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コロナ後のリアルライフ、リアルローカル

地域の連載

2020.05.10
コロナ後のリアルライフ、リアルローカル
2020年5月、山形市内の風景

生きるために、生きるリアルライフ

職場へ行くでもなく、学校へ行くでもなく、家にいる。仕事がどうなるかも分からず、いつ学校が始まるかもわからない。先は見えない。それでも家にいれば、3度の食事はすぐにやってくる。料理をし、今までやれなかった掃除や片付けをしていると一日がほぼ終わる。家の中で、生きるために、生きている。食材を調達しに近くのスーパーやコンビニに行き、運動不足のために近くを散歩し、地域の中で生きている。今は、ウィルスを避けて、生きる不安を感じながらも、生きるために、生きる。お金のため、仕事のため、ではなく。人はパンのみにて生きるにあらずというが、やはりパンはおろそかにはできない。

こんなに家での暮らしを見つめ直すこともなかったであろうし、公園や散歩道を探すこともなかったかもしれない。しかし、これがリアルライフ、そして、家の回りの環境がリアルローカル。リアルライフ、リアルローカルの現実の中、少しでもそれを充実させられるよう世界中の人々が勤しんでいるところだろう。そして、その巣ごもり生活の中で、生きていくために必要なものが見えるようになったのではないだろうか。

これまで世界はグローバル化へと突き進んできた。しかし、人や金、情報など都合のいいものだけがグローバル化するわけではない。人が気付かないミクロな生き物、ウィルスもグローバル化する。温暖化もグローバル化だ。そういうことによって、経済リスクもグローバル化する。これがリアルグローバルだ。グローバル化はまた、身の回りのものを見えないことだらけにする。マスクも、トイレットペーパーも、スマホも、製造業の部品調達は、作っている会社さえ追いきれなくなる。だから、グローバルリスクはどこでどんな影響をもたらすかが読み切れなくなり、デマも流れやすくなる。

 

生き方を変えるテレワーク

コロナが終息したとしても、あの濃密な接触を伴う満員電車に平気で乗ることができるだろうか。3密のリスクがすぐに脳裏をよぎるだろう。会社に行かなくてもテレワークで仕事はできた人は、これまで非人間的な状況と分かっていても、仕方がないとあきらめていた満員電車の通勤は、実は仕方がないものではないと気づいたはずだ。例えば、野村総合研究所が20203月末に行った調査(※1)によれば、5割強の回答者が「緊急時だけでなく平常時でも在宅勤務を取り入れた働き方をしたい」と回答しているという。満員電車に乗って、一日何時間も移動に費やすという暮らしはそもそも非効率的であり、日常生活としても大きな負担なのだから、当然のことである。満員電車に乗って会社に行かなければならないという呪縛に縛られていただけとも言える。

世界中の人が、家を中心に、地域で暮らすという体験をした。当たり前の暮らしのようだが、実はこれが当たり前ではなかった。特に日本では、家に帰っても寝るだけ、地域のことは何もわからないというような生活の人も多いだろう。その人達が家で料理をし、掃除をし、そしてテレワークで仕事をすることになった。テレワークは会社中心の生活から、家と地域中心の生活へと暮らしの場の重心を大きく移動させる。テレワークは働き方改革というよりも、生き方改革につながるものかもしれない。

テレワークという考え方自体はかなり前からあり、実は山形県では白鷹町にテレワークセンターが1994年に開設されている。その背景には東京への一極集中の是正があったが、当時はまだインターネットもスマホもない時代で、専用回線を引いての実験であり、本格的な普及にまでは至らなかった。その後、インターネット環境はずいぶん進み、その中で過疎化する地方の活性化のためにもテレワークという話は上がるも、大きなうねりになるとまでは至たらなかった。しかし、今回の出来事でテレワークは想像以上に受け入れられた。もちろんコミュニケーション上の課題もあるが、それを補って余りある移動の節約になる。もう東京に縛られる必要はないと感じた人も多いだろう。長く続いた東京一極集中が終わる可能性さえある。

 

新しい時代のリアルローカル

今回の新型コロナウイルスは全世界に広がり、日本の感染の中心は首都東京となった。地震や台風、様々な災害が日本を襲い掛かる中、戦後東京がこれだけ大きな災害に見舞われたことはなかった。災害はいつも地方の出来事であったが、今回は違う。これほど東京が危険な地域に映ったことはなかったであろう。地震のような災害はどこで起きるかわからないリスクだが、感染症は密度の高い巨大都市ほどそのリスクは高まる。そして、東京に極度に一極集中した日本の国土構造が大きなリスクを抱えていることが浮き彫りになった。

新型コロナウイルスはコウモリから発したという説が強い。自然環境とはこうしたウィルスをも抱えるものであり、我々はこれからも感染症という自然がもたらす災害に向かい合わなければならないということが今回分かった。グローバル化の中で引き起こされる地球温暖化や生物多様性といった環境問題と合わせて、感染症というリスクにも備える必要がある。そのためには、都市の密度を下げ、地域資源を最大限活用し、自立した社会の構築が必要になってくると考えられるが、環境省の描く地域循環共生圏(※2)などもその例である。

地方で暮らしていると、食料、水、エネルギー、生きていくために必要なものが地域の中にしっかりとあり、それによって生かされていることをリアルに感じることができる。しかし、そんな地方にあってもグローバルなものの流れの中に埋もれてきた。今もう一度、生きるために生きることを体現できる、リアルなローカルを再構築する時だろう。そこで生まれるリアルライフは決して暗いものではなく、情報技術を駆使した新しい時代の新しい生活様式たるものになるはずだ。

 

参考文献

(※1)野村総合研究所 未来創発センター、武田佳奈

「新型コロナウイルス感染症拡大に伴う人々の行動と意識の変化から見る「学び方改革」、「働き方・暮らし方改革」の可能性」
https://www.nri.com/jp/keyword/proposal/20200420

 

(※2)環境省「地域循環共生圏づくりプラットフォーム」
http://chiikijunkan.env.go.jp/