古民家がつないだ二つのピース
ホタル食堂 北杜市明野町
北杜市明野町にある古い集落の一角にその食堂はある。ともに料理の世界を歩んできた清水さんご夫妻が営む「ホタル食堂」だ。
15時-22時という営業時間はここでは珍しい。「夜、ちゃんとご飯が食べれる店が少ないから」そして「自分たちがこんな店があったらいいな」と思う食堂を始めたかったからと二人は言う。
和紙に手書きのおしながきには、「おでん風味の角煮」「甲斐サーモンソテー 柚子クリームソース」「テンペとセロリとごぼうトマトソース」と3種類の主菜と3種類の副菜(6種類から選べる)、それに2種類の甘味が記載されていた。
食材や調味料、野菜の食べ方にこだわった品々が手頃な価格で提供される。野菜も肉も素材の味がしっかりと楽しめる美味しく優しい料理で、それにセレクトされた器も楽しい。
「ちゃんとした手作りのご飯を食べたいときに、家族や友達同士で気軽に来てもらえる食堂でありたい」と言う店主ご夫妻は、二人とも料理畑の人だ、仕事中でなくとも気が付いたら料理の話しで盛り上がっていることもしばしばだと言う。
実は、二人とも山梨県の出身だ。ところが、県北西部のここ北杜市には元々、土地勘があまりなかったという。Uターンとは少し違うのだ。
ご主人は、都内の農業大学を卒業して吉祥寺のビストロで働いていた。思うところあって店を辞め、料理を辞めようと思った、ただ東京を離れるつもりはなかったと言う。しかし、その後の四国や甲府の農業体験をきかっけに田舎は悪くないと思い始めた。たまたま北杜市の商業施設の募集を見て北杜市に移り住んだ。
「山梨にこんなにいいところがあったんだ」と、地元山梨のことをまったく知らなかった自分に気が付いたと言う。そして古民家を探し始めた。「昔の家を、一軒僕が使うことで一軒守れる」解体が進む農村の景色のひとつを清水さんは守ろうと思ったからだ。
ある早朝、正式な内見前に見に来たこの建物に、一瞬で心を奪われた清水さんは、古いが故の建物の状態に不安を感じつつも取得を決めた。住まいとして、将来の食堂としての開業をイメージしたリノベーションは、西側の蔵の撤去や土台の交換など決して簡単な工事ではなかったが、できるだけ当時の状態を残した。現在「ホタル食堂」はずっと前からこうだったような佇まいを見せている。
奥さんの亜衣さんは、ひとりで店を始めるには北杜市だと思い「てまり堂」を開業。パンやスイーツづくり、料理教室などを行ってきた。たまたま不定期にこの建物で開催されていた、軽食付きライブに参加したところ、ご主人の清水さんと意気統合して、食堂の開業に向けて二人三脚の活動が始まったのだ。
明野の古民家がふたつのピースを繋いだことでようやく生まれた「ホタル食堂」。「出会いを大切にして、そこから考えることが楽しい」と話す清水さんご夫妻、少しづつでいいからよりよい方向に進んでいきたいと思っている。来年は庭で菜園もはじめる予定だ。