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自分を滅して、初めて自分が現れる

塗師・赤木明登さんの漆の器

自分を滅して、初めて自分が現れる
能登で採れた漆を塗った赤木さんの器「能登飯椀」

赤木さんは全国にファンがいる有名な漆作家なのだけれど、つくる器はとっても 「ふつう」。尖っているとか、うねっているとか、そういう作為が全くなくて、どこまでも静かでしみじみ美しい。だからみんな、「ふつうの器」なのに、その佇まいで赤木さんのものだとわかってしまう。

こういう器はどうやったら作れるのだろうといつも思う。作為が手を離れて、まるで別の何かが手を動かしているような器は。

そんな疑問を抱えて赤木さんの工房を訪れた。そこでは6人のお弟子さん達が熱心に木地に漆の塗りを重ねている。赤木さん自身、輪島の塗師 (*1)・岡本進氏のもとで5年間修業を積んだ。そして独立後はある種の使命感をもって、こうして弟子を受け入れ続けている。

「親方は、東京からきたどこの馬の骨とも分からない僕を弟子にしてくれた。恩を返したくても親方には返せないから、輪島にやってきた若い子に、僕は同じことをしているんです」

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全国各地からやってきた6人のお弟子さん。赤木さんの工房からは何人も漆作家として独立している

昔ながらの言葉でいうと、丁稚奉公とか年季奉公とよばれるこの徒弟制によって、長らく日本の工芸は受け継がれてきた。赤木さんは修業時代の5年間を「とても気持ちがよかった」と振り返る。

「何かを教えてもらえるわけではないし、親方の言ったことしかできない。とにかく親方のことしか考えずに、親方だったらどうするか考える作業を延々と続ける期間。まさに滅私奉公です。でも、それを経ないと自分が本当に何がしたいのかなんて、わからないんじゃないかな」

だからこそ赤木さんは徒弟制が崩れた、現在の工芸界を憂いている。

「学校を出てきても職人としては全く役に立たないのに、出てきた子は一人前の気になっている。それをまず打ち砕かなきゃいけない。楽器で言えば、3つくらいのフレーズしか弾けないけれど、センスがよくて今の子達にうける歌はうたえる、でもそれじゃ消費されて終わってしまいます」

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能登の自然を眼前にした赤木さんの仕事部屋。ここで一人黙々と漆と向き合う
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綺麗に掃除されて、手入れされた道具が並ぶ職人の仕事場

赤木さんの修業時代は、朝目が覚めたとたん漆を触り、寝床に入る直前まで箆(へら)を離さない、そんな毎日だった。最初の頃は、体全身がかぶれて腫れあがる日も続いた。そうして4年が経ち「年季明け (*2)」を迎えると、親方と子方で三三九度の杯を交わし、「親子の固め」をする。この日から、親方と子方は実の親子以上に固い絆で結ばれると同時に、親方は越えなくてはならない存在にもなる。

修業時代という「通過儀礼」を経て、職人は精悍な顔立ちなっていく。赤木さんの器の、あの佇まいもまた、越えたものだけが醸し出せる風貌なのだと思う。

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赤木さんの漆の器は毎日の食卓にスッと馴染む


*1 塗師:分業制がとられている漆芸において、木地に漆を塗る職工をさす。
*2 年季明け:年季奉公(年限を定めてする奉公)の期限が終わること。

(Photo:Kota Yamada)

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URL

赤木明登うるし工房  塗師・赤木明登

http://www.nurimono.net/

住所

石川県輪島市三井町内屋ハゼノキ75

TEL

0768-26-1922

備考

赤木さんの作品の全国常設店・展覧会情報はホームページ「ぬりもの|赤木明登」にて。

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