はじめての「冷たい肉そば」
real local山形チームがおすすめする現地グルメ
※山形へ移住したライター中島による、山形で体験するはじめての食べ物、イベントなどを記録するコラムです。
県外から家族や友人が訪ねて来てくれると、To doリストをつくります。せっかく遠くから来てくれるのだから、あそこの温泉に行って、あそこでお茶をして、あれを食べて、その後あれを食べて…と、効率よく最大限に山形の押しポイントを日程に詰め込む。
リストの中に絶対外せないものがいくつかあって、そのひとつが「冷たい肉そば」。いまのところ誰を連れていっても百発百中で「おいしい!」と喜んでくれるし、だいたいみんな驚く。かくいう私も初めて食べたときにはまったくの新しい食体験に「これはやられた!」と思ったのだ。
4年くらい前のこと。昼食でお蕎麦屋さんに入ったとき、ここは冷たい肉そばがおいしいから食べてみたらと友人から提案された。冷たい肉そばと聞いてもピンと来なかったし、なんの期待もしていなかったというのが正直なところだった。
器を触るとひんやりしている。スープをいただいてからは驚きの連続だった。からだに馴染む常温に近い冷たさ。肉の正体は鶏肉だった。鳥出汁がしっかりきいた醤油ベースのほんのり甘いスープで、さっぱりしている中にコクがある。
麺の上には薄めにスライスされた親鳥がのっていて、半生のジャーキーのように噛むとじわっと旨味が出てくる。麺はキュッと角がたった田舎そば風のコシがあり、トッピングの親鳥の弾力と小口切りのネギのシャキシャキと、歯応えのバランスがとてもいい。それをコクのあるスープで流し込む。
そういえば、最後の一口まで麺にコシがあったよなと後から気がついた。麺の歯応えも、油が凝固しない透明感あるスープも、あの常温に近い絶妙な冷たさが故だったのかと、帰りの車の中で膝を打った。
山形の暑い夏には「冷やしラーメン」という風物詩もあるけど、それとは違って冷たい肉そばは寒い冬でも季節を問わず食べられている様子。そもそも発祥を調べてみると、山形市から北へ車で30分くらいの河北町というエリアの食べ物だった。
戦後、地域の人は蕎麦屋でお酒を飲み、馬肉の煮込みをおつまみにしていた。ある日どんぶりに入れた盛りそばに馬肉の煮込みをかけてみたら思いの外おいしく、裏メニューとなっていまの冷たい肉そばになった、という説がある(かほく冷たい肉そば研究会HPより)。
山形の知り合いに河北町に隣接する寒河江市出身の人がいて、「冷たい肉そばならば、ぜひ河北町の名店でも食べてみてほしい」と言われたことがあった。山形の人からすれば、冷たい肉そば=河北町としっかり紐付けられているようだ。
山形県は村山、最上、置賜、庄内の4つのエリアで異国のように文化が違うとは言うけれど、さらに解像度を上げて見ていくと、山形市を含む村山地方の中にも市町村ごとにそれぞれ名物や異なる風習がある。小さな色濃い個性の集積が山形の奥深さやおもしろさなのかもしれない、そんなことを冷たい肉そばを前に思うのでした。
できれば本場で味わってほしい冷たい肉そばですが、お店によってオンラインでのお取り寄せもあるようなのでぜひお試しください。
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