【豊島】自然卵ヨベル 吉野聖さん、桃子さん 50羽の鶏と1日2,500円の暮らし
1個50円の卵がある。セレブのための高級品だと感じるだろうか。しかし、香川県の離島、豊島で暮らす吉野夫妻が届ける卵は、手の届く豊かさだ。屋号は「自然卵ヨベル」。
満員電車の通勤や集団行動が苦手という理由で、フリーランスを貫き「その日暮らしのような生き方をしてきた」桃子さんと、東京で会社勤めだった聖さん。資本主義の社会システムになるべく依存しない生き方を模索するため、田舎への移住を決意。小学生のお子さんがいて、かつクリスチャンであるがゆえ、小学校と教会があることを条件に移住先を探した。仕事は農業をするとは決めていたが、何を育てるかはまったくの白紙。まったくゼロからのスタートだった。移住先と農業のリサーチを同時並行で開始した。
リサーチの過程で、たまたま訪れた豊島に心を奪われた聖さん。「なんにもない!いい島!」と感じたそうだ。目立った商業施設は何もなく、吉野夫妻が理想とした離島らしい風情があり、移住の条件である小学校と教会があった。さらに、豊島は農業とクリスチャンの両方に縁の深い「農民福音学校」にまつわる歴史でも知られる場所でもあった。日本最大規模の生協である「コープこうべ」の礎を設立したことでも知られる、社会活動家の賀川豊彦(かがわとよひこ)氏が50年以上も前に、農民のために日本全国につくったのが農民福音学校であるが、その弟子であった故・藤崎盛一氏が豊島で始めた「農民福音学校」は、日本じゅうの農民福音学校の中でも長い歴史を持ち、受講生の人数も多かった。現在も、藤崎盛一さんの子孫が中心となって、その歴史を語り継ぐ活動が積極的に続けられている。
なお聖さんは、初めての豊島訪問で教会に立ち寄った際に、藤崎さんの息子さん一家と出会っている。
それから程なくして、吉野さん夫妻は豊島で養鶏を始めることにした。きっかけは、豊島への下見の帰り道に本屋で偶然出会った自然卵養鶏の本だった。50羽の鶏から始めることができる養鶏の方法が書かれていて「これならできる!」と思ったという。これまで調べてきた新規就農の情報は、機械の導入や、市場で評価されるための作物づくりなど、心が折れることばかりだった。一方、自然卵養鶏は、無理のない規模で始めながら、自身の生活を自立させるという考え方が根あるので、就農への心のハードルが一気に下がった。
自然卵ヨベルの卵は、1個から購入できる。 10個入りパックで500円だと家計が苦しくなると感じるかもしれない。しかし、この卵を使った美味しい卵かけご飯を食べられたなら、その瞬間にたった50円玉で幸せなひとときを買えていると実感するはずに違いない。
通販は行わず、島のみで販売を行っている自然卵ヨベルにとって、50羽の鶏は、ちょうどいい数だそう。鶏が1日に産む卵は1個。50羽すべてが産んだとしても、最大50個。つまり1日2,500円以上は、どうあがいても売り上げが立てられない。それを生業とし、子どもを育てていくのは無理だと諦めてしまいそうだが、吉野さん夫妻はそうでなかった。
お金を稼ぐことに追われてしまいがちな都市への生活に疑問を持ち、島暮らしを始めた桃子さんと聖さん。島は、家賃などの生活費が安く、野菜やお米をつくることが都会と比べるとたやすいので、高収入を目指さなくとも豊かに暮らすことが出来る。そもそもお金に頼らず、自分たちの暮らしを楽しみながら社会システムから自立させることを目指して始めた養鶏なので、50羽の規模がちょうど良いのだと言う。
「本当は田舎でも都会でも、どこにいても自分で手に入れたい暮らしは実践出来ると思います。だけど、私たちはたまたま鶏を育てることにしたから、ここに居ます」と桃子さんは朗らかに笑って話してくれた。
もしも自分の生き方を変えたくなった時、何を一番大切にしたいかを考えるといいだろう。
自ら美味しい野菜をつくって誰かに食べてもらうこと?
安心安全な食べ物を生産者から買うこと?
愛する人と共に笑って暮らすこと?
大切にしたいことが明確になれば、場所は田舎なのか都会なのか、仕事は農業なのか会社員なのかなど、自分にとってちょうどいい生き方が、自ずと決まってくるはずだ。
屋号 | 自然卵ヨベル |
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URL | |
住所 | 香川県小豆郡土庄町豊島 |
備考 | 通信販売なし ヨベルの卵を使った料理を食べられる豊島のお店: |