九谷焼の未来をつくる人
上出長右衛門窯 上出惠悟さん
九谷焼は華やかな彩色を特徴とした、石川県を代表する伝統工芸。その九谷焼の次世代を担うのが、上出長右衛門窯の六代目となる上出惠悟(けいご)さんです。
物心ついた時から家業を継ぐことを意識していた上出さんが、本格的に九谷焼の現場に触れたのは、東京芸術大学で油画を専攻しながらも、自分の目標を失いかけていた3年生の頃。ちょうど就職や社会を意識し始めた時に、あらためて伝統工芸のおかれた厳しい現実を知り、「古くから人がつくり、伝えてきた手仕事を自分の世代で無くしてはいけない。」と思ったのがきっかけでした。
それからは、たびたび実家に戻りながら九谷焼や家業について学ぶ日々が始まり、その思いを初めて形にした九谷焼作品『甘蕉 房 色絵椿文』(甘蔗=バナナ)が大学の卒業制作となりました。
「やはり自分は作る人間なので、自分の手を動かすことが一番の学びでした。そしてこの作品が僕という個人と家業を結ぶ契機となりました。発表してすぐに青山のスパイラルでも展示(*1)して頂き、今でも時々作っている大切な作品です。」
大学卒業後は、「食べていけないから帰ってくるな。」という親の言葉に反して実家に戻り、少しずつ上出さんなりの九谷焼を製品化していくことに。そうして、60年間描かれ続けている「笛吹」を現代風にアレンジした湯呑シリーズなどが生まれました。
「本当のことを言うと、新しい『笛吹』はちょっとやり過ぎている・・・と思っています(笑)。僕はふつうの『笛吹』が一番好きなんで。伝統的な絵柄はパッと見ると退屈にも見えますが、ちょっとした説明を聞いたり、最初にそれを描いた人の気持ちになってみたりすると、見え方が違ってくるんですよ。『笛吹』では、絵柄のそういう面白さをもう少し身近に感じてもらえるんじゃないかなと思います。」
そんな上出さんが最近、陶芸家の友人の協力を経てチャレンジしたのが薪窯(まきがま・*2)。九谷焼をはじめとする白い磁器は、元々 灰が被ったり火が当たったりすることを好まないため、上出長右衛門窯をはじめ、現在ではほとんどの磁器産地ではガス窯が使われているそう。
「磁器は真っ白で端正なことが評価されるので、品質が安定し、大量につくれるガス窯と相性がいい。ただ、器としての良さや、今後の在り方を追求していくためには、どうしても薪窯を体験してみたかったんです。うちもガス窯になったのは昭和40年になってからのことだったみたいで。」
そうしてできたのがこの器。上が薪窯、下がガス窯で焼かれたもの。並べてみるとその違いが良くわかります。
「薪窯を焚いてみて感じたのは、見ているだけで圧倒された火の力。そして、僕達は窯元と名乗りながらも、窯のことも火のことも何も知らなかったということでした。窯元としてやっていくためには、ガス窯を止めることはできませんが、薪窯での九谷焼は、今後も続けていこうと思います。」
必要最低限を求めれば、100円ショップでもそれなりの器が揃ってしまう今の時代。他の伝統工芸と同じく、九谷焼を取り巻く環境も日々厳しくなっています。そんな中、若い人達に手仕事の良さを知ってもらい、日常的に九谷焼を使ってもらえるように。上出さんの探究は、これからも続いていきます。
*1 上出・九谷・惠悟展「九谷焼コネクション」:甘蕉の他、タイヤの付いた走る急須、アイスクリームのコーン型盃、髑髏のお菓子壺など、既成概念に捕われないユニークな発想の九谷焼が展示された。
http://www.spiral.co.jp/e_schedule/detail_172.html
*2 【上出長右衛門窯】薪窯焚の記録 – YouTube http://youtu.be/gKbmAoK9VJ4
*3 KUTANI SEAL:real local 掲載記事 https://reallocal.jp/4980