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思考する街の小冊子『そらあるき』

2018.12.17

全国各地でローカルZINEや小冊子がたくさん作られている。

どれも地域ならではの特性が現れていて、ひとつとして同じものがなく、それらを集めることはささやかな私の楽しみでもある。

思考する街の小冊子『そらあるき』
『そらあるき』最新号

金沢には『そらあるき』という小冊子がある。

13年前から、有志の編集メンバーによって発行されていて、だいたい1年に1冊くらいのペースで現在で17号目。450円税込。

どちらかというと「ZINE」というよりも「小冊子」という呼び方が似つかわしく、完全なる読み物という印象。ちなみに冊子名である「そらあるき」とは、金沢で昔から使われてきた言葉だ。

よく晴れた冬の朝に
高く積もった雪の上をそっと歩いてみます。
雪の表面がカチンコチンに凍って
『ゴボ』らずに歩けたらそれが『そらあるき』。

ほんの少しだけ視線をかえてみるだけで
きっと心地よい浮遊感で金沢の街を歩けるはず。
ちょっと得したような
背筋をすっとのばしたくなるような、
そんな『そらあるき』気分を楽しんでください。

(『そらあるき』ホームページより)

思考する街の小冊子『そらあるき』
バックナンバーの一部。モノトーンの表紙がシック。

いわゆる「ガイドブック」とは違って「すぐ行けて、買えて、食べられる」情報は少なめ(というかマップページ以外はほとんどない)。

しかし、そこで間接的に紹介されているバーのマスターや、店主の言葉を手繰るように実際の場所を訪ねると、観光ガイド片手の旅とはまた違った“出会い方”ができるように思う。

今回は『そらあるき』の創刊当時からの編集長、塩井増秧(ますお)さんにお話をうかがってきた。

》塩井さんの詳しい記事はreallocalのこちらの記事にて

思考する街の小冊子『そらあるき』
そらあるき編集長・塩井増秧さん。新竪町商店街のアンティーク店「フェルメール」の店主。

「最初は新竪町界隈の店主たちで“ガイドブックに載らない金沢の穴場”みたいなのを紹介しようと言って始めたのが13年前。今の冊子とは名前は一緒だけどもう別物になってるかな。この10年で紙媒体で情報を発信する、ということの役割が大きく変わってきたからね。それまではスマートフォン片手に検索しながら、GPS使って目的地へ…みたいなことが全くなかったわけだから。僕たちはもうそういう“単なる紹介”はしなくていいかなって。今はどれだけ時間が経っても“再読できるもの”を目指しています」

思考する街の小冊子『そらあるき』
塩井さん自身も取材・執筆をする。

編集長である塩井さんを筆頭に、編集メンバーは金沢に住みながら、本業の傍ら冊子作りに参加している。あとは、その号ごとに、店主や新聞記者、作家から会社員まで、これまでに塩井さんと縁あった多彩な書き手が寄稿する。

テーマも実に多種多様。職人や店主のインタビューから、金沢の民俗や建築、文豪の話、知られざる名所探訪などなど。名の知れたアーティストのインタビュー記事も、極私的な出来事がつづられたエッセイも、等しく同じ重さをもって並べられている。

「書き手を選ぶ基準は“勘”です。有名無名は全く関係ない。“この人に書いてもらいたい”もしくは“この人書けそう”という人にお願いしてます。書いたことない人でも、何か“持ってる”人が絞り出すものは良いんです」

思考する街の小冊子『そらあるき』
例えば、金沢三大文豪の一人・徳田秋聲の記事。とっつきにくい作家も「そらあるき」を皮切りに読んでみるのも良い。

「活字」になる言葉というのは、普段の会話とは全く種類の異なるものだと私は思う。その人の奥底に溜まっていた何かを、思考しながら真摯に紡ぎだされた文章に触れたとき、会ったことも話したこともない人に「出会った」と思う瞬間がある。

それは「今日はどちらから?」とか「雨が降りそうですね」といった世間話を幾度重ねても触れられない部分だったりする。カメラロールにもSNS上にも残らない、とても静かな出会いが『そらあるき』にはある。

思考する街の小冊子『そらあるき』
折に触れてふと思い出す、そんな言葉が多い。

『そらあるき』は、その制作行程にも特筆すべきものがある。恥ずかしながら、私も昔一度だけ『そらあるき』に寄稿したことがあるのだが、何せ一つ一つの原稿にかなりの時間が割かれている。(年一回発行なワケだ)

寄稿するテーマに関しては各人自由。しかし、その後の原稿のやりとりが、マンツーマンのライタースクール、いや、“ライティング・ぶつかり稽古”と言ってもいい。いわゆる「校正」というレベルを超えて、もっと根源的に深く、思考することを促される。(私はここで書く自信を一度失った)

思考する街の小冊子『そらあるき』

「毎回真剣勝負だから、本当に大変(笑)。これまで17号もつくってきてるけど、何ができるかいつもわからないし、今も模索してます」

最近では編集メンバーで文章を持ち寄って議論したり、良い雑誌のつくりや書き方を分析する会も催しているそうだ。

「編集メンバーは、基本的にノーギャラ。それなのに『そらあるき』づくりに参加してくれてるのは、集まって話したり考えたり議論したり。そういうことがみんな好きだし、楽しんでくれているんだと思う」

思考する街の小冊子『そらあるき』
金沢の坂道

鈴木大拙や西田幾多郎、泉鏡花に室生犀星。数々の哲学者や文学者を輩出してきた金沢。「冊子を編集する上で“金沢”ということには全く固執していない」と塩井さんは話すが、個人が深く思考し続けることを促す、そのサロン機能こそが“金沢らしい”冊子だと意味付けてしまうのは安直だろうか。

読み物としてはもちろん、まるで雪の上を歩けたときのような、違うレイヤーで金沢を愉しみたい方にも、是非『そらあるき』を手にとってほしい。

名称

そらあるき

URL

http://www.soraaruki.com/

備考

※全国で『そらあるき』の取扱店を募集しています。買取・委託販売共にOK。5部からお取り寄せ可能です。HPのメールフォーム、もしくは下記にお電話下さい。

直販担当:細川真衣

金沢市池田町3-30  TEL:076-231-2678

屋号

そらあるき

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