ローカルラーニングツアーを振り返って by MOTOKO
カメラを通じて出会った山形の宝物。2日間の軌跡
まちを発信する写真の技術を学びながら、まちについて学ぶ「ローカルラーニングツアー in 山形」が3月24〜25日に開催されました。
今回は講師である写真家のMOTOKOさんに、山形での2日間を振り返っていただきました。
みなさん、こんにちは。MOTOKOです。
まず最初に見ていただきたいのが上の写真。ツアー1日目の最後に郁文堂で行った講評会でのワンシーンであり、この2日間で大好きな写真のひとつです。みなさんとってもいい表情をしています。
今回は地元の人たちだけでなく、東京、横浜、大阪などはるばる遠方から参加してくれた人もいました。参加者のほとんどが初対面だったとは信じられないほど、みなさんすぐに仲良くなりました。
それはカメラのちからが働いたから。カメラを教え合ったり写真を通じてコミュニケーションをとることで、あっという間に距離が縮まりました。
みなさんはなんとなく集まって来ているように見えて、自分の中での変化や、まちへの思いなど、なにかを期待していたように感じました。それだけみんな前向きで、楽しそうでした。
カメラには印籠(いんろう)のような役割もあって、まちの人とのコミュニケーションも助けてくれました。
今回は老舗店の店主さんや伝統工芸品の工人さんなど、普段なかなか会いに行けない人のもとを訪れました。普通だと一人で訪ねるのはこわいし、相手にも警戒されてしまう。それが今回はチームでカメラを持って訪れたことで、楽しく取材ができました。
しっかりカメラを構えて撮影されることは、お店の人にとっても嬉しいことなのかもしれませんね。お店のみなさんがていねいに、笑顔で質問に答えてくださったことに感謝しています。
参加者のみなさんは、誰か一人が質問を切り出したら、一気に続いて質問していきました。「もっと気軽にまちの人に話しかけていいんだな」と気づけたこともひとつの収穫だったのではないでしょうか。
特に20代以降の若い世代は、スマートフォンの登場によって人見知りが加速しているように感じます。だからこそ、自分から話しかけてみることが大切。カメラによって、まちにおける世代を超えたコミュニケーションを復活させていけるのではと思っています。
みなさんが撮影した写真にも驚かされました。みんな一瞬一瞬を吟味して、瞬時に判断する能力が高く、その集中力や取材対象者への敬意が、しっかりと写真にも映し出されていました。
ここ数年で一眼レフカメラの性能が格段に上がり、スマートフォンのように操作が簡単になりました。プロカメラマンがフィルムの時代に10年かけて修練してきたことが、いまは2年で習得できてしまう。誰でも安価に平等に「撮りたい写真」が撮れるようになりました。
参加メンバーには一眼レフ初心者もいましたが、上がってきた写真はどれも素晴らしく、2日間通しで参加していた人の成長スピードは驚異的でした。
オリンパスのサポートも大きかったです。カメラのご提供はもちろん、担当の方がツアーにご参加くださり、親しくコミュニケーションをとってもらうことで、参加者とカメラとの距離がぐんと近くなったと思うんです。
これだけカメラの技術が進歩したこの時代、クリエイティブに活動するチャンスはみんな平等にあります。参加者のみなさんにとって、このツアーが山形のカメラマン、山形のクリエーターとなるきっかけになったら、そんな嬉しいことはありません。
この2日間で、お金だけじゃない価値、大量生産にはない、山形の「オリジナルの価値」にあらためて気づくことができました。
郁文堂の文化人が集ったサロンの歴史、メガネハチヤ・蜂屋さんの地域の記録や、丸八やたら漬け・新関さんの貫禄あるたたずまい。2日目の昼食でいただいた蔵王の山口餅屋さん。ずんだ餅もくるみ餅も、一つずつ実を潰して手づくりしているそうで、とってもおいしかった。蔵王の大自然を愛する合田さん。こけし工人の岡崎さんも、一体一体に筆を入れて絵付けをされていました。
どれも山形にしかない「世界にたったひとつのクリエーション」。すべてが山形の宝物ですよね。
そのように山形をつくってきたまちのみなさんと、全国から来たツアー参加者が一同に会したことがなによりの奇跡でした。その一瞬一瞬を大切にしようとみなさんがまちの人に真摯な目線を送り、シャッターを切ったことが、いい写真を生み出したのだと思います。
今回のツアーでは、七日町の郁文堂書店とBOTAcoffeeを拠点に活動させてもらいました。どちらも空き店舗・閉店していた店舗をリノベーションしたお店。山形の若い世代の新しいクリエイティビティが感じられたことも、このツアーの大きな収穫でした。
かつて「カルチャー」や「メディア」といえば主にファッションや音楽、エンタメといった都市から発信される文化を指していました。
それが震災以降、若い人が移住するようになってからは、空き店舗をリノベーションしたカフェや、ゲストハウス、airbnb、商店街といったものがカルチャーとなり、そこに若い人が集って交流が生まれている。「空き家」という地域の課題が新しい文化を生み出しているんです。
SNSやデザインアプリ、ファストファッションなど、どこでも安価でかっこいいデザインや写真が手に入る今だからこそ、探すべきは地元の素敵な商店や本屋といった、その土地にしかない人や文化です。それらと現行のデザインをパッチワークすることで、新しいローカルカルチャーが育まれていくのだと思います。
そういった情報を発信していくことも、地域のクリエーターの大きな役目です。なぜなら、それは地元に住んでいる人しかできないことだから。日頃からまちにいて、現場を体感する人の感覚から生み出されていくものだから。
話は少し逸れますが、地元の人が地元の写真を撮って発信する活動を「ローカルフォト」と名付けて、2013年に小豆島に暮らす女性7名の写真グループ「小豆島カメラ」を立ち上げました。
「小豆島カメラ」のメンバーは、誰もデザインや写真を専門的に勉強していません。それにも関わらず、多くの人から支持されて、成功しているのはなぜなんでしょうか?
彼女たちはプロカメラマンではないけど、それぞれ得意分野を持って、お互いを助け補い合いながら活動しています。あくまで地域の生活者として、まちで見たり触れたりする等身大の経験値が大きな共感を生んでいるんだと思うんです。そして「わたしでもできそう」という親しみやすさが、共感の輪をどんどん大きくしていく。
そんな「小豆島カメラ」のような活動が、今後山形でも起こるような気がしています。
自然豊かな環境で、おいしいものを食べて、かわいい女の子たちが仲良く楽しそうにクリエイティブな活動をしている。地元の商店街の人たちと交流しながら、カメラを持って笑顔でまちを歩いている。
憧れの対象として「ファッションリーダー」という言葉がありますが、より暮らしに根付いた「ライフスタイルリーダー」といえるかもしれません。
そんなチームがまちにいる事実や、楽しそうな空気が外に伝わっていくことが、移住にもつながっていく。外から呼び込むのではなく、地元の人が楽しんでいる姿を見て、外から人がやってくるんです。結局、人を動かすのって「人」なんですよね。
最後に一番大切なことをお話させてください。カメラの一番いいところは「ワクワク感」。レンズを覗いた喜びや感動を切り取る、それだけ。「正しい/間違い」「~しなくてはいけない」はありません。
クリエイションのチャンスがみなに等しくある今、まっさらな初心者のほうが、われわれのような経験者よりはるかに面白い写真が撮れるはず。どんどん冒険して未だ見ぬ世界をみせてほしいと思います。
カメラを持ってまちを歩き、商店街の店主と話す。そうすると、まちの宝物が見つかる。そしてまちがワクワク、キラキラ輝きはじめる!これが、ローカルフォトの考え方です。
将来的に、山形市の商店街の写真をみんなで撮って写真展をやってみたい。そんな夢を持っています。
取材にご協力いただいた山形のまちのみなさん、参加者のみなさん、本当にありがとうございました。
写真:MOTOKO/ 聞き手・文:中島彩
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