real local その他【長野】ヤマとカワ珈琲店 川下康太さん 余白をつくって働くということ - reallocal|移住やローカルまちづくりに興味がある人のためのサイト【インタビュー】

【長野】ヤマとカワ珈琲店 川下康太さん 余白をつくって働くということ

2017.03.09

善光寺の参道の裏路地、2014年に大阪から長野に移って珈琲店を開業しました。

【長野】ヤマとカワ珈琲店 川下康太さん 余白をつくって働くということ
「ヤマとカワ珈琲店」店主の川下康太さん。店名は山登りが好きなことと自身の名前から

善光寺から歩いて15分、路地の奥の二軒長屋。少々わかりにくい場所に「ヤマとカワ珈琲店」はある。目印は焙煎機から伸びる銀色の煙突だ。木の引き戸をカラカラと開けると、ふくよかなコーヒーの香りが漂う。

【長野】ヤマとカワ珈琲店 川下康太さん 余白をつくって働くということ
平屋の二軒長屋。開店当初は店舗隣を住まいにしていた
【長野】ヤマとカワ珈琲店 川下康太さん 余白をつくって働くということ
昭和8年造の木造平屋をリノベーションした店内

《 働き方から選んだ店主という道 》

店主の川下康太さんは、大阪生まれ大阪育ちの33歳。大学卒業後は企業に就職し、営業職を7年間務めた。そして今、遠く離れた長野で珈琲屋を切り盛りしている。

「30歳を目前に将来を考えた時、このまま会社にいていいのかな、と思ったんです。景気やクライアントの方針や、自分の実力以外の事情で評価が変わることに違和感があって、それに愚痴をこぼす自分も嫌だった。解決するには、自分で仕事を作って自分の責任でやる自営業という形なのかなと」

意外だったのは「コーヒーが好きだから喫茶店を開いた」のではなく、自営という働き方から決めたこと。
業種にこだわりはなかったが、「長く続ける」という視点で自分にできることを考え、大好きなカレーとコーヒーの店を開くことを決めた。

【長野】ヤマとカワ珈琲店 川下康太さん 余白をつくって働くということ
ネルドリップで丁寧に淹れるコーヒー

会社員時代から個人経営の小さな喫茶店やレストランに通い、仲が良い店主も多かった川下さんにとって、その選択は自然なものだったのだろう。当初は地元・大阪での開業を考えていたが、知人に聞いて参加した善光寺門前の「空き家見学会」が、移住の転機になった。

《 「なんとなくいいな」が重なって決めた移住 》

「空き家見学会」は古民家に興味がある人や住みたい人、お店を開きたい人などが参加し、善光寺界隈の空き家を見て回る会。
空き家仲介・リノベーションなどを専門に行う株式会社MY ROOMが中心となり、いい物件に出会えば不動産業者や大家さんに相談もできる。界隈には、見学会をきっかけにいくつものショップやゲストハウスが開業している。

「古い建物は好きだし、面白そうだと思ってすぐに参加しました。空き家を回り、家賃や改修費用の目安を聞いたら大阪で見積もっていた開業資金よりかなり安い。ローンを組まず自己資金だけで大丈夫そうだ、いいなと感じて、試しに移住してみようと思いました」

なんとも思い切った決断だ。
それまで山登りで長野を訪れたことはあったが知り合いがいるわけでもなく、善光寺門前を訪れたのも見学会が初めて。見知らぬ地への移住・開業はかなり勇気がいったのではないかと感じるが、

「知っている人がいない場所の方が、甘えずに実力を試せるんじゃないかと思いました。最悪ダメだったら、地元に帰る逃げ道もある。どうしても長野がいい、というよりも、『なんとなくいいな』が重なって決めた感覚ですね」

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川下さんが淹れるコーヒーは、じんわりとおいしくて心が和む。喫茶営業は2017年3月28日で終了し、珈琲豆販売の専門店になる

無理せず気負わないスタンスは、「独立開業=すごい人」のイメージとは少し違う。一方で決断の思い切りは良く、見学会の4カ月後には長野市に引っ越し。お試し移住をスタートさせた。

「実際に住んでみて、エリアの特徴をわかったうえで店舗を探した方がいいと思って。冬の寒さも知っておきたかったですし」 

市内のアパートに暮らしながら、前述のMY ROOMで物件探し。2カ月後に出会ったのが築84年のこの長屋だ。一人で切り盛りするつもりだった川下さんにとって、ほどよく奥まった立地や広さ、庭のある環境は理想通りだった。 

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室内は畳をフローリングに張り替え、細かく区切られていた間仕切り壁を撤去した

DIYも交えながらリノベーションし、2014年3月に「ヤマとカワ珈琲店」をオープン。開業前に知人のコーヒー専門店に住み込みで修行したものの、飲食業も店舗経営も実質初めて。そんな川下さんの助けとなったのが、善光寺界隈で店を営む個性豊かな店主たちだ。

「この辺りには、お店をやっている同年代の人が多くて、特に『1166バックパッカーズ』の飯室さんには経営に関するいろいろなことを教えてもらいました。開業前からこの界隈の人とつながって情報交換ができたので、拠点を先に移しておいて良かったなと思います」

《 決めすぎずこだわりすぎず、できる方法で 》

開店1年目はカレーの仕込みに焙煎、接客と朝から晩まで忙しく、「思い描いたのとは違う」と痛感。1年後、営業時間を13時〜日没(定義は「暗くなるまで」)に短縮してメニューをコーヒーと焼き菓子に絞り、ほど良いペースを確立した。

そして開店から丸3年の2017年3月、喫茶営業を終了し、コーヒー豆販売専門店への方向転換を決める。
きっかけは、自身に家族ができたこと。

「開店した頃は会社員時代のようにできるだけ仕事し、それに合わせて生活する感覚でしたが、子どもが生まれてから、家族と過ごす時間をつくるために仕事を合わせたいと思うようになりました。

働くことは暮らしの一部だと思うから、思い描く暮らしに合わせて仕事をしたい。それは自営業だからできること。焙煎の仕事は時間の融通がきき、自分のペースでできますから」

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焙煎は朝から1日に数回行い、近隣のお客さんには豆の配達も行っている

 もう1つのきっかけが、実は一人黙々と焙煎する作業が喫茶業務より好きだと気づいたことだ。

「『この仕事でずっとやってきたし、自分にはこの仕事しかできない』って思っている人は多いと思うんです。僕にとってはそれが喫茶営業だった。でも、だんだん『こだわらなくていいんじゃないか』と思うようになりました」

暮らしは変わるし、気持ちも変わる。それに合わせて何かをやめたり変えたりするには、思い切りと勇気が必要だ。だからこそ川下さんは、あらかじめ「逃げ道」を残すことが大切だと話す。

「やってみて『違うな』と思った時、方向転換できるようにしておいた方がいい。
僕の場合、開業時に大きな借金をしなかったことや本格的な厨房設備をそろえなかったこと、席数を多くしなかったことで、メニューを絞ったり喫茶営業をやめたりといった方向転換ができた。振り返れば、すべて良かった気がします」

決めすぎず、こだわりすぎない。何かを無理なく続けるために、余白を残しておくことが大切なのかもしれない。 

【長野】ヤマとカワ珈琲店 川下康太さん 余白をつくって働くということ
珈琲豆は苦め、甘め、すっきりと5種類から選べる。オンラインストアとメール、電話で通信販売を受け付ける他、店頭販売も行う
名称

ヤマとカワ珈琲店

業種

喫茶店(2017年3月28日まで)、珈琲豆販売店

URL

http://yamatokawa.com/(ホームページ)

http://yamatokawa.thebase.in/(オンラインストア)

 

住所

長野県長野市鶴賀田町2252

 

TEL

080-9283-9609

営業時間

13:00~日没

 

定休日

水曜日、木曜日

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