「クラススタジオ」片桐賢久さん
移住者の声(Uターン)
2019年10月、七日町に「クラススタジオ」がオープンしました。山形市のシンボル、文翔館の向かいに立つ築約50年のビルをリノベーションしてつくられたシェアスタジオ。約120平米の広々した明るいワンフロアにはファニチャーやオープンキッチンが備わり、スチールから動画まであらゆる撮影が可能な空間です。
クラススタジオは、リノベーションまちづくりや事業づくりについて実践的に学ぶ「(第2回)リノベーションスクール」を経て生まれました。リノベーションスクールと工事の過程のレポートに続き、今回はオーナー片桐賢久さんのインタビューをお届けします。オープンして1年が経ったいま、開業までの道のりとオープン後の変化についてうかがいました。
まちをつくる事業者へ
片桐さんは山形県川西町出身。高校卒業後に東京のマスコミ系の専門学校に進学したのち、アパレル業界への転身をきっかけに山形へUターン。山形市七日町にあるアパレルショップでの勤務、建築系の職業訓練校を経て地元の不動産屋に就職し、賃貸物件の管理を行っていました。
日々の仕事を通じて空き物件を活用する事業ができればと思い、第1回リノベーションスクールに参加。そこでまちづくり関係者や地元プレーヤーたちとのつながりが生まれ、自分でもなにかアクションを起こしたいという気持ちが芽生え始めたといいます。
数年後には第2回リノベーションスクールが開催されて再び参加。そこで現在のクラススタジオとなった七日町の「工藤ビル」と出会うことになります。
文翔館の向かいにある、地域の名門塾「工藤塾」が入ったビル。当ビルの4Fが対象スペースで、当時は物置として使われていました。もともとこのビルは気になる存在だったそうで、広いワンフロアとして使えそうなコンクリート躯体のビルにいろんな活用の可能性を感じていたといます。
建物の持ち味を引き出すリノベーション
リノベーションスクールを経て、シェアスタジオとカルチャースクール、そしてイベントスペースが融合した空間をつくることに決めた片桐さん。
3つの部屋に分けていた壁を取り除き、約120平米、天井高は約3.5mの大きなワンフロアに改修。天井をぬいて壁を白く塗り、床はピータイルをはがしてクリアな塗料を塗ったのみの、全体として既存の質感を生かしたリノベーションです。3面の窓から空間全体に自然光がまわり、撮影スタジオにぴったりの明るい空間に仕上がりました。
料理系のイベントや撮影もできるようにと、業務用の冷蔵庫や冷凍庫、ガス代、オーブンも揃ったキッチンを設置。物撮り用にさまざまなパターンの背景や素材感を見せるため、複数のタイプの家具も置いています。古材の寄木のカフェテーブルやハイテーブル、窓の手すりは地元の金属加工業者さんによるオリジナルの造作家具です。
社会の変化を受けとめる
こうしてリノベーションスクールの10ヶ月後、2019年8月にクラススタジオがオープンしました。主な機能としては、写真や動画撮影用のスタジオ、イベント用のスペース貸し、そしてカルチャースクール。
スタジオ機能としては、プロのカメラマンだけでなく、セルフスタジオとして機材をレンタルしお父さんやお母さんが子どもを撮影したり、趣味としてカメラを楽しみたい人が自由に使える場所をイメージしています。
このビルが塾という背景から生まれた大人も学べるカルチャースクールやイベント貸しのサービスでは、オープン以降、スペース貸しとしてアーユルヴェーダ教室やお花の教室が開催されているほか、キッチンを活用したイベント「美食倶楽部」の定期開催やカメラサークルなど、クラススタジオによる自主コンテンツも企画してきました。ところが2020年春から新型コロナが発生し、イベントや教室の開催が難しく、試行錯誤が続いているといいます。
「イベントやスクールについては、当面は無理に集客をせず、使いたいと言ってくださる方に対して、安全に自由に使っていただくという考え方で運営しています」
こうして新型コロナで人が集まれなくなったいま、片桐さんはスタジオの持ち味を生かし「動画配信」という新たな一手を打ちました。
これからは配信の需要が増えるだろうと、そうであればクラススタジオを配信スタジオとしても活用してほしいと、高画質配信の機材一式を完備。すると、ある企業の創業パーティーの様子をライブ配信したいとの依頼が舞い込み、SNSを通じて徐々に広がりをみせています。
「先日は結婚式を配信しました。スクリーンに並んだリモートゲストの祝福している姿を拝見し、私もグッと来てしまったりして…。リアルが出来ないからリモート、というマイナスな考えではなく、リモートがリアルを補完するような新たな結婚式のスタイルが誕生した気がします」
そのほか、企業の新入社員向けの説明動画の撮影やテレビ局の番組収録など、動画撮影が全体の7~8割に伸びているといいます。写真と動画、そしてライブ配信へ。社会の変化やニーズにそって変化していく、片桐さんの柔軟な発想のあらわれです。
「振り返ると、その時々の趣味や嗜好でいろんな仕事を渡り歩いてきました。なにか一つのことに絞り込むよりも、いろんなことを組み合わせて変化させていくのが自分のスタイルなのかもしれません」
最近ではクラススタジオのオリジナルコンテンツとしてトーク番組の制作と配信を行っているそうです。
大家さんであり、ベンチャーの先輩でもある工藤さんの存在
クラススタジオの創業は、工藤ビルのオーナー・工藤雅史さんの存在なしでは語れません。リノベーションスクールから片桐さんをあたたかく見守り、応援し続けてくれたといいます。工藤さんは現在70代でいまも現役で塾を営んでおり、ほぼ毎日同じビルの2階の塾にいらっしゃるので、たびたび顔を合わせてコミュニケーションをとっているそう。“起業家の先輩”として、工藤さんから学ぶことがとても多いと片桐さんは話します。
「いい大家さんに巡り合えたこともクラススタジオを始める大きな動機のひとつとなりました。計画時から応援してくださっていて、完成した空間をお披露目したときは『違う場所に来たみたいだ』と驚き、喜んでくださったことが、なにより嬉しかったです」
「日頃から工藤さんと話していると、工藤さんはとてもイノベーティブであり、いまでいうベンチャーのような精神を持ち合わせていらっしゃる方だと感じます。大学で東京に出られ、県職員などを経て、25歳くらいのときにはこのビルで工藤塾を開業されたと聞きました。今から50年ほど前、この一等地にビルを構えるとは相当なことだと思います。
ご自身の経験を踏まえてアドバイスをいただくこともあります。開業時には『自分も塾を始めて3年は赤字で大変だったけど、そこを乗り越えると軌道にのってくるからそこまで諦めず頑張ってください』という言葉をかけていただきました。この言葉がコロナ渦でとても励みになりました」
ここは山形の中心市街地の中でも品格がある落ち着いた雰囲気をまとうエリア。クラススタジオにいると時間を忘れそうになるほど穏やかな空気が流れています。
「この場所をきっかけに、まちの人がクリエイティブなことにチャレンジしたり、楽しく使っていただけることが自分にとって一番嬉しいことです。それが結果的にまちの盛り上がりにつながっていけばいいと思います」
空き物件を再生しまちをつくる事業者として船を漕ぎ始めた片桐さん。社会の変化に柔軟に対応しながら、あらゆるまちの人の要望を受けとめるクラススタジオの挑戦は続きます。
class studioの最新情報はこちらから
https://www.instagram.com/class_studio_2019/
撮影:伊藤美香子
取材・文:中島彩
屋号 | class studio |
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住所 | 山形県山形市七日町3-5-18 |