納豆餅 LONG TALK 4
郷土色の強い、山形の隠れた名物「納豆餅」。
しかしこれまで、納豆餅がもつ味わいの素晴らしさやその存在の価値の高さというものは、きちんと語られてきたと言えるでしょうか。そんな疑問と反省から、餅の星野屋店主・星野輝彦さんとリアルローカル山形のライター那須ミノルの対話が始まりました。
納豆餅について本気で語り合うという至福(?)の時間の模様を、全6回にわたって(!)お届けします。
納豆餅のタレについての考察。
そして山形人のDNAのこと。
那須:納豆餅にこの先、なにか研究の余地とか新しい可能性はありますか?
星野:うーん、どうでしょう。もう動かさない、もう変えない、そういうもののような気がします。
那須:昔ながらの固定された味でいい、と。
星野:うん、伝統的なシンプルなものが一番おいしいんじゃないですかね。
那須:シンプルこそが納豆餅のおいしさだと。
星野:そう。結局最初の話に戻るけど、そういうことなんでしょうね。そして、やっぱり旨味が大事なんですよ。旨みがないと、ただ「しょっぱい」か「薄い」かしかなくなっちゃうから。旨みが加わってはじめて良い具合になるわけです。
那須:納豆の混ぜ方には何か工夫がありますか?
星野:混ぜすぎないこと。混ぜすぎると濁るし泡立っちゃうし、おいしそうじゃなくなっちゃう。納豆の表面の旨味成分を、醤油ダレに取り込む程度の混ぜ方で良いんです。
那須:私の実家で正月に母がつくる納豆餅は、星野屋さんで提供されているような汁たっぷりのタイプのものじゃなくて、醤油をかけたふつうの納豆を絡めただけの納豆餅だという記憶があります。シャバシャバ系ではないんです。星野屋さんで出されているこの水で薄めるシャバシャバタイプっていうのは、オーソドックスなものなのでしょうか?
星野:そう思います。確かにご自宅で食べるのでしたら、汁なしでも良いんです。ただ、汁なしだと、納豆がまぶさってるだけだから、すぐにくっついちゃうでしょ。それに、餅が喉に引っかかる可能性が出てきますから、年寄りには危険なものになる。ですから、汁気というのは、のどごしのためとも言えるんじゃないですかね。そういう意味で、店で提供するってなると、やっぱりある程度汁気が必要なんです。その代わり汁気が多すぎてもダメです。
那須:あ、多すぎてもダメですか?
星野:多すぎると今度は、旨味が薄まりすぎて、水っぽくなっちゃいます。
那須:さきほど納豆餅を、シャバシャバの汁気のあるタレでいただきましたが、なるほど、餅のツルツルが生きてて良いと思いました。それもやはり汁気の中に餅があるからですね。
星野:そうそうそう。そういうことだと思います。私が開発したわけじゃなく、すでに完成形だったものを受け継いでるだけでなんでしょうけどね。昔からこの山形の地域の奥様たちがつくっていたベストな食べ方というのが今でも残ってる、ということなんでしょう。
那須:もともと家庭から生まれた、自宅で簡単につくることのできるお餅でもある。
星野:そうですね、その意味では納豆餅っていうのはかなりフレンドリーなお餅でしょうね。「ひっぱりうどん」みたいな感じの食べ方じゃないですか? 醤油で、ネギで、納豆で。ツルツルだし。
那須:やっぱりこういうのが大好きなDNAっていうのが山形の人間にはあると。
星野:あると思いますよ。ひっぱりうどんとほぼ同じですもん。味付けが。もちろんサバ缶入れるか入れないかの違いはあるけど。
那須:なるほど、じゃあ逆に納豆餅にサバ缶が入る可能性もなくはない?
星野:どうでしょう、食べたことないですけど…。まずいことはないでしょうね。もしかしたら、サバ缶いいかもね。納豆餅にサバ缶合わせたらおいしいかもしれない。