レポート/「ぼくらが金沢で仕事をする理由。」@東京
なぜクリエイターは金沢を選ぶのか?
11月21日に東京・Impact HUB Tokyo で行われたトークイベント「ぼくらが金沢で仕事をする理由。」。
今、クリエイティブな職種の方が多く移住してきている金沢。なぜ、クリエイターは金沢を選ぶのか?
ゲストに、金沢出身のアートディレクター/Hotchkiss代表・水口克夫さんをお招きし、トークイベントを行いました。金沢R不動産/有限会社E.N.N.代表の小津とのクロストーク部分をぎゅっと凝縮してお届けします。
2015年から金沢にサテライトオフィスをもった水口さん。東京から金沢へスタッフを2人送り込んでおり、金沢市「はたらこう課」など、金沢や石川県内からの依頼も多く受けている。小津も、東京と金沢の2拠点で活動していたが、2012年からメイン拠点を金沢へ。専門は建築設計だが、美大出身で金沢に移住したクリエイターとの親交も厚い。
まず、今回のイベントの共催者であり、転職支援を行う株式会社マスメディアンより、東京から金沢へ転職した方々の事例紹介。金沢に移住したきっかけや移住後の変化についてのアンケート結果が示された。仕事へのフィーや収入は減ったが、移住したことについては満足していて、時間にゆとりが生まれた、食・自然が良いという回答が多く見られた。
小津誠一(以下、小津):収入は減ったようだけど家賃が全然違うんでね。支出も減るから、生活レベルが落ちるわけではないと思います。
水口克夫さん(以下、水口):そうですね。家賃以外で圧倒的なのはお金を使う娯楽をしなくていいこと。東京にいたら、海に行きたい!ってなると千葉まで行くのか湘南まで行くのか、とかあるけれど、金沢は車で小1時間も走れば、海も山もあるしね。うちのスタッフも毎週山行ってるんじゃないかな(笑)あとはけっこう中心部でイベントやってますよね。10月とか毎週何かやってて、いくつかかぶっちゃうくらい。
■「東京にいた時よりも、会いたい人に会えるようになった」
収入や食、自然、ここまでは生活のベーシックな部分。それ以外での金沢で働く価値は、どんなところにあるのだろうか。
水口:人とつながりがつくりやすい。金沢に移住したスタッフも、同じ年くらいの違う業種の人、特に移住してきた人とのつながりができて楽しいって言っています。さっき収入は下がるって話があったけど、そういうところで収入以外の価値はありそうだよね。
小津:そうですね。知り合い1、2人挟めば誰とでもつながれる感じがあります。もちろんその狭い世界が煩わしさというか面倒くささでもありますけどね。
水口:なんとなくたまり場みたいなお店があって、そこに行くと必ず誰かに会えるとかね。金沢って狭いんです。エリアという意味でも狭くて、徒歩圏内にいっぱいつまってるんですよね。
小津:そうですね、本当に。あとは、移住してきた人がよく「東京にいた時よりも会いたい人に会えるようになった」って言いますね。金沢だと、1つ何か仕事で一緒になったら、その後飲みに行こうかってなる雰囲気があります。だから、気づいたら、東京から来た面白い人たちや会いたかった人と一緒にカニ食べてる!みたいなこともよくあったりします。例えば、ぼくと水口さんもたぶん東京で出会ってたらお酒飲むような関係にはなっていないと思う。
■金沢で仕事をして、実感していること
水口:さっきの事例(マスメディアンからの転職者事例)でもあったように、東京と比べるとフィーが大きく違いますね。はっきり言って1ケタ違う。でも、東京で仕事していると、なんだか大きなうずに巻かれちゃって、自分があっぷあっぷしている感じって皆さんありませんか?でも、金沢だと自分のやりたいなと思うことはしっかりできて、そこに1本芯を持ちつつ仕事ができる気がしています。
小津:わかります。東京だと大きな消費活動に加担しているような感覚がありますね。
水口:あと、今年僕グッドデザイン賞の審査委員をやっていたんですが、審査するにあたって、これまでのいわゆる表面的なデザインの良し悪しを審査するだけじゃなく、その地域のシステムをどう運用しているかとか生産者と流通の新しいつながりを生み出しているかとか、そこもデザインとして審査しようという話になっていました。そういう視点でものを考えることは、地域の方がやりやすいのかなって、思うんです。東京ってやっぱり大きすぎるし、複雑だったりするじゃないですか。
小津:なるほど。それで言うと、金沢では仕事自体を自分でデザインするような感覚がぼくはありますね。
水口:でもそれは小津さんの立場だからじゃないんですか?
小津:いや、それがそうでもないんですよ。金沢だとむしろ、クライアントの方から求められているかも。『なんかよく分からんけど、いいがにしといて』っていう(笑)つまり、おまかせします、結果良くなればいいからっていうことですね。一度信頼してもらえると、そのパターンが多い気がします。こっちとしては、難しいし怖いオーダーではあるけれど、金沢ならではのおもしろさではあるかもしれないです。さっきのグッドデザイン賞の話でもあった、システムの運用とか仕組みの部分に関われますからね。東京に比べてプレーヤーが少ない分、仕事の領域がいい意味であいまいなことも関係していると思います。
移住を自分事として考える参加者の皆さんから、率直な質問もあった。
参加者Aさん:働き方について質問です。現在東京で、週4で会社員として勤務、週1で別の仕事、というように働いていますが、金沢でも同じように働けるでしょうか?金沢は働き方に対してどのくらい柔軟なのか知りたいです。
小津:北陸は共働きが多く、家族的な会社が多いということもあって、そこらへんは割と柔軟な印象があります。特にクリエイティブな職種ならなおさらそんな気がするけれど、マスメディアンさんどうですか?
マスメディアン:弊社の事例では、採りたい人材であれば、希望に合わせて会社の就業規則そのものを変えてしまうというケースも何例か出てきています。例えば、「子どもの保育園のお迎えがあるから残業できません」という条件でも、スキルを認めて会社が時短就業を認めるといった感じですね。結果、他の社員も働きやすくなるという、会社としてのメリットも大きいので、これからも人に合わせてルールを変えるという流れはあると思います。
参加者Bさん:金沢で仕事をしていくうえで、金沢ゆえの難しさがあれば教えてください。今はWebデザインの仕事をしています。
水口:一番大変なのはフィーの交渉ですね。まずアートディレクションフィーという概念がない。例えば、ある会社でパッケージデザインをするというとき、金沢の会社はパッケージデザインは印刷屋さんがおまけでしてくれるもの、という認識の場合が多いんですね。ぼくらはその商品全体のブランディングをしないと意味がないと思っているので、1つパッケージをデザインをして終わりにはしない。でも、従来の印刷屋さんのおまけ基準でフィーの提示がある。そこの壁が高いですね。だから僕は今、企業にアートディレクションフィーの概念を認めてもらう活動をしています。この課題はWebデザインという面でも同じだと思いますね。でも、Webデザインと一緒にコンテンツやつながりをつくっていくとかそれ以外のことができれば、仕事そのものやフィーをちゃんともらうための手段はいっぱいあると思う。
小津:あとは、金沢にはトップが強い会社が多い印象ありませんか?大きかったり老舗だったりすると、その傾向が強くて、トップにそういうフィーの概念や僕たちの考え方を受け入れてもらえないと、全然仕事ができないことがあります。一方で、これから伸びていこうとしている若い会社や、老舗であっても一度東京に出て後継いだみたいな人と出会えると、ちゃんと話が通じるということもありますね。それを抑えにかかる会長がいたりもしますが(笑)
水口:ラスボスがね!奥さんが口出してきちゃう、とかね。(会場笑い)
小津:ありますねー。金沢は、デザインとかクリエイティブなサービスをしてくれる人に対するお金の払い方をまだ知らない、という状況かもしれませんね。ちゃんと説明するとわかってくれる場合もあるし、「わかったけど何とかならんか」という場合もあります(笑)そこは僕も地道に働きかけていこうと思っています。
課題はありながらも、金沢で仕事をすることをたのしんでいるような2人。 そんな先駆者たちの姿に多くのクリエイターが引き寄せられるのかもしれないと感じました。
フリーのクリエイターもさることながら、金沢の企業はインハウス(企業内)デザイナーや映像エディター、ライターなどクリエイティブな人材を求めています。
地方移住を考えるクリエイターの皆さんにとって、働く場としての金沢がよりくっきりと見えたならうれしいです。
主催:金沢R不動産
共催:株式会社マスメディアン
ゲストプロフィール
■ 水口克夫 株式会社Hotchkiss代表/アートディレクター
1964年 金沢市生まれ 金沢美術工芸大学を卒業後、電通入社。2012年、Hotchkissを設立。広告とデザインの分野で活躍。2015年には金沢支社を開設、本屋兼ギャラリーの「Books under Hotchkiss」も運営。
おもな仕事は、JR東日本「北陸新幹線開業広告」、NHK大河ドラマ「真田丸」ポスター、サントリー響「若冲」篇、芝寿し「小笹」ブランディングなど。ADC賞、カンヌ国際広告祭、アジア太平洋広告祭ベストアートディレクションなど受賞歴多数。
著書には、『アートディレクションの型〜デザインを伝わるものにする30のルール〜』(誠文堂新光社)、『安西水丸さん、デザインを教えてください!〜安西水丸装幀作品研究会〜』(Hotchkiss)、『ぞうぼうしパオ』(小西利行と共著/ポプラ社)がある。