リノベーションスクール@山形_Report
第2回リノベーションスクール山形が、2018年10月5〜7日、山形市七日町とんがりビルで開催されました。
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濃密な3日間のはじまりとなる初日。オープニングにはOpenA代表で東北芸術工科大学教授の馬場正尊氏が登壇しました。
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「4年前にリノベーションスクール山形を開催し、そこから出来あがったのが『とんがりビル』と『BOTA coffee』でした。今回も課題となる物件をぜひ事業化させるところまでやりましょう。
このスクールでは、シネマ通り周辺のまちの近未来を予測しながら、縮退しつつあるエリアを変えていくようなリノベーションプロジェクトを皆さんに提案してもらいます。どんなことを提案してもらえるとオーナーさんは嬉しく感じるのかを想像して、オーナーさんの胸に響くプレゼンをしてください。ただ論理的であることより、ハートがあることの方がずっと大事だし、熱量があればそれは相手にも伝わるものです。
このリノベーションスクールは、リノベーションアーキテクトの人材育成の場であり、まちを動かすエンジンのような仕組みづくりをする場であり、領域・地域をまたいで同じ目的を持つ者同士が出会いシナジーを生み出す場です。リノベーションは、これからの社会や地域に求められる新しい都市計画の手法です。みなさんにはぜひこのスクールで、いい仲間に出会い、いっしょに未来を考え、事業を作りだして行ってほしいです」という馬場さんからのメッセージによって、スクール開講です。
オープニングアクトにはBOTA coffeeの佐藤英人さんが登場。なぜ、どのようにBOTA coffeeが生まれたのか。そしてカフェにとどまることなくあたらしいビジネス展開を次々と進めている現在のご自身の活動とその意図をご紹介くださいました。
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その後はいよいよ、今回の参加者約15名が3ユニットに分かれ、ユニットマスターとともにそれぞれの対象案件見学へ。物件とエリアのサーベイの出来がその後の提案の精度に大きな影響を及ぼします。
大事なのは「まちにダイブする」こと。エリアの課題はなにか、変化の兆しはどこにあるのか、文脈をどう読み解くのか。そしてまた、スモールエリアをどう定義するのか、オーナーさんからどんな話を聞き出せるのか、オーナーさんはそこにどんな想いを抱いているのか。とても大事なところです。
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サーベイ後はそれぞれの分析や意見やアイデアを交わすユニットワーク。さらにその後のライブアクトには、ユニットマスターのおひとり大木貴之さんが登壇。「地域の日常をつないでつくるツーリズム」をテーマに、山梨ではじめられたご自身の飲食店の格闘の模様と、「ワインツーリズム」を成功させるまでの人間ドラマ、さらに山形や岩手などでも広がるワインツーリズムの展開の状況をご紹介いただきました。「儲からない…」という言葉がぽろっとこぼれつつも、裏方で戦いつづける男の意地のようなものが感じられ聞く者の涙を誘います。
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さて、2日目の朝はショートプレゼンからスタート。前日に初めて出会ったばかりの物件のリノベーション・アイデアを早くもプレゼンの形に落とし込みつつ各ユニットごとに発表します。
そのエリアをどう読み解いたのか、その物件の特徴と魅力はなにか、そこにはどんな物語が隠されていたのか、オーナーさんはどんな人で、どんな希望を抱いているのか。といったリサーチ結果と様々なファクトをベースに、「こんな事業をこんなふうにはじめて、改修にはこのくらいの予算を想定して、こんなふうに事業を回します」といったところまで発表。
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発表後は、ユニットマスター&サブユニットマスターのおひとりおひとりから質問やツッコミが様々な角度から飛んできます。なぜその場所で、その事業なのか? これはどうする、あれはどうする? といった感じ。リサーチの正確さ、ビジネスアイデアの強度、プレゼンの説得力が試され、まずは粉々に粉砕されていくプロセスです。
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2日目午前中のライブアクトにはユニットマスターのおふたりめ三浦丈典さんが登壇。ご実家のリノベーション・プロジェクトがいかにして始まり、どのようにビジネスとして展開し、どのように地域に溶け込んでいったのか。そしてさらに他地域で関わるリノベーション・プロジェクトで、建築設計の仕事にとどまることのない愛に溢れたユニークな仕事っぷりを紹介してくださいました。「共感されうる幸せな物語こそが社会を動かす原動力になる」との言葉と、琴線に触れてくるプレゼンが聞く者の涙を誘います。
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その後は、ショートプレゼンでユニットマスターから指摘されたツッコミをもとに、アイデアの練り直し、あるいはリサーチのやり直し。夕刻に再びショートプレゼン、再びマスターからのツッコミ、再び検討。
2日目夕刻のライブアクトには、ユニットマスターの明石卓巳さんが登壇。
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グラフィックデザイナーでありながら岡山市問屋町という大きなまち全体をリノベーションさせてきたその方法論や、そこに宿るブランディングの考え方などを紹介してくださいました。
「ユーザーに選ばれるための価値づくりこそがブランディングであり、そこには共感が必要であり、そのためにはストーリー構築が必要である」といった言葉の説得力とそれを裏付ける膨大な事例とが凝縮されたスピーディでノンストップなプレゼンは、聞く者を圧倒させ感動的でした。
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ほぼ朝方ちかい夜中まで頑張りぬいたユニットもありつつ、迎えた最終3日目の午前中はさらにアイデアを深耕させ、より説得力と現実味と明快さのあるプレゼンへ、各ユニットの落とし込みがつづきます。
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そして最終日14時、いよいよ最終プレゼンへ。
公開プレゼンとなったこの場には、物件のオーナーさんも来て下さいました。
それぞれのユニットによるプレゼンにはどれも熱がこもっていました。アイデアをぐっと深耕させ、ビジネスの現実性と継続の可能性をできる限り高いものにさせ、なおかつ「なぜその場所でその事業をやるのか」ということの理由がとても納得のいくものにまで昇華されていました。そこに刻まれて来た物語やオーナーさんの想いを、どんなふうに受け止め、どう繋ぎ、どんなふうに生まれ変わらせることで、新しい物語に転換していくのか。どのユニットのプレゼンにも血が通っていることが感じられました。
ここでは個々の物件の具体的な提案内容についてはレポートしません。遠くない未来に、それぞれの事業のアイデアが現実のものとなる日を待ちたいと思います。
それにしても、リノベーションとは誰かの「思い入れ」がとても大切なのだな、ということを、このスクールを間近で観察させてもらいながら改めて感じました。それはオーナーさんでもあるし、それを受け継ぐ事業者でもあるし。
そしてまた、七日町、というとても身近なまちのなかに、まだまだ知らない物語がいくつも眠っていることを、参加者の皆さんのリサーチから教えていただきました。先人たちの古い歴史や営みのなかには、面白いものや価値あるものがたくさんあるのに、それをみすみす見逃しているのは自分たちのほうだ、という事実を突きつけられたような。
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そんなわけで、各ユニットからの最終プレゼンの素晴らしさにユニットマスターも涙する事態となり、意外にも(?)エモーショナルな盛り上がりをみせたフィナーレ。スクールの終わりであるこここそがまた新たしい出発点となるはず。
新たなエリアリノベーションの展開が生まれ、やまがたのまちに新しい賑わいを生み出し、このまちをもっと楽しいものへと変えてゆく動きが生まれていきそうな予感を漂わせて、3日間に及ぶリノベーションスクール山形、これにて閉幕です。