サクランボも樹氷もない山形/楽しい暮らしのエネルギー 05
楽しい暮らしのエネルギー 05
山形のローカルライフをいきいきと楽しみながらエネルギーをやさしく考え実践につなげていく、地域エネルギー研究者による連載コラム、第5回です。
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この夏の猛暑
今年の7月は全国的に記録的な暑さとなり、山形県各地でも7月の月間平均気温が久々の記録更新となりました。山形市は平均26.8℃で、1889年の7月以来なんと129年ぶりの記録更新です。酒田市は26.0℃で、1937年以来81年ぶり、新庄市は25.5℃で、1958年以来60年ぶりの記録更新。さらに今年は猛暑とともに西日本の豪雨もあり、山形県内でも8月に入って記録的な大雨に見舞われ、避難指示・勧告が出された地域がたくさんありました。
こうした状況を見て地球温暖化が迫りくるのをリアルに感じた人も多いでしょう。ぼくが山形に来てエネルギーのことを考えはじめたのは、この地球温暖化という問題からでした。今回は地球温暖化によって、我々が暮らす山形がどうなっていくのか、考えてみたいと思います。
再び日本一暑い山形なるか
今年は7月23日に埼玉県熊谷市で41.1℃が記録され、日本の最高気温の記録がまた更新されました。しかし、山形の人なら、山形市が長い間破られることのなかった日本の最高気温を持っていたことはよくご存じでしょう。
今から85年前の1933年(昭和8年)に記録した、山形市の40.8℃です。山に囲まれた山形ならではのフェーン現象によってと説明されています。ところが2007年、埼玉県熊谷市と岐阜県多治見で40.9℃が記録され、ついに山形は74年間保ち続けた最高気温の座を譲ったのでした。残念に思われた山形県民の方々、実は山形が再び日本一の記録をたたき出す可能性があると仙台管区気象台のコラムに書かれているのです。コラムには、将来、「山形では41.X℃を観測、○○年ぶりに日本最高記録を奪還し、一世紀以上の時を隔て歴史的な暑さとなる。」というニュースを目にする日が来るかもしれない、と書かれています。冗談はやめてと言いたくなるようなコラムですが、実はこれは大まじめな話なのです。
今年の猛暑は日本だけでなく、欧州など世界各地で観測されており、地球温暖化との因果関係について分析も行われています。しかし、今年の猛暑や豪雨が地球温暖化によって引き起こされたと立証するのは簡単ではありません。ただ、はっきりといえるのは地球温暖化によって今年の猛暑の気温は1℃程度かさ上げされたということなのです。1℃程度というのは、日本の平均気温がここ100年間で上昇した温度のことです。つまり、熊谷市で観測された41.1℃は、地球温暖化が起きる前であれば1℃程度低い、40.1℃でおさまっていた可能性があるが、地球温暖化が進んだ結果、今回のような気温になったということです。
山形の気象データからも100年あたりで1℃程度の温度上昇が確認されています。ということは、もし1933年に山形市で記録された40.8℃の時と同じような気圧パターンがまた発生したら、その時は1℃かさ上げされて41.8℃になる可能性があるということなのです。もしそうなったら、最高気温日本一奪還です。そして、気象庁が100年後の気候をシミュレーションした結果、東北地域の年平均気温は現在よりも3℃程度上昇しているのです。とすれば、将来44℃、あるいは45℃というような記録も出てくるかもしれないということなのです。こんな記録は出さないようにと願うばかりですが、高温になりやすい条件を備えている山形では、地球温暖化をこのまま放置する限りその可能性は消えません。
樹氷が消える可能性
雨や雪についてはどうでしょう。これまでも年間の降水量に大きな変化は見られないのですが、短期間の大雨は増えているようです。これは全国的な傾向でもあり、雨の降り方が変化していると言えます。今後、山形でも河川の氾濫や浸水害、土砂災害が増えるというようなことになるかもしれません。
山形では地球温暖化が進むと雪が減るということが、冗談半分でよく言われます。確かに温暖化はマイナス要素ばかりではなく、トータルで考えていくことは大事なことです。冬の気温は長期的に上昇傾向で推移しています。気になる降雪ですが、今のところ雪が減っているという明確な傾向は確認できませんが、やはり将来的には降雪量は減少すると予測されています。
ところが、日本海側の山沿いなどで一部、降雪量が増加している地域も見られるのです。地球温暖化の影響によって気温は上昇するわけですが、その一方で大気中の水蒸気量が増えるため、気温が低ければ降水は雪になって、結果的に降雪量が増える場所も出てくるのです。地球温暖化の影響はなかなか複雑です。
雪が減れば除雪の苦労は軽減されますが、良いことばかりではありません。蔵王は樹氷を見ることのできる数少ないスキー場として有名ですが、この樹氷が減っていることが分かっています。
山形大学の柳澤文孝先生によれば、樹氷の下限高度は、1940年代は1300~1400mだったのが、1970年代は1500m、1990年代は1550m、2010年は1600mと徐々に上がっているそうです。そして、気温が約3℃上昇すると樹氷ができる下限高度150m上昇し、樹氷は全て消滅してしまうということなのです。
サクランボも消えるか
温暖化の影響は動植物に出ているとも言われています。例えば桜の開花。山形では1980年代の終わりまでは4月中旬から4月下旬に開花していたのが、1989年以降は4月上旬の開花と、早まる傾向にあります。カエデの紅葉が始まる日は、1960年頃は11月上旬だったのが、2000年以降は11月下旬になっています。
植物の中でも心配なのは農作物です。実は農作物については国としてもその影響を調査し、対策を検討しており、山形県も同様の分析を行っているのです。
まず米はどうでしょう。高温によって品質が低下し、収量が低下するようですが、高温耐性品種への移行等によって被害は回避できるようです。ところが、さくらんぼ、西洋なし、りんご等の果樹は、何年もかけて育てるため温暖化の影響を受けやすく、品質低下が予想されているのです。その一方、これまで栽培が困難だったかんきつ類等常緑果樹の栽培が可能となり、例えば、2060年代には、庄内地域の一部が、温州みかんの栽培に適するようになる可能性もあるそうなのです。
地球温暖化対策に立ち向かう
地球温暖化というとどこか他人事のような気がしてしまうものです。猛暑や大雨だけでなく、山形を代表するさくらんぼや樹氷が見られなくなれば、経済的な打撃をも受けかねません。もちろん山形県民だけで取り組んで解決する問題ではありませんが、世界では地球温暖化対策への動きが大きく高まっています。
パリ協定をご存知でしょうか。2015年、地球温暖化の上昇を産業革命以前に比べて2℃未満に抑えようと、国連で採択された目標です。2℃といっても、すでに1℃程度上昇しているので、後もう1℃程度の上昇で抑えなければいけないという非常に厳しい目標です。パリ協定を受けて、ヨーロッパも中国も、そして企業も取り組みを本格化させています。特に自然エネルギーはコストも下がり始め、経済的な効果も期待されることから、もはや世界的なトレンドになりつつあります。
山形県に住み、活動する私たち自身が省エネをしたり、自然エネルギーを使ったりするとともに、世界に向けて現在の化石燃料に依存したエネルギー社会の変革を呼びかけていかなければなりません。
参考資料
・仙台管区気象台WEBサイト「山形県の地勢・気候・コラム」
・仙台管区気象台「東北地方の気候の変化」、2016年12月
・地球温暖化に対応した農林水産研究開発ビジョン、改訂版、2015年6月、山形県農林水産部