納豆餅 LONG TALK 3
郷土色の強い、山形の隠れた名物「納豆餅」。
しかしこれまで、納豆餅がもつ味わいの素晴らしさやその存在の価値の高さというものは、きちんと語られてきたと言えるでしょうか。そんな疑問と反省から、餅の星野屋店主・星野輝彦さんとリアルローカル山形のライター那須ミノルの対話が始まりました。
納豆餅について本気で語り合うという至福(?)の時間の模様を、全6回にわたって(!)お届けします。
納豆餅のおいしさとは?
納豆のポテンシャルに注目!
星野:納豆餅のうまさってなにかっていうと、餅に絡む納豆のタレの旨味です。それは納豆の表面についてる旨味成分、アミノ酸に由来するもの。つまり、納豆餅がおいしいのは、納豆がおいしいからなんです。ですから、おいしい納豆餅をつくるためには、おいしい納豆を手に入れないといけない。そういう方程式になります。
那須:奥義ですね。
星野:そうです。真理はここにあります。ふだんご飯にかけて食べる納豆って、まぁどんな納豆でも大体おいしいんです。でも、納豆餅にするとなれば、水で伸ばした醤油で納豆を混ぜて餅に絡めるわけなので、納豆は出汁として使うことになります。ですから、納豆からいい出汁が十分に出るかどうかが大事。しかも水気があって薄まるわけだから、旨味のポテンシャルの高い納豆が必要、ということになります。というわけで、おいしい納豆を探さなきゃいけないのです。
那須:なるほど。
星野:今、私たちの店で選んで使っているのは山形県産もしくは国産の納豆です。国産イコールおいしいとは必ずしも限りませんが、輸入品の大豆でないことはやっぱり安心感もありますしね。スーパーに行って「国産大豆使用」などと表示されていないものの多くはアメリカやカナダ、中国あたりからの輸入でしょう。
那須:そうか、納豆は大豆だから当然輸入も多いわけですね。
星野:ええ、でもやっぱり地元産や国産品を選びたい。価格的にそう高いわけでもないですしね。今うちで出している納豆餅の納豆は、山形県高畠町でつくられた納豆です。いろいろ探しては試して、これにしているんです。
ただ、納豆って、同じメーカーのものであっても、品質的にやや不安定なところがなくもないんです。例えば、豆の粒の大きさとか、発酵の度合いとか。ふつうにご飯にかけて食べるだけならそれほど気にならないでしょうが、それで納豆餅をつくるとなると話は違ってくる。トロッとしたとろみのあるおいしい納豆餅のタレにするためには、ある程度の条件が必要になってくるんですね。
那須:工業製品とは違って、発酵食品ですから、生き物みたいなものですもんね。お店で納豆餅をつくるたびにそういう品質チェックをするってことですか?
星野:納豆のパックをパカって開けた瞬間に感じるんですね。表情とか、糸の引き具合とか。
那須:表情?
星野:だってもう、おいしい納豆って豆の表面が白くふわ~って旨味成分が出てるから。ちょっと白っぽい感じで、ぎゅっと豆同士がくっついてるんです。見た目でわかります。
発酵しきれてないイマイチな納豆は、やっぱり未熟な感じなの。「あ、キミまだ発酵しきってないでしょ?」って気がする。こういうやつは、ご飯にかけるだけならいいけど、納豆餅にするにはちょっと弱いんですね。その意味では、納豆餅はごまかしがきかないんです。良い納豆でないとだめなんですね。
那須:なるほど。
星野:良くない納豆を使うとね、納豆餅の見た目もちょっと悪くなるんです。ですから納豆のポテンシャルが高くなきゃいけない。もう私はほぼほぼ納豆オタクみたいなことになっていますよ。スーパーで売られている納豆は一通り全部食べましたから。あ、あとは粒の固さも大事ですね、要素としては。
那須:食感に関わる?
星野:そうそう。納豆つくるときにたぶん大豆を茹でる工程で加熱しすぎで、明らかに柔らかすぎてダメだねっていうのもあるんですよね。
那須:それは納豆餅にはどう影響するんですか? 柔らかすぎて食感が悪い?
星野:うん、やっぱり程よい固さがいいですね。固すぎず、柔からすぎず。
あ、ちょっと話が変わっちゃうけど、山形の人って小粒よりは中粒もしくは大粒の納豆を好むんです。だから山形のメーカーは、やっぱりそこらへんのサイズのものをつくっているところが多いですね。でも大手メーカーはどちらかというと小粒をメインにしている印象があります。たしかに小粒おいしいですけど、私の好みは大粒ですね。
那須:山形では昔から中粒大粒が売られてきたイメージがあります。ぼくが子どもの頃は小粒なんてなかったような気がしますし。今でもやっぱり山形の人は中粒・大粒を好んでる傾向があるってことですね、特に、年配の人は。
星野:そう思いますよ。しかし、納豆餅にするのであれば、小粒サイズの方が表面積が多いぶん、旨味成分はより多く出るんだと思います、おそらくね。