寒い山形の家に潜む危険/楽しい暮らしのエネルギー08
冬危険な日本の家
山形の寒く長い冬が続きますが、最近、日本の住宅は寒すぎて命をも脅かすほどだということが社会問題になっていることをご存知でしょうか。そうしたことが言われるようになってきたのは、冬場に多くの人が風呂で溺死しているということが分かってきたからなのです。
山形県の場合、年間200人以上の方が風呂場で亡くなっておられます。比較としてあげると、交通事故で亡くなった方は平成29年で38人です。風呂は暖房を入れることがなく、10度を切るような温度になっていることも珍しくありません。
この寒い風呂で裸になり、寒さのあまり急いで熱い湯の中に入ると、その温度差から心臓などに大きな負担がかかり溺死に至ると考えられているのです。こうした自宅の風呂場での溺死は不慮の事故として扱われ、家族も運が悪かったか、本人の体に原因があったと考えてしまうのです。
ところが、そうした事故がおきる危険要因は住宅にあることが指摘されるようになりました。住宅に問題があるということは山形県の統計を見ても分かります。
【グラフ1】を見てもらうと分かるように、山形県の溺死者は北海道よりも多く、冬場になると増えます。日本では家全体を暖房して暖めるという習慣がなく、浴室やトイレは寒いままです。こういう習慣になったのは、とても家全体を暖房できるような家のつくりではなかったからです。しかし、北海道では早くから寒さ対策と省エネ対策として、住宅の断熱性気密性を上げるための工夫が積み重ねられてきました。その結果、山形よりは1ランクも2ランクも高い断熱性能が標準となっていきました。家の大きさも山形県ほど大きくはなく、家全体を暖めるところが多いことがこのような違いとなって出ていると考えられるのです。
溺死だけではありません。様々な病気も含めた死亡者が冬は増えます。
例えば、山形県の男性は急性心筋梗塞による死亡率が全国4位です。それに対して【グラフ2】を見て分かるように、北海道はその数も少なく、やはり冬場に増えることはないのです。その他、山形県民で多い、脳血管疾患、肺炎による死亡もまた冬に増える傾向にあります。
もちろん死に至らずとも冬になると風邪やインフルエンザが増えるのも、寒さによって免疫力が低下していることが影響します。
最近の調査では、室温が低いほど血圧、総コレステロール値、LDLコレステロール値が高く、心電図の異常所見のある人、夜間頻尿症状のある人、糖尿病で通院している人、聴こえにくさを経験した人、骨折・ねんざ・脱臼を経験した人などの割合が多いことがわかってきています*1。 こうした結果を見ると、家の寒さは万病のもとだということがわかります。
*1 日本サステナブル建築協会スマートウェルネス住宅等推進調査委員会
寒い山形の家
【グラフ3】を見てください。山形市内の一般住宅の温度変化です。暖房を入れると居間の上の方は20℃を越していますが、足元はようやく10℃を超える程度です。そして、暖房を切ると10℃を切って5度前後まで下がっています。暖房を入れてもどんどん上に抜けていき、床の下から外の冷気が入って生きているのです。かなり過酷な環境であることがこうしてグラフで見ると分かると思いますが、これが危険な環境であるということなのです。
しかし、こういう状況の家は山形ではめずらしいものではないでしょう。多くの人は冬になれば家も寒いものだと思い込んでいます。がんがん暖房を焚くのはお金もかかるし、エネルギーをあまり使うと地球温暖化とか環境に良くないし、だから我慢して省エネという人も少なくないでしょう。
たとえ家が寒いと自覚しても、建てた自分が悪いとあきらめてしまいます。アパートが寒くても、大家さんに文句言ってもどうにもならないとあきらめてしまいます。欧米では寒い家は賃貸でも訴訟になるそうです。家は暖かくて当然、人間が健全に生きていくためにはある程度の温度が確保されていなければならないという基本的な人権のようなものとしてとらえられているのです。そして、寒くなるような家は欠陥住宅だと考えられているからです。
健康な家づくりに向けて
暖房が必要と思われる日平均温度10℃以下の日数は、山形市で昨年153日、約5カ月です。東京は110日なので1カ月以上長いのです。今年の夏は暑かったのですが、日平均気温が25℃以上だったのは山形市で47日、東京で70日です。これだけ寒い冬が長くなれば、健康リスクは高まるのです。山形の家はやはり冬をいかに暖かく、そして安全に過ごすかが大事になってきます。
先ほどのように風呂場が寒くて死に至る事態まで起きる原因は家の中の大きな温度変化ですが、これによってヒートショックが生まれます。風呂場だけではなく、トイレや廊下、玄関、夜しか使わない寝室など、あちこちに寒いところがあります。暖房を入れている部屋は暖かいけれど、暖房を入れていない部屋は寒い。人がいつもいるところは暖房を入れるけれど、いつもいないところはもったいないから入れないということだと思います。
日本ではこれが当たり前になっていますが、海外ではそうではありません。ただ、昔のような家ではそれは無理でした。しかし、今は省エネルギーも考えながら家全体を暖房することは可能です。
寒い家になるのは断熱性能と気密性能が悪いからです。特に断熱性能が悪いのは窓ですが、熱画像を見ると窓の冷えがよくわかります。ガラスが冷えるのは分かるとして、アルミ製のサッシも非常に冷えるのです。日本では当たり前にあるアルミサッシですが、海外ではほとんど見かけることはなく、プラスチックや木です。そして、床から隙間風が吹いて冷えるのは気密性が悪いからです。これも熱画像を見ると畳の隙間などから冷気がにじみ出ているのが分かります。
こうした問題を解決して健康にもよく、省エネにもなる家づくりの基準を山形県が独自につくりました*2。国にも住宅の省エネルギー基準はありますが、これをはるかに上回る基準になっています。簡単に言うならば、最初に説明した北海道並みの断熱性能のある住宅だと思ってもらうといいでしょう。
国に先んじて山形県が動くという画期的な試みとして注目されており、補助制度もあります。この健康にもいいエコ住宅がどんなものなのかについてはまた次回詳しく説明したいと思います。
*2 やまがた健康住宅のWEBサイト
https://www.pref.yamagata.jp/tatekkana/support/kenkou/