濃いのにすっきり、七日町の〈BOTA coffee〉
深煎りコーヒーとリノベ空間のヒミツ
先日ご紹介した山形市七日町のカフェ〈BOTA coffee〉の店主、佐藤英人さん。地元のまちと向き合いながら、歴史ある傘屋のリノベーションを成功させ、七日町のシネマ通りに人を呼び寄せています。
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前回は七日町シネマ通りの現状と変化や、佐藤さんとまちとの関わり方を紐解きました。では、その活動の起点となる、BOTA coffeeの空間や味はどのように生まれたのでしょう。インテリアやお店のコンセプト、コーヒーについて教えていただきました。
──コーヒーにこだわったカフェをやろうと思ったきっかけは?
大学生の頃からコーヒーが好きで、カフェを巡ったり家で淹れたり、社会人になってからは自分で焙煎をはじめました。会社員として地元の不動産屋で働いていたので、最初は完全に趣味でしたね。そのうち独立を考えはじめて、自分で焙煎した豆を友達に飲んでもらったり、パッケージを考えたりして。
大学で学んだ「建築」、5年間勤めた「不動産業」、趣味として追求していた「コーヒー」、この3つがぼくの武器。そんな中でこの物件と出会い、お店の構想が具体化してきました。
──落ち着く店内ですね
ありがとうございます。お店の家具や雑貨はほぼ私物で、オープンする前から趣味で買い集めていたものです。古い家具や革製品が好きなんですよね。時間が経つほど愛着や魅力が増していく。それもぼくの大学の先生だった、東京R不動産の馬場正尊さんの影響が大きくて、「時間軸に左右されないモノの価値」を考えるようになりました。
お店をリノベーションしてつくったのもそんな理由です。内装はずっと通っていた山形の〈Caruru〉という花屋さんに相談しました。
──花屋さんですか?
Caruruの岡田さんは大学の先輩で、花屋をやったりグラフィックデザインも大工仕事も手がける器用な方なんです。ぼくの価値観も理解してくれて、センスに信頼がおける岡田さんにお願いすれば間違いないだろうと思いました。
BOTA coffeeの屋号も一緒に考えてもらったんですよ。この物件がもともと傘屋さんだったことから、「雨」や「傘」をキーワードに持っていました。傘から落ちる雨の音で「ボタ」。そして、雨の恵みで生きる植物たち、ボタニカルの「ボタ」でもあります。
──BOTA coffeeは、深くて濃いのにすっきりしていますね
うちで扱うコーヒーはフレンチローストの〈BOTA coffee〉1種類のみです。浅煎りもおいしいと思いますが、やっぱりぼくは深煎りが好みで、自分の好きな味1つをしっかり追求して、安定的に提供したいと思っています。
使う豆の産地は4種類です。ブレンドには、コロンビア、グアテマラ、タンザニア。ラテやカプチーノ用のエスプレッソには、深煎りが合うインドネシアを使っています。
豆は多めに、2杯分くらいの量を1杯に使います。少しずつお湯を垂らし、豆にじっくり水分を吸わせて、蒸らす。そこからゆっくりコーヒーのうまみを濃く抽出して、それをお湯で割るんです。「濃いのにすっきり」というのは、この淹れ方によるものですね。
──器の手触りがよくて、カタチもかわいいですね
栃木の益子焼で、作家さんから直接買っているものです。お店をやる前から自宅で使っていて、いつか開業するときはこれを使いたいと決めていたんです。
この器は飲み口が厚いんですよ。深煎りのコーヒーとこの器が合わさることで、さらっとしすぎないBOTA特有の「とろみ」が感じられるんです。テイクアウトもやっていますが、店内でこの器から飲んでもらえたらうれしいです。
──BOTA coffeeに合う食べ物は?
自家製のガトーショコラがおすすめです。深煎りのコーヒーとの相性は抜群ですよ。
スイーツやフードは基本的に自分でつくっていて、食材は農業をやっている祖母から仕入れることが多いです。たとえば今年の夏のラタトゥイユは、祖母がつくった夏野菜が主役でしたね。
改めて考えると、家族や周りの人からたくさん協力してもらっています。ケーキのレシピを友達につくってもらったり、アルバイトのスタッフもみんな器用で、お店の看板やドリッパーのスタンドをつくってもらいました。本当にみなさんのおかげですね(笑)。
──BOTA coffeeでは、豆の販売もしているんですね
いまはキッチンの奥のガス台で焙煎していますが、おかげさまで販売が順調で。今後は郊外に焙煎所をつくって、さらに豆の販売を強化していきたいです。そして、革を使ったスリーブやコースターのオリジナルグッズをつくる予定もあります。
夜はバータイムになってメニューも変わるので、昼とは違った雰囲気を楽しんでもらえます。サッカーの試合があるときはパブリックビューイングを行ったり、イベントを開催することもありますよ。コーヒーでもイベントでも、きっかけはなんでもいいので、気軽に遊びに来てほしいですね。
撮影:根岸功