スタンダードへの道のり
にしてつバスナビ((株)からくりもの)
保有台数、全国1位。
年間輸送人員、全国1位。
年間走行距離、全国1位。
冒頭から何かと思うかも知れないが、これは2013年全国のバス運営機関における西鉄バスグループの実績だ。東京でも、大阪でもなく、福岡。それもそのはず、他の地域から天神へ訪れた人は、大抵があまりのバスの多さに驚く。毛細血管のように至るところに張り巡らされた路線に、無数の停留所。行き慣れない場所へ行こうものなら、殆どの人がしばらくの時間、路線図や時刻表と睨めっこすることになる。
この状況を憂いていた、1人の男がいた。株式会社からくりもの代表の岡本さん。
「福岡のバスは便利なんですけど、多すぎてわかりづらくてとにかく不安で。うまく調べられるアプリが作れたらいいなと思ったのがきっかけです」
それが、こちら。
このアプリひとつで、時刻・場所・所要時間など、複雑でわかりずらかったところを極力シンプルに、誰でも使えるようにまとめられている。なんと、遅延時間もリアルタイムに反映される代物だ。
ただ、インターフェースやデザインの秀逸さもさることながら、リリースまでの紆余曲折がこれまたとても興味深い。
元々は非公式のアプリだった。言わば、言葉は悪いが「勝手に作ったもの」。
2012年会社を設立後、技術やチームワークの向上を目的として、社内スタッフや外部の開発仲間らとに合宿を行い、この時に生まれたアイディアを元に制作した。それが前身のアプリ「バスをさがす 福岡」である。
合宿から約半年後にリリース。本業の傍らだったので時間はかかったが、これが当たった。
瞬く間に数千ダウンロード、伸びに伸びて最終的に6万に。これは地方発信の地場向けアプリとしては異例の数字だ。ユーザーからのレビューも好意的なものが多かった。無料アプリなので収益性は低かったが、多くの人のニーズに上手く対応できたことは大きな自信になった。
「でも、僕らずっと不安だったんです。勝手に作って西鉄さんに怒られるんじゃないかって」
人気が出たとはいえ、非公式は非公式。データベースも一部システムも西鉄のWEBサイトから引っ張ってきている。確かに不安になるのも無理はない。ただ、アプリを更に良いものにしなくては、ユーザーの声に答えなくてはという使命感もあった。そしてそれをクリアするには、どうしても西鉄が保有する非公開のデータベースが必要だった。データは欲しい、でも怒られる・・そんな葛藤の中、最終的に勝ったのは前者。ツテをつたって、恐れ恐れ会いに行くことに。幸か不幸か、西鉄の本社は当時のオフィスのすぐ側。それはとてつもなく大きな存在に感じられただろう。しかし、担当者の第一声はこうだった。
「このアプリ、使いやすくていいですね」
杞憂、拍子抜け・・怒られるどころか、褒められてしまった。自分たちが作ったアプリはご本家にも認められていた。残念ながらデータ提供については運営上の問題で叶わなかったが、とりあえずお墨付きを頂いたことで胸を張れる。それだけでも大収穫だった。
話はそれで終わらない。
約1ヶ月後になんと西鉄側から「このアプリを西鉄の公式アプリにできないか」という話を持ちかけられた。これには岡本さんも当初面食らってしまったそうだが、こんな機会そうそうあるものではないと思い、快諾。後の2013年12月に正式リリースが実現した。大変珍しいアンオフィシャルからのオフィシャル化。ものまねタレントの栗田貫一がルパンの本物の声優に、みたいな話が福岡発のIT開発現場でも起きてしまったわけだ。
「便利さで自由な時間を作る」これが株式会社からくりもののコンセプトだ。幸いにも、皆が持ち始めたスマートフォンによりWEB・アプリはより身近なものに、そして日々進化するプログラミング技術などにより、世の中に便利な“からくり”は提供しやすくなってきている。新しモノ好きが多く、ITコミュニティもほどよく密接なここ福岡なら、尚更だろう。
「福岡の、自分たちでつくりあげようとする空気が好きなんです」と岡本さんは語る。東京や、生まれ育った長野にも無い独特の空気感なのだそう。
いやはや、どうしても期待してしまうのは自分だけだろうか。この一筋縄でいかない感じの成功例、またあるのではないか、と。使う人のことを第一に考え、仲間を敬い、誠意を持って作った人に訪れる好展開。次はどんなモノができあがり、どう進化していくか。これからも岡本さんの活動に目が離せない。
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屋号 | 株式会社からくりもの |
備考 | 購入方法: 下記アプリマーケットよりダウンロード頂けます。 |