【愛知県名古屋市千種区】大人のダイナーで 「食」から始まる街づくり。
インタビュー
東山動植物園の向かいで2021年3月にオープンした洋食堂「コアラド」。今池で人気の喫茶店「シヤチル」の姉妹店ではあるものの、こちらは食事利用を目的とした大人のダイナーです。店舗設計士としてのキャリアを持ち、店づくりからメニューまで、ディレクションに携わる安井俊介さんに話を聞いてきました。
“食”は街の核になる。
武蔵野美術大学でインテリアデザインを学んだ安井さん。内装デザインだけでなく、お店のコンセプトから携わる設計事務所で経験を積んだ後、手掛けたレストランのオープニングスタッフとして働くことに。
「お店を作るだけでなく、それを運営することにも興味がわいたんですね。大学在学中から、将来は食に関わることや、もちろん飲食店もやってみたいと思っていました。
“食”は街の核になるもので、人が集まるところ。そこに関わりたいというのが大きいです。飲食店のすべてを学ぶために、できたものを動かしていく立場を経験したいと思いました。」
その後、ワーキングホリデーを利用して渡英。ロンドンで2年間を過ごす予定が、わずか半年で帰国することに。
「相方で料理人でもある山本と出会ったのは大学時代。彼のお店の内装を手伝ったのがきっかけです。その彼が新しい店を立ち上げることになり、相談がありました。
当時から、いつか一緒に何かをやりたいと話していましたが、このタイミングでないと一緒にできないと思い帰国を決意。帰国前に3ヶ月間の猶予をもらって、ヨーロッパをとにかく巡りました。いろんな建築物や飲食店を見て周り、できる限り自分の引き出しを増やしてから帰国しようと思いました。」
わざわざ足を運んでもらえる店。
帰国から間もなく、2018年に千種区今池でオープンした喫茶店「シヤチル」は、昔ながらのレトロ喫茶と、現代にあるモダンカフェの要素が共存した独特なスタイル。
喫茶が先行したものの、2021年にオープンした洋食堂「コアラド」は同時構想だったと言います。そしてコロナ禍でのスタートとなったのは、「今だからやれる。こういう時こそ動いた方がいい。」という判断からでした。
もともと名駅・栄エリアを考えていたのに、東山公園エリアに決めたのは、本のセレクトショップ「ON READING」の存在が大きかったと言います。
「コアラドの近くには、わざわざ足を運びたくなる本屋 ON READING があります。オーナー夫妻による丁寧な選書に定評があり、併設するギャラリースペースでは様々な展示会が企画され、ライブやトークイベントなども開催されます。
街中でなくても人を呼ぶ力があり、文化を発信しているところに惹かれます。この本屋さんが近所にあることが、ここで店を開くことに背中を押してくれました。そしてコアラドも、わざわざ足を運んでもらえるような店になって、東山公園エリアに人を呼ぶ力となっていきたいですね。」
ジャンルレスなメニューを楽しみに。
コアラドの店舗デザインは安井さんの大学時代の同期であり、同志でもあるデザイナーさんに依頼されたのだとか。長年いいと感じるものを共有し、信頼関係ができている二人だからこそ、阿吽の呼吸でつくり上げることができたと安井さん。
ちょうど什器を決めていくタイミングで、栄にある老舗の純喫茶「ペリカン」が閉店することに。お店の人に尋ねて、クラシカルな椅子を譲り受けることができたのだそうです。
また、しっかりとしたご飯が食べられる大人のダイナーであるコアラドでは、エビドリアやカツサンド、シンガポールチキンライスなど、とにかく多彩なジャンルのご飯が楽しめることも大きな特徴。メニューの考案者はもちろん安井さん、山本さんです。
「基本的には、設計が僕で、施工が山本です。彼はオーナーでもあり料理人でもあるので、食堂やダイナーを得意としていて、喫茶店のシヤチルではできない、もっと食に踏み込んだことがコアラドならできます。ふらりと立ち寄った人も、毎週のように来てくれる人も、いつでも食事を楽しめるように、いろんなジャンルのメニューを提案していきたいと思っています。」
一方で、店先に併設された「露店喫茶シヤチル」では、シヤチルの定番メニューがテイクアウトできるようになっています。人気の「愛す最中」は、金沢の専門店に特注しているサクサクした最中の皮を使用し、クリームソーダ味のアイスは食感から爽やかさを追求するこだわりぶり。
これらのメニューも店内で食べられるようにと、テイクアウト用のイートインスペースとして、近々2階を開放する予定なのだとか。
“食”から始まる街づくり。
あえてマーケティングをせず、「自分は何がしたいのか」を追求し、「自分がいいと思うこと」を提案し続ける場所にしたいと言う安井俊介さん。その中で、いつも意識しているのは「食と街づくり」だと言います。
「豊かな街づくりには、まず飲食店が核になり、人が集まる場所が生まれることから始まると思っています。それを実感したのが20年前の天王洲。当時、何もなかった天王洲に倉庫を活用したレストランができたことで、人の流れが一気に変わったことを大学時代に目の当たりにしました。
飲食店が1つできたことで町が変わるんだ!と思いましたね。
そういうところまでいきたい。僕は地元が好きだから、店をやるなら名古屋と決めていたし、その地元を盛り上げる一人になりたいと思っています。」
シヤチルはもともと大人の男性客をイメージして作られた喫茶店だそうですが、今では若い女性客からの支持が高く、「シヤチルができて、若い人たちが今池に来るようになった」と言われるほど。
実際に人の流れを変えていく力になっています。コアラドもまた、少しずつ街に理解されながら根付いていく存在となり、“食”から始まる街づくりを実践していきたいと話してくれました。