2017の見どころ・楽しみどころ(後編)/山形国際ドキュメンタリー映画祭⑤
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山形国際ドキュメンタリー映画祭(YIDFF2017)が10月5日(木)開催される。約150本にも及ぶ膨大なドキュメンタリー映画の数々が市内9つの会場で上映され、山形の街は映画漬けになる。珠玉の長編作品を集めた「インターナショナル・コンペティション」、アジアにフォーカスした「アジア千波万波」そして様々な「特集」など、いろいろな切り口からドキュメンタリー映画を満喫できるはずだ。
開催間近となった今回は特に「特集」プログラムに注目。その見どころについてYIDFF事務局黄木優寿さんにお話を伺った。
YIDFF2017の作家特集は、「共振する身体 – フレディ・M・ムーラー監督」です。
スイス生まれのフレディ・M・ムーラー監督は、このドキュメンタリー映画祭創設の提唱者である故小川紳介監督とも親交の深かった方で、1960年代後半から80年代にかけて国際的に高く評価された「ヌーヴォー・シネマ・スイス」の旗手のひとりとして知られ、ドキュメンタリー映画だけでなくアートフィルムや劇映画なども撮られた、とても実験的な監督です。
隔絶された山岳地帯に暮らすマイノリティを題材とする作品もあり、日本の農村を題材にした小川監督と通ずるところがあったのでしょう。残念ながら今回は山形においでいただけないのですが「オガワの映画祭にはぜひ行きたい」と監督ご本人は強くご希望されていたそうです。
ロカルノ国際映画祭金豹賞を受賞した『山の焚火』(1985)や、『われら山人たち』(1974)、『緑の山』(1990)などをはじめ合計14本ものフレディ・M・ムーラー作品を上映します。
特集プログラムのひとつとして2011年から続いている「ともにある Cinema with Us 2017」では、東日本大震災と津波と原発事故という未曾有の経験と課題から生まれた作品を取り上げます。
震災の日から6年が経ちますが、この歳月に向き合った映画からは様々な問いが現れてきます。ドキュメンタリーになにができるのか、この出来事がドキュメンタリーになにをもたらすのか、考えずにはいられないと思います。
さらに今回は、そうした映画の上映だけにとどまらず、記録されたフィルム・アーカイブをどのように保存し、活用していけるのかという課題について、カンボジアのボパナ視聴覚リソースセンターとの連携を通じて考えていくディスカッションも行う予定です。
「やまがたと映画」は山形でロケが行われた作品や山形に関連する監督の作品を上映するものです。
今回のテーマのひとつは「銀幕よ甦れ! やまがた映画館異聞録」。かつて山形県酒田市に、映画評論家の故淀川長治氏から「世界一」と賞賛されたという伝説的映画館があったことをご存知でしょうか。グリーンハウスという名のその映画館は、かつて文化人たちのサロンとして栄えた場所であり、上映作品のこだわりや、洗練された演出、内装など実に素晴らしいものだったそうです。1976年の酒田大火の火元となって以来その映画館の名が人々の間で語られることは無くなっていましたが、今回はその伝説の映画館の当時の記憶を辿った『世界一と言われた映画館 ~酒田グリーン・ハウス証言集~』を上映します。
また、アニメ監督として名高い押井守監督の実写作品第一作『紅い眼鏡』(1987)や同監督の『トーキング・ヘッド』(1992)の撮影ロケ地となったのは、かつて上山市にあったトキワ館という映画館でした。この今はなき山形の映画館の華やかだった頃の姿を、その映画作品を通して見つめる試みです。
加えて、映画監督佐藤真の作品上映とこの映画祭がもつ可能性について語り合う「あれから10年:今、佐藤真が拓く未来 ~ 全作上映とトーク」や、映像制作ワークショップ企画「エンカウンター・シネマ in Yamagata」など、映画と山形の幸福な関係を発見する企画をいろいろとご用意しています。
特別招待作品として上映されるのは、YIDFFとも縁があり、作家、批評家、研究家として功績を残した松本俊夫監督の追悼プログラム。映写機3台を同時に使って上映する実験的作品『つぶれかかった右目のために』(1968)など4作品を上映します。
そのほか、大きな目玉を挙げるとするなら、やはり「インターナショナル・コンペティション」も見逃せません。
大御所フレデリック・ワイズマン監督の新作は、日本初上映となります。
また、大御所といえば原一男監督作品も登場します。
全体的に「インターナショナル・コンペティション」の作品はやはり1000本以上から絞りに絞られた15作品というだけあって、とても見応えのあるものばかりです。277分という大作もありますし、上映時間の長い作品も多いです。
まもなく始まる山形国際ドキュメンタリー映画祭。ぜひみなさんに、いろんな角度から、お楽しみいただきたいです。