第1回:10年ぶり、出会い直し。
[連載] ただいま、神戸
岡山での田舎暮らしから、再び神戸へ。
青々としたほうれん草、マゼンタのビーツ、立派に伸びた葉を提げたままの玉葱。これら全てが神戸産。
私は神戸生まれ神戸育ち。10年ほど離れていた神戸に、この春戻ってきました。その間経験していたのは、岡山の山村や香川の離島という、それこそ農林漁業がすぐそばにある暮らし。シティーガールを自称し、地産地消が当然の環境を「神戸では味わえない」と新鮮な気持ちで謳歌していました。
神戸にいる頃の私は、神戸のことを何も知らなかったなあと今になって思い知るのです。神戸には、農があるんです。
山と海は、風景画じゃない。
現在私は、北野のFARMSTANDというショップで働いています。ここには神戸の農家さんがつくる野菜、さらには乳製品などの加工品、海の恵みちりめんじゃこなど、日々の食卓の主役となる食材に満ち満ちています。(FARMSTANDについては、この記事が詳しいです→神戸の農の未来に寄り添う仕事)
私は六甲の住宅地で育ち、三宮や元町など決まったエリア、さらには同じ店ばかりに行くような暮らし方をしていました。北区や西区に行けば、岡山暮らしで慣れ親しんだような農村エリアが広がっているなんて想像したこともない視野の狭さでした。
よくよく思い返してみれば、神戸に海と山があることははっきりと分かっていました。実家は背に山を感じ、眼下に海を見渡せる立地で、その風景がとても好きでした。私は海山を風景として捉えていましたが、恵みの土地としては認識していなかったのです。
ここ、北野についても同じでした。「異人館のある観光地」というかなり漠然としたイメージしか持っていなかったのですが、北野も人々の暮らしが息づいているエリアです。FARMSTANDは日常的に買い物する場として、近所の方々に認識され始めたような感覚があります。
北区にある弓削牧場さんの低温殺菌の牛乳が詰められた瓶は、返却いただくと、100円をお返ししています。同じ人が慣れた様子で、ご自身の買い物袋から瓶を差し出してくだる光景は、美しく心地が良いです。ちなみに、この瓶はレトロなイラストとフォルムが可愛いので、1本は自宅で花挿しとして大切に取り置くのもお勧めです。
季節やタイミングによりますが、FARMSTANDで花を販売している時もあります。花に限らず、例えばビーツや人参の葉など、野菜の一部を愛でて飾るのもありでしょう。
地元を「移住者」の眼差しで。
この店にいると、神戸を再発見する日々です。クリエイティブな活動をしている同世代(私は33歳です)にも多く出会います。私が不在だった10年間に生まれたうねりなのかもしれないです。神戸で暮らしていた20代前半までの私は神戸が好きでした。
しかし誤解を恐れず言うと、神戸は表面的なイメージのオシャレさはあるけれど、クリエイティブなものは大阪や京都にあると腹の底では思っていました。実際、神戸で暮らしながら大学は京都へ通い、クリエイティブな専門学校のダブルスクールのため大阪に足を延ばす日々でした。外へ、外へと何かを求めていたのです。
岡山の田舎にいた頃、私は「移住者」でした。その土地の人たちが、田畑や山林に囲まれた豊かな地域を「何もない」と嘆き、外の世界に想いを馳せていることに驚いていました。「こんなに豊かで、創造の余白だらけなのに!」と、「ヨソモノ」の立場から各地域を愛でていました。
神戸については、対岸にいたわけです。足元に拾いきれないほどたくさんある豊かさに気づかず、外の世界を眺めていたのでした。今、私は地元でありながら移住者のような新鮮な気持ちで神戸に出会い直しています。FARMSTANDのある北野エリアを中心に、神戸に溢れるいろとりどりの物語のかけらを拾い集め、この場を借りて綴っていこうと思います。
申し遅れました、私、FARMSTANDのマネージャーをさせていただいております、もめと申します。どうぞよろしくお願い致します。