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里山の田んぼの未来/楽しい暮らしのエネルギー 04

楽しい暮らしのエネルギー 04

2018.06.12

山形のローカルライフをいきいきと楽しみながらエネルギーをやさしく考え実践につなげていく、地域エネルギー研究者による連載コラム、第4回です。

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春の田んぼ

今年も田植えを終えました。山形で米をつくるようになってもうかれこれ13年目。もう年中行事となってきて、春を迎えるとそろそろ田植えのシーズンなどと反応してしまうようになってきました。田植え、稲刈り、新米食べる、という1年のサイクルが体に沁み込んできた感じです。

といっても小さな、小さな田んぼを、学生と地元のみなさんといっしょになってなので、大した作業ではありませんが、春は泥の中に足を入れて手植えをし、秋になれば鎌で稲刈りをし、天日干し、という人力です。みんなで賑やかに田植えをするのは祭りごとのようで楽しいばかりなのです。実際、昔はそうだったようなのですが、大きな田植え機ができて便利にはなった反面、田んぼに人の姿はなくなったのです。

それにしても、春の田植えは気持ちいいし、この時期の田んぼはほんとに美しいと思うようになりました。日本の国土の2/3は山。その次に多いのが、田んぼ。山形の風景ランドスケープを形づくっているのは明らかに山と田んぼなのです。その田んぼに水が張られて緑の鏡になるのが田植えの後の田んぼ。日本が一番美しく輝く時だと思うのです。

里山の田んぼの未来/楽しい暮らしのエネルギー 04
大学の近くで田植えをした田んぼ/山形市上桜田

 

耕作放棄地とエネルギーのための作物

なぜ田んぼに出て田植えをやるようになったのか。最初からやりたくて始めたわけではありませんでした。建築を学び、都市に興味を広げ、エネルギーや地球環境の研究をやっていたぼくにとって、もともと農業や田んぼは興味の対象ではありませんでした。

ご存知のように日本は耕作放棄地が増え続け、山形でも草ぼうぼうの田んぼが目につくようになりました。特に東北芸術工科大学の近くにあるような里山の田んぼはそういう場所が多いのです。そうした中、自然エネルギーのことを調べていると、ヨーロッパでは菜の花やトウモロコシ、ススキ、ヤナギなどが畑にエネルギー作物として植えられていて、暖房や発電、そして自動車のエネルギーとして使われているということが分かってきたのです。

例えばドイツでは、250万haほどの農地にトウモロコシ等のエネルギー用の作物が植えられていて、農家の約4割がそういうエネルギー作物をつくっているというのです。日本の水田面積が241万haなので、その面積がいかに大きいかが分かります。 ならばということで、耕作放棄地になっていた棚田に菜の花を植えて、車の燃料をつくろうということになったのです。そして、どうせならということで米も作りはじめたのでした。

里山の田んぼの未来/楽しい暮らしのエネルギー 04
耕作放棄地に植えた菜の花/山形市八森

 

棚田の中の大学

こうして自然エネルギーの研究から田植えをやるようになり、田んぼに通うようになって、大学のすぐ近くに愛嬌のあるおもしろい形をした棚田があることに気付くようになったのです。

大学から出てすぐ、上桜田、岩波、横根、八森へと上がって見ると、里山特有の棚田があちこちに。どれも小さな田んぼですが、真四角な田んぼはなく、一つとして同じ形ではない曲線でできた田んぼ。夕日を映し、山形市街地を眼下に望む田んぼ。棚田百選に選ばれていなくても、美しい棚田は大学のすぐそばにあったのです。それもそのはずで、東北芸術工科大学は上桜田の棚田の美田をつぶしてできた大学だったのです。

大学ができた1992年当時、大学の前にはまだ棚田が広がる、棚田の中にぽつんとできた大学でした。その後、大学の下の棚田こそ住宅地になりましたが、東北芸術工科大学は瀧山、西蔵王のふもとにあって、今でもキャンパスの裏側に一歩出ると、そこにはいわゆる里山の環境がある日本でもまれなる大学なのです。

こうして、時折棚田へ行って写真を撮り始めたのですが、ある日いつも写真を撮っていたお気に入りの棚田の田植えが始まらなかったのです。地域の人に聞いてみると、田の主が亡くなられたとのこと。ショックを受けてなんとかできないものかと思っている間に、そういう田んぼがあちこちにでてきたのです。

里山の田んぼの未来/楽しい暮らしのエネルギー 04
大学の近くの棚田/山形市八森/2007年
里山の田んぼの未来/楽しい暮らしのエネルギー 04
大学の近くの棚田/山形市岩波/2010年

 

里山の田んぼの未来

こうして棚田がなくなっていくのは農家の高齢化もありますが、根本的には我々が米を食べなくなったから。最近は家畜に食べさせる飼料用米をつくる田んぼも増えています。

小さく、変形した田んぼが多い山の中の棚田は作業効率が悪く、コストもかかります。米が余っているのに、棚田が美しいからと言って無理やり米を作ることはできません。それでも、里山の中で多様な生き物がいたり、美しい景観を見せてくれたりという、環境的な価値はあるはず。消費者が自らの食や農を知る体験の場というのはどこかに必要なはずです。

子供の田植え体験はよくありますが、大人だからこそ食や農、環境のことを大人としての考えを持つ機会が必要ではないかと思い、棚田の中で学生と米作りを続けています。昔ながらに、田植えから、草取り、稲刈り、天日干し、脱穀、籾摺りまでやると、農業に自然を生かした様々な工夫があることが分かります。

日本の食料自給率は38%、エネルギー自給率は8%。食料をつくるにも、植物でエネルギーつくるにも、土地が必要。土地を余らせる余裕など日本にはありません。残念ながら、日本では今のところエネルギー作物を推進するような体制にはなっていません。しかし、耕作を放棄してしまった田んぼは、だんだん復活させるのも難しくなっていきます。今は何の価値もないお荷物のように思われている田んぼや山。その再登板に向けて、そろそろ用意を始める時が来ていると思うのです。

里山の田んぼの未来/楽しい暮らしのエネルギー 04
大学の近くの棚田/山形市横根/2010年

 

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