいただきました。すごく真っ当な意見だし、重要な視点だと思います。全国的にますます加速している社会の高齢化のなかで、この場所が地方発のひとつのモデルケースとなれたら良いですね」(アイハラケンジ)

第2回 クリエイティブ会議「高齢化社会とテクノロジー」2019.12.4 / Q1プロジェクト/REPORT 断片集
Q1プロジェクト・ボードメンバーであり、今回のクリエイティブ会議の仕掛け人であるアイハラケンジ東北芸術工科大学准教授(写真中央)

「アイハラ先生から、今回のクリエイティブ会議のテーマに『高齢化社会とテクノロジー』はどうですか? と言われたとき、クリエイティブというお題にそう返すのか! と驚きました。けれど冷静に考えてみれば、私たちがクリエイティブのちからで向き合わなければならないことは、まさにこれから直面しなければならない先鋭的な課題ですから、その意味では高齢者こそQ1プロジェクトにふさわしいテーマのようにも思いました」(馬場)

「Googleクリエイティブラボにいる友人からの依頼で、Googleのテクノロジーと高齢者ユーザーとのコラボレーションを考えるという仕事をしました。例えば若葉台団地という14,000人の住人が暮らすコミュニティの『声の掲示板』を作る実験的ソリューションであるとか。あるいは、凧づくりと凧あげが趣味である私の父親に、風速や天候状況に応じてどこで凧を飛ばすのが良いかを教えてくれる『凧アシスタント』を作るとか。長い間コンピュータプログラムやメディアアートやデザインで仕事して来た私ですが、今は高齢者に対してクリエイティブやテクノロジーをどう使ってあげられるかとか、どうやったら笑ってもらえるかということがすごく面白いんです」(近藤テツ)

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近藤テツ東京工芸大学准教授

「テクノロジーは魔法の玉手箱ではなく、素朴な感じで生活の中に溶け込むものなんです」(アイハラ)

「老人と子供は同じという言い方がありますが、違います。高齢者の人たちは、全てを知った上で生きていますから。必要がないから使わない、必要がないからやらない、というだけです。スマホのようなテクノロジーは使わなくていいんです。『それを使った方が良い』というベクトルは私たちからの勝手なベクトルであり、彼らに使わせようとしていることがまず間違いなのです」(近藤)

「こういう技術があるからどう使おうかという考え方に陥りがちなものですが、むしろ向こうからなにかのきっかけがあったりなにかをやらざるを得ないからそこにテクノロジーを使うというようなときのほうが、不器用な使い方をしているぶんだけかえって優しさを生む、ということが起こります」(古川英光)

第2回 クリエイティブ会議「高齢化社会とテクノロジー」2019.12.4 / Q1プロジェクト/REPORT 断片集
古川英光山形大学工学部教授

「これまでのテクノロジーというのはものをつくったり便利にしたりとても直接的なものでしたが、今一番必要とされているのは、人と人を繋いだり、機械と人が触れ合うときにどうしたらいいのかというところなんです」(古川)

「そこにあるニーズをどう実現するか、どう答えていくかというところにテクノロジーを使うほうが、多分合っているんです。自分たちが欲しているものをテクノロジーで支えてあげられることができたようなときに『これが欲しかったんだよ』っていう気持ちが発生したら、それは強いコンテンツになります」(古川)

「テクノロジーって、色のない透明ものだと思います。山形の生活にしかないようなものに透明なテクノロジーをかぶせて盛り上げていくというのがいいと思います」(近藤)

「クリエイティブというと若い世代を対象にしちゃいそうだけど、そうではなく、Q1プロジェクトのミッションを『高齢者の人たちに来てもらって楽しんでもらえるものにする』と設定するといいのかもしれない」(馬場)

第2回 クリエイティブ会議「高齢化社会とテクノロジー」2019.12.4 / Q1プロジェクト/REPORT 断片集
ゲル素材の3Dプリンティングによる最先端のチャレンジを紹介する古川教授のプレゼン。観客は度肝を抜かれました

【断片/クラゲ】

「含水率90%で驚異的なタフネスを持つダブルネットワークゲルという素材を過去に発表したとき、普及させたかったけれど結果的にはうまくいきませんでした。理由の一つは造形の精度が出せなかったこと。削っている最中に乾燥してサイズが変わっていっちゃうんですね。それがきっかけで、ゲル素材の3Dプリンティングを考えるようになったんです。最近私たちが開発に取り組んでいるものにソフト素材によるロボットがあって、ゲル素材でクラゲのロボットをつくったり、柔らかいハチ公像をつくったりしました。柔らかいっていうのはすごく面白くて、みんな触りたくなっちゃうんですよ。柔らかいだけで価値が発生する、というのが私たちの最近の気づきです」(古川)

「ずっとアートや音楽で世界中を飛び回ったり、メディアアートの表現をやってきました。2010年頃になるとデザインの仕事もやるようになり、そののひとつにすみだ水族館クラゲ展示スペースのデザインがあります。クラゲの拍動を撮影して動きをアニメーションに起こし、拍動を元に音楽もつくり、本物のクラゲの後ろでアニメーションを流すというようなことをしました」(近藤)

第2回 クリエイティブ会議「高齢化社会とテクノロジー」2019.12.4 / Q1プロジェクト/REPORT 断片集
近藤准教授の語る「テクノロジー」は柔らかさと優しさに溢れていた

【断片/VUI】

「ボイス・ユーザー・インターフェイス(VUI)というのは、キーボードやマウスを使う必要がなく、高齢者にとっても使いやすい新しいインターフェイスだと感じます」(近藤)

「スマホやPCなどのグラフィカル・ユーザー・インターフェイス(GUI)はグラフィカルな要素によって操作画面がつくられています。それは一応フィジカルに「触れる」ものだけれど、なかで展開されていることはフィジカルではないので、操作が結構難しい。一方で、ヒトというのはなにか命令するとき、オーラルなコミュニケーションをするものです。これはある意味とても「フィジカル」なコミュニケーションです。なので、VUIのようなフィジカルとテクノロジーを組み合わせたものというのは、高齢化社会の中で重要なカギになると思います。実際、子供も老人も、フィジカルの部分にはすごく反応するし、親和性が高いんです」(アイハラ)

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【断片/持続可能なエコシステム】

「こういう小学校旧校舎のような場所でなにかを新たに始めるとか、ここがどういう場所かを新たにアイデンティファイするとかいうときに非常に大事なのは、もともとここにいた人たちの歴史や考え方を大切にすることです。なにか新しいことをやろうとするときには古いものを排除してしまいがちですが、そうではなく、かつてここに来ていた人たちが楽しく入って来られるようにすることが持続するエコシステムに繋がります。小学生や若い人たちだけではダメで、高齢者の方たちにも開かれたものでなければ根付かないんじゃないか説、ですね」(古川)

「その地域のエコシステムを動かすためのドライバーとなるのがおそらく高齢者なのではないでしょうか」(アイハラ)

「ファブラボって、まさに3Dプリンターとかコンピューティングとかを組み合わせて、市民がテクノロジーを使って新しいことできるような実験室を作ろうというムーブメントですが、日本で実装しようとすると難しいんです。というのは、ガレージでものをつくったりフリマで商売をしたりという文化やマインドセットがアメリカには背景としてちゃんとあったからこそ『ファブラボがあれば使おう!』となるのに対して、日本にはそれがないんですね。なので、ファブラボをつくるなら、そのあたりのことも考えておきたいところです」(古川)

「例えばおじいちゃんやおばあちゃんが、3Dプリンターとかレーザーカッターとか最新の機器を使いながら、こういうのはこうやって作るんだよって子どもたちに教えてくれたり。高齢者のそういう知恵を引き出してあげることで、子どもたちも『おお、おじいちゃんってすげー』ってなると思うし、そういうことが大事です」(古川)

「一度外からの視点で客観視して、例えば郷土料理のような昔からここにある素晴らしいものを再認識できる場になるといいですね。おばあちゃんたちがここで郷土料理を出してくれたり、外国人に振舞ってくれたり、レシピが英語で表示されていたり、YouTubeで動画が流れていたり。おばあちゃんが喜ぶことをしてあげたいですね」(近藤)

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【断片/学校という文脈】

「ここには学校という文脈があるので、ラボをつくるなら、校長先生や教頭先生が必要です。名札とか机とか、ツールがつくり込まれることも重要な鍵になると思います」(アイハラ)

「ローカルコミュニティにおいて小学校が果たした役割は非常に大きく、校長先生なんて地域の正義の象徴です。校長先生が「よし」と言ったら全部OKみたいな感じです。ですから、かつて学校だったこの建物を使って何かをするなら、そうした学校のシステムや機能が多少備わっている方がやりやすくなる。校長先生必要説、ですね」(古川)

「学校のメタファーを取り入れることで新しいものに対応する。学校のシステムをうまい具合に配置するようなデザイン、ということだと思います」(アイハラ)

「校長先生のアバターがいる、とか」(古川)

「図工室みたいな場所があって、ものづくりの道具が置いてあって、誰でも自由に使っていい。そこには図工の先生役として山形の工芸とか折り紙とかを熟知したお年寄りがいて、そこで子どもたちとのコミュニケーションが生まれたり、繋がりができたりというのがいいですよね」(近藤)

report  那須ミノル

◆参考情報

古川英光/山形大学工学部 教授の関連動画

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