【長野】ハナヤココボロ/長野市 特別でない日にも花があれば
夕方になると家路を急ぐひとたちが行き交う、駅近くの商店街。ちょっと今日会社でしくじっちゃった。仕事でほめられてうれしかったな。そんな気分のときに、小さな花束があれば。
権堂駅近くにある花屋の「ココボロ」。店主の小林孝士さんは長野高専に進学し、電子制御工学を専攻した理系のエリート。ものづくりの仕事がしたいと高専に進学したものの、研究室にこもる日々。悶々としていたとき、たまたま知人から頼まれた東京の花屋の手伝いがブレークスルーに。「猪突猛進というか。高専を辞め、埼玉の園芸専門学校に入りました。両親とは大げんか。3年間の専門学校生活は土日も花屋でバイト。それまでバラとチューリップくらいしか知らなかったのに(笑)」
話を聞いていて、こちらが「えええー!?」とハラハラする思い切りの良さ。でもハードすぎる内容に反して(?)いたって穏やかな口調で話を続けます。
「フローリスト競技会でも日本一を輩出している会社に就職し、希望した店舗での勤務になりました。朝5時前に市場に行き、駅ビルの花屋で店頭に立ち、閉店後に当時開業ラッシュだった外資系ホテル部門のヘルプに回っていました……。仕事バカですよね。親指を酷使しすぎて脱臼するという、花を扱う仕事をする上での致命傷を負ったんです。どん底でした」
そんな折、須坂市で果樹園を営む祖父が急逝し、Uターン。長野市の生花店に勤めましたが、独立に向けて長野市内のネットワーク作りをと、コワーキングスペース「CREEKS COWORKING NAGANO」の会員になりました。
「須坂在住だったので、市内に拠点を持つ利便性もありました。花の業界しか知らなかったので、女性メンバーが『仕事帰りに花を買いたいよねー』と雑談していることも参考になったり。借りる予定だった物件が急遽NGになったとき、CREEKSの広瀬さんの紹介でいまの物件に行き着いたんです。まったく接点のなかった人たちと知り合えたのは、絶対的なプラスだったと思っています」
2016年10月に念願の自分の店を持った小林さん。畑を訪ねた農家さんの話をお客さんに伝える。自宅用なら茎が短くても十分、安くていい花を仕入れる。切り花を長持ちさせるアドバイスを行う。同業者から「小林くんはほんま花が好きやなぁ」と言われ、その意味が何なのかを確かめに、わざわざ大阪まで行ってしまう生真面目さや誠実さが、丁寧な仕事に現れています。
「1回で2万円の花束より、200円で100回。そんなふうに花を買ってもらえるといいなと思っています」。特別な日とありきたり日常のあいだに色を添えてくれる小林さんの花。花を買いたい気分になって訪れた人(いいことがあったり、落ち込んでいたり)に笑顔で帰ってもらう、それで自分も笑顔になって家に帰るのが、究極の目標だと言います。
そんなココボロが開店してからの後日談。
CREEKSの広瀬さんが通う床屋の奥さんから「権堂にとても良い花屋さんができて、毎週買いに行っているの。ぜひ行ってみて」と声を掛けられたとのこと。もちろん広瀬さんが店に関わっていることは知らずに。じんわりと小林さんを介した花の力が伝わっているようです。