納豆餅 LONG TALK 6
郷土色の強い、山形の隠れた名物「納豆餅」。
しかしこれまで、納豆餅がもつ味わいの素晴らしさやその存在の価値の高さというものは、きちんと語られてきたと言えるでしょうか。そんな疑問と反省から、餅の星野屋店主・星野輝彦さんとリアルローカル山形のライター那須ミノルの対話が始まりました。
納豆餅について本気で語り合うという至福(?)の時間の模様を、全6回にわたって(!)お届けします。いよいよ、最終回です。
シンプルだからこそ
ごまかしがきかない食べ物。
那須:納豆餅の醤油については何かありますか?
星野:やっぱりいい醤油を使いたいと思っていて。今は、県内にある醤油屋さんの無添加の丸大豆醤油を使っています。やっぱりおいしいんですよね。
那須:何が違います?
星野:香りも違うし、尖ってない。大手メーカーのものとは製法的にも材料的にも明らかに違いますしね。
那須:なるほど、やっぱり話は最初に戻りますけど、ごまかしの効かないものなんですね。納豆餅というものは。
星野:そうなんです。材料が少ないだけにそれぞれのその持ち味を生かさないとおいしい納豆餅ができないです。
那須:深いなぁ。
星野:深いですよ。中途半端な材料だとやっぱりふつうの味でしかなくなっちゃうから。私たちは餅でお金をいただくわけですから、やっぱりいい材料、あるいはよく吟味した材料を使いたい。決して高級な素材というわけではないけれど、しっかりと吟味したものだけを使う。まあそれは、当たり前のことでもあるから、別に「こだわってます」とまで謳ったりはしないですけどね。
納豆餅のポテンシャル。
山形の名物になり得ないのか?
那須:県外の人が「食べたことがないから食べに来た」って納豆餅を目的にお店に来てくれることもあるわけでしょう?
星野:ありますあります。「いちど食べてみたくて」って注文してくれるひと、いますよ。
那須:それって名物になり得るってことじゃないですか?
星野:そうかも。すでに山形に来てもらえるきっかけになってるでしょうね。
那須:実は山形にとって「納豆餅」って重要なコンテンツなんじゃないですか?
星野:かもしれないですね。
那須:今すぐにでもやっぱり「納豆餅」っていうでっかいノボリつくったらどうですか。
星野:カッコ悪くないです?「納豆餅」のノボリって。
那須:ほら。こんなに旨いのに。これを目指して県外からも人が来てくれるのに。「なんか貧乏くさい」とか「かっこわるい」と自分で勝手に思って恥ずかしがってしまっている!
星野:ふふ、県民性ですね。県外の人から見たら「あ~すごい魅力的だね」って言われるかもしれないけど「いやいやいやいや、うちなんかねぇ」みたいな感じが、ね。
那須:でも、本当の名物ってそういうことですよね。山形牛が名物だからって、ぼくら毎日山形牛食ってるわけじゃないですしね。
星野:スペシャルなものですもんね。
那須:その意味では、より日常的な名物である納豆餅をこそしっかり推していきたいですね。
星野:そうかもしれませんね。
那須:「納豆餅」っていう、改めてとりあげると自分たちとしてはちょっと恥ずかしいみたいな存在のなかにも、実はおいしくするコツがあったりとか、毎日食べても食べ飽きないような本当の意味でのおいしさがあるとか、そういうことをもっと大事にしないといけないんだろうなと、このトークを通して確信しました。ちょっと熱くなってしまってますけど。
星野:山形の「だし」もいつの間にか全国区になりましたもんね。あれだって、家庭でしか食べないような料理だったし、まさか外にむけて紹介するものとはだれも思っていませんでしたもんね。そういうものかもしれませんね。
那須:そんなところで。
山形餅団子会議、第1回シリーズ「納豆餅を語るロングトーク」。これにて終了です。ありがとうございました。
終わり。