繊維産地の魅力に迫る「セコリ移住計画」金沢編
2016.08.25
7月1日より実験的プロジェクト「セコリ移住計画」が始動しました。
ショップとギャラリーとカフェを合わせたものづくりコミュニティスペースとして2013年から東京の月島で運営を行ってきた「セコリ荘」。2015年には犀川沿いに「セコリ荘金沢」がオープンしました。(詳しくはこちらの記事で)
東京・月島の「セコリ荘」。 2015年にオープンした「セコリ荘 金沢」。
普段、セコリ荘は週末のみの営業で、平日はスタッフ総出で各産地の工場に赴き、さまざまな企業さんと素材・製品づくりの打ち合わせをしたり、契約媒体さんの記事を制作したりしています。
取材してきた内容は雑誌やウェブメディアやSNSでも発信していますが、セコリ荘というリアルな場に実際にそれらを集め、人や素材の新たな出会いを生むことを大切にしてきました。
「セコリ荘 金沢」内の素材のショールーム。全国の産地から約30社の素材サンプルが並びます。デザイナーさんにご提案して製品化に展開することも多いです。
その中で「現場まで同行したい。一緒に生産の背景を見学したい」というリクエストをいただくことも度々ありました。そこで、産地とのハブを担うコミュニティスペースとして運営してきたセコリ荘が、もう一歩現場に近い場所で新しいコミュニケーションを生んでいこうと始動したのが、実験的プロジェクト「セコリ移住計画」です。
一定期間、東京のセコリ荘を閉めて拠点を産地に移します。この期間にデザイナーさんを産地に招き、素材とのマッチングや現場訪問のアテンド&交流会、一般の方向けの工場ツアー、ワークショップなどを企画。より現場の近くに拠点を移すことで、取材や工場との素材開発・企画の濃度もぐっとあがります。
また、期間限定の活動拠点を「セコリレジデンス」と名付けて、このスペースを解放し、見学者や参加者の宿泊先の確保までできればと考えました。
活動拠点を「セコリレジデンス」と名付けました。
最初の移住地は「セコリ荘金沢」のある石川県金沢市。石川は伝統と最先端のものづくりが多様に共存する国内有数の繊維産地でもあります。
石川県のものづくりの現場に潜む魅力を多くの方にも触れてもらいたいと思い「一般社団法人日本テキスタイル協会」と共催で「加賀糸へんツアー」と題して、「セコリ移住計画」スタートと同時に2日間にわたる工場見学のバスツアーを開催しました。
「加賀糸へんツアー」初日は市内にある繊維機械の製造メーカー「津田駒工業株式会社」のショールームからスタート。最新のハイテク織機が稼働する様子を見学しました。 バスで移動すること約40分。能美市にあるポリエステルを中心とする表情豊かなジョーゼットやサテンなどの薄地素材を得意とするテキスタイルメーカーの「白龍」を訪問。生地を織る下準備は職人の手仕事が欠かせません。 初日最後の訪問先は小松市にある先端ファブリックメーカーの「小松精練株式会社」に。ファッションからナノテク素材まで、染色を基盤に多彩な事業領域をカバーする同社では、世界最先端の素材づくりの魅力に触れることができました。 「加賀糸へんツアー」2日目。白山市にある「牛首紡(うしくびつむぎ)」の工房を訪問。この工房では、蚕の繭を熱湯で煮立てながら素手で糸を紡ぎだす「座繰り(ざくり)」と呼ばれる伝統技法が継承されています。 昼食後は市内に戻りました。金沢を代表とする伝統工芸の「加賀友禅染」の職人技を目の前で見学しながら、実際に絵付けの体験を行ってきました。 ツアーの締め括りは市内の金箔メーカーを訪問。金沢は全国生産量の99%を誇る「金箔」の生産地です。1/10000ミリ薄さまで叩き伸ばされた金箔を裁断する工程の前では思わず息を止めて見入ってしまいました。
バスツアー以外にも、「セコリ移住計画」中は、関東、関西からのデザイナーさんと一緒に石川の工場の訪問を重ねました。
車を走らせると数十分圏内で様々な現場に足を運ぶことができます。生産者さんと一緒に素材開発、商品開発の打ち合わせを行いました。
能美市にあるネクタイの生地をつくる工場。シルクを中心に天然素材(綿、麻、ウールなど)の糸を使って生地を織り上げています。
かほく市は細幅織物(平ゴムや包帯など)の産地です。この地域には高品質な服飾資材をつくる工場さんがたくさん集まっています。 小松綸子(りんず)と呼ばれる独自の織物で栄えた小松市には、立体的で綺麗な織柄のジャカード生地をつくる工場があります。 鶴来(つるぎ)市にある工場では、ブランドのロゴや名前を表記する織りネームがつくられています。一点一点、細部までしっかり再現されたネームが並んでいました。
時間の許す限りさまざまな工場さんへ取材、アテンド、ミーティングを行いましたが、今回では回りきれなかったところもまだまだあります。さすがは「繊維王国いしかわ」です。
金沢滞在の20日間はあっという間でした。
「セコリ移住計画」は、移動編集部でありショールームであり企画室であり、レジデンスであるような、まだ未知数の実験的プロジェクトです。リアルの場である「セコリ荘」と連動して、今後も産地との接点をつくっていきたいと考えています。産地ごとのものづくりの魅力をセコリ荘が独自にキュレーション(取材して発信する。ものづくり、ことづくり)して移住を繰り返していきます。
8月は15日から25日までの10日間ですが、岡山県の倉敷市に滞在して、年内には大阪と浜松と山形も予定しています。お近くの方はぜひ遊びにいらしてください。