北九州の建築をめぐるvol.1/建築好きが注目するまち・北九州市
北九州の連載
建築好きのあいだでは「建築シティ」とも呼ばれる北九州市。
都市と自然とが程よいバランスで共存するこの街には、その風景に溶け込むように、個性的で魅力的、そして価値ある建築が点在しています。
89か所にも及ぶ建築と景観を紹介する冊子「ARCHITECTURE OF KITAKYUSHU 〜時代で建築をめぐる〜」と、そこで紹介されている北九州の建築を5回にわたって紹介します。
第1回目では、冊子を制作した北九州市の伊東さんをインタビュー。「時代」と「場所」を切り口に編集したことで見えてきたものとは?
──まずは「ARCHITECTURE OF KITAKYUSHU 〜時代で建築をめぐる〜」が制作された経緯を教えてください。
「昨年、北九州市で日中韓3カ国の文化交流事業『東アジア文化都市北九州2020-21』の開催が決まり、市外や国外から北九州市を訪れる方々に、建築や景観という角度から北九州市の魅力を伝えよう、と声が上がったのがスタートになります。
市内の建築物すべてを見てまわることは難しいだろうから、おみやげとしてお持ち帰りいただいても見応えのある、おもてなしのツールになれば、と考えました。
2020年3月の発行のタイミングで新型コロナウイルス感染症の流行があり、観光で来てもらうことは難しくなりましたが、『東アジア文化都市北九州2020-21』も2021年12月まで延長されましたし、落ち着いたらぜひ北九州に足を運んでいただいて、まちと建築を楽しんでほしいですね」
──どういうコンセプトで編集されたのでしょうか?
「この冊子では、建てられた『時代』と『場所』という視点から、北九州の建築や景観に触れてもらうことを意識しました。
北九州市は5つの個性あるまちが合併してできた市です。古くは城下町として栄えた『小倉』、明治以降港湾都市として発達した『門司』と『若松』、日本の近代化を支えた工業都市『八幡』、実業家の邸宅なども多く残る『戸畑』。それぞれのまちに歴史があって、建物からもその特色がうかがえます。
年代ごとに建築を追うことで、そうした北九州全体の歴史が見えてくると考えました。それをより感じてもらうためにこだわったことが、各時代のトップメージにその時代を表す文章を入れたことです。たとえば1800年頃〜1950年頃のページには『貿易と産業にわいた活気あふれる近代』という文が入っています。その時代に思いを馳せる手掛かりになればと思っています」
「もうひとつこだわった点は、写真を大きく、たくさん載せた点です。当初から海外からのお客様にも配りたいという目的があったので、写真を見るだけで楽しめて伝わることを意識しました。
実際、日本語版・英語版ともに好評をいただいています。市民や留学生などが地元の建築に興味を持ってくださるきっかけになれたのはうれしいですね」
──たくさんの特色ある建築を一冊にまとめてみて、改めて感じたことは?
「巻頭で、建築を年表にまとめてみて感じたことなのですが、時間の流れに沿ってまちの物語がはっきりと見えることに驚きました。
明治から昭和初期にかけて国際港として繁栄した門司区のレトロ建築の豊富さは、目を見張るものがありますし、若松区の港湾地区の建築もかつて石炭の積み出しで賑わった時代を感じさせます。
八幡東区や戸畑区の建築からは、製鉄で栄えた時代がありありと思い浮かびます。戦後になってくると小倉北区中心に個性的な建築物がたくさん造られ、歴史ある建物と新しい建築が一体化した、現代のまちの風景ができあがってくる。年表を眺めるだけでもおもしろいと思います」
──今後、北九州の建築を知ってもらうために取り組んでみたいことは?
「実は、観光課主催の建築とグルメを組み合わせたツアーの企画に協力していたんです。1月の緊急事態宣言で中止になってしまったのですが、定員満席となる応募をいただいていたので、手応えは感じています。
予定していたツアー内容は、“日本の灯台の父”と呼ばれるリチャード・ヘンリー・ブラントンさんが建築指導した門司の部埼(へさき)灯台や、北九州市立美術館をはじめとした磯崎新さん設計の建築などをめぐり、辰野金吾さん設計の西日本工業倶楽部でミニフレンチを楽しんでいただくというものでした。北九州の建築とグルメを楽しむ企画は、時期をみて再度企画すると伺っています」
──最後に、伊東さんおすすめの北九州の建築を教えてください?
「北九州市立中央図書館・文学館が好きですね。磯崎新さんのアーチ建築は外から見ても素晴らしいですが、中も天井が高く開放的。ゆっくり過ごせる場所です。
北九州市民にとっては見慣れた建築だと思いますが、“建築界のノーベル賞”とも呼ばれるプリツカー賞を受賞された建築家の作品だと思うと、贅沢ですよね」
歴史的な価値や意味を感じる古い建築から、モダンで斬新な新しい建築、そして有名建築家による建築まで、さまざまな個性が混在しているのが北九州の建築の魅力。
「建築の専門家が『北九州は建築の美術館だ』とおっしゃっていました」と伊東さんがいう通り、建築冊子「ARCHITECTURE OF KITAKYUSHU 〜時代で建築をめぐる〜」は美術館並みの見応えがあります。
北九州市に暮らしていると、あたりまえに見えていた風景が、実は価値あるものだったのだと気づかせてくれる一冊。改めて北九州の魅力に触れるきっかけとなったこの冊子は、電子ブックとしてダウンロードも可能です。
市外、県外、そして世界の方にも北九州市を自慢したい。そんな思いにさせてくれた建築冊子でした。
ぜひ、たくさんの北九州の建築を巡って見てほしいと思います。
(文:岩井紀子)
89か所にも及ぶ建築と景観を紹介する冊子「ARCHITECTURE OF KITAKYUSHU 〜時代で建築をめぐる〜」。そこで紹介されている北九州の建築を5回にわたって紹介します。
「北九州の建築をめぐる」連載
名称 | ARCHITECTURE OF KITAKYUSHU 〜時代で建築をめぐる〜 |
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備考 | [企画・編集] |