金沢おでんと日本酒 【後編】
片町「ちくわ」で飲み比べ・食べ比べ
金沢が食の街といわれるのは、加賀百万石の伝統を受け継ぐ高級料亭から、リーズナブルな庶民派グルメまで、その幅広さも理由の一つ。そんな金沢グルメを「real local金沢」の食いしん坊が、調査・研究と称して探訪する新企画を立ち上げました。第1回目は、今や金沢グルメの代表格「金沢おでん」と、その相棒として欠かせない日本酒を、この3人がリサーチ。そのレポート後編です。
笠原美緑(左)/小津誠一(中)/坂下有紀(右)
第2部 おでん×造りの違う生酒
平田:次は能登の「谷泉」の生原酒2種類です。
坂下:蔵見学したことがあります。ラベルが女将さんの手書きなんですよね。
平田:能登の手すき和紙を使っているそうですよ。
笠原:上のラベルに「あらばしり」「にごり酒」って書いてあるのは何ですか?
平田:日本酒は搾る段階ごとに分類されて、「あらばしり」「中取り」「責め」といった名前が付いています。「あらばしり」は、加圧せずに最初に出てくる部分のことですよ。「にごり酒」は目の粗い酒袋を使って搾った、白濁したお酒のことです。
小津:「あらばしり」が鶏団子によく合うね。このカラシを付けると絶品。
坂下:「にごり酒」の方はグラスに鼻先を近づけるだけで、ピチピチしてるのを感じますよ。口に含むと、より発酵による炭酸ガスが感じられます。
笠原:わ、本当だ。口の中でプチプチ、シュワシュワしてる。
小津:「谷泉」は少し塩気のある料理が合いそう。石川県は加賀・能登の酒でタイプが違うと思わない? 能登の酒は海が近いからか、塩気のきいた料理や魚介に合う気がする。
坂下:それはあるかもしれませんね。その土地の食に合う酒が造られるし、白山からの伏流水と、海に囲まれた半島の能登では仕込み水も違いますよね。
笠原:この車麩も食べてください。お出汁がしみてて美味しいんです。
小津:車麩も金沢独特の食材。「ちくわ」さんは出汁がうまいんだよな。おでんのキモは出汁だよね。金沢おでんの店はたくさんあるけど、金沢人にはご贔屓の店ってない?
坂下:それぞれ好きなお店がありますよね。私はあっさり系が好きなので「ちくわ」さん、「若葉」さんへよく行きます。他にも、あそこと、あそこと・・・。
小津:いいね〜。「おでん割烹 竹千代」さんは行ったことある? おでんというより、出汁で炊いた料理、椀物って感じなんだよ。そう考えると出汁が命のおでんは、加賀料理の集大成かもしれないよね。
坂下:言われてみれば。金沢の食文化って奥が深い。
第3部 季節おでん×お燗酒
小津:そろそろお燗にいきたいね。
平田:では、「黒帯 悠々」の燗と合わせてこれも食べてみてください。季節のアラカルトで出している「地物 猪おでん」と「真子(タラの卵)おでん」です。
小津:真子のおでんは、お椀に入って料亭で出てきそうだな。
笠原:こんなおでん初めて。和菓子みたい!
坂下:出汁がしみたタラコが、口の中でホロホロほどけて、優しいお味。
小津:これは「黒帯」がよく合うね、旨みが引き立つ。真子のおでんには、このくらいボディがある酒が必要だね。
坂下:「猪おでん」は意外にあっさりしていて上品、最後の余韻にほんのりジビエ感。スープがまた美味しい。「黒帯」は猪肉にも合いますね。
笠原:はい、美味しいです(=^o^=)
坂下:今回の研究会、まとめとしてはどうでしょう?
小津:おでんは具の種類がいろいろあっても、味付けは出汁の1種類だけだから、コース料理と合わせ方も違うし、具の1品1品にどの酒が合うっていう楽しみ方でもない気がしたね。個人的には日本酒で燗が一番合うと思った。
坂下:具材も味も、あっさりしたものが多く、初回のテーマとしてはハードルが高かったですね。シンプルなだけに、おでん×日本酒が、双方の繊細な味わいを活かす組合せだということがわかりました。おでん×赤ワインでは難しいけど、おでん×日本酒なら大概うまくいく相性のいいパートナー。
笠原:美味しかったです。いつもお酒を注文する時に、何をどう頼んでいいかわからず悩んでいたんですけど、お店の人に相談すればいいんだなってこともわかりました。これから日本酒をもっと楽しみたいです。