“セッション”と“パッション”で街を変える人
コヤマコンセプト株式会社 貞國秀幸さん
天神・博多などの中心部から少し離れ、衰退というイメージのあった「井尻」や「美野島商店街」などのエリアにユニークな場を作り、継続的に人の動きを仕掛け、少しづつ街を変えている人がいる。
それが、建物の企画・プロデュースを行うコヤマコンセプトの貞國秀幸さん。
彼が2009年に手がけたのが「スタジオアパートメントKICHI」。元社員寮を音楽スタジオ付きアパートメントとして生まれ変わらせた。 ここでは、入居者間のゆるい繋がりにより、自然な流れでセッションやコラボレーションが生まれるよう、貞國さん自身で入居者をバランスよく選定しており、音楽ジャンルはジャズやクラッシックが多い。また、音楽だけでなくアート、デザイン関連の入居者もいるのだとか。
特筆すべきはこの場所だ。南区井尻という、天神・博多からは南方面へ電車で1本、乗車時間も10分前後という一見利便性を感じるエリアだが、2000年代は大手飲食チェーンも次々と撤退し元気がない街だったという。当然入居者集めにも苦労したそう。
そこで、貞國さんが重視したのがイベントだ。建物内の共用ホールを一般開放し、入居者企画のジャムセッションやライブを行ったり、他地域の人々との交流の為に、入居者が地域のイベントに呼ばれて演奏を披露したりもしている。
それらを重ねた結果、KICHIだけでなく井尻全体に活気が生まれてきたという。近年では演劇フェスティバルの開催や、音楽・映像・アートなどで井尻を盛り上げようとする学生団体が自主的に生まれるなど、福岡では芸術の街としてのイメージも高まってきた。
そして、もう一つ紹介したいのが「コステル美野島」だ。
ここは貞國さんが以前、海外を旅した際に立ち寄ったゲストハウスの居心地の良さにすっかり虜になり、これを日本に持ち帰るような形で2013年、スタートした。
博多駅から徒歩15〜20分ほどかかるが、昭和レトロな雰囲気が残る美野島商店街の一角に構えたことで、特に外国人には受けが良く、宿泊者の8割を占めるとか。また、商店街の人も度々1階のカフェに訪れ、国籍を超えた人々のコミュニケーションの場として活用されている。
ではなぜ、貞國さんはこのように一つの施設内に留まらず、街全体にコミュニティーを生み出そうとするのだろうか。それは、人々の価値観の変化にあるという。
「高度経済成長の頃はとにかく建物を作れ作れの時代で、日本人は、本来持っていた“ふれあい”や“助け合い”などのコミュニティーの概念を見失い、物質的な豊かさばかりを追い求めました。その結果、隣の住人を知らないことすらも当たり前になってしまい、結局人も街もハッピーになっていないんですよね。だから、ただ宿や家を作って終わり、ではなく、そこをコミュニティーのきっかけとなる“場”にしたかったのです。」
これらの場所を通して、人間としての本質的な豊かさに気づき、実感して欲しい。その為には人と街を巻き込む必要があった、というわけだ。
そして、その先に見据えるのは「人とのつながりを取り戻す」こと。
このシンプル且つベーシックなテーマに、貞國さんは情熱をもって向かい続ける。
備考 | 【貞國 秀幸さん プロフィール】 |
---|