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祝!ユネスコ創造都市ネットワーク加盟 市長インタビュー 後編
ユネスコ創造都市ネットワーク映画分野での加盟認定をうけ、山形市長のインタビューをお届けしています。
ユネスコ本部への出張の裏側や「山形国際ドキュメンタリー映画祭2017」についてお話いただいた前編に続き、後編では、映像文化創造都市やまがたの今後についてうかがっていきます。
(インタビュー:馬場正尊[東北芸術工科大学教授]・中島彩)
撮る・上映する・発信する。新しい映像の楽しみ方
中島 ドキュメンタリー映画祭の参加者の幅を広げていくために、どんな施策をお考えですか?
市長 映像文化に親しむ視点でいえば、社会派ドキュメンタリーにこだわらなくとも、劇映画が入り口でもいいわけです。フィルムコミッションは今後も力を入れていきたいですし、「好きな映画ベスト5を語る会」をやりたいと話す市民の方もいらっしゃいます。堅苦しく考えず、映像や映画を身近にしていきたいです。
YTSは自治体の「山形ふるさとCM大賞」を17年にわたって開催しています。35の自治体でコンペをして上位に入ると1年間放送されるというものです。今年は映像の創造都市として気合いを入れて取り組んだところ、久しぶりに準優勝しました。ほっと一安心です(笑)
馬場 見るだけでなく、撮ることも身近になったらいいですね。すごく短いドキュメンタリーとか。
市長 芸工大の映像学科からご指導いただく機会があるといいかもしれません。
馬場 芸工大では学生達が動画で取材をして、それを3分にまとめて出来栄えを競う授業をしていました。同じ題材でも撮り方によって全然違うことがわかっておもしろかったです。芸工大の根岸学長も、街に小さな映画館をどうつくるか、学生やドキュメンタリー映画祭の方々と取り組んでいます。
中島 映像学科長の林海象さんは自前のトラックに6人だけ入れる小さな映画小屋を積んで、まちなかを走り回って上映されていますよね。
市長 それはすごい(笑)
馬場 小さな移動映画館ですね。切り口次第でこんなに見せ方があるんだなぁと思いました。
市長 昔は神社の境内で白い布をスクリーンにして野外上映をしていました。そんな文化が蘇ってもいいかもしれません。実際に七日町の御殿堰にある芝生スペースでは何度か上映会をしています。『西部警察』をやっていたような…。
馬場 それは渋いセレクション(笑)
中島 撮ることでいえば、いまはスマートフォンできれいな動画が撮れますよね。
市長 しかも気軽にSNSで発信できます。
馬場 昔はたくさんのお金をかけて一部の人がつくるものが「映画」だったけど、いまは見るのも上映するのも、撮ることさえも身近な範囲でできてしまう。おもしろい変化です。
「群像劇」から見えるもの
中島 市長はもともと映画はお好きですか?
市長 好きですよ。父が映画好きでしたし、我が家では淀川長治さんがナビゲートする『日曜洋画劇場』が定番で、子どもの頃からテレビで毎週2〜3本は見ていました。
馬場 なつかしいなぁ。
中島 どんな映画がお好きですか?
市長 大学時代は過去の名作をたくさん見ました。今回の取材の前にどんな映画が好きか考えてみたところ、わたしは群像劇が好きなことに気づきました。
たとえば『仁義なき闘い』。主演として菅原文太がいますが、これは一人の人間が主役の作品ではありません。小林旭もいるし、松方弘樹もいるし、梅宮辰夫もいて、周りには個性の強いキャラクターたちがいる。
もうひとつ好きな映画に、岡本喜八監督の『吶喊(とっかん)』という作品があります。明治維新の東北の話で、新政府軍が攻め上がってくるなか、仙台藩下級武士の細谷十太夫が、博徒、百姓、土方など五十七名を集めゲリラ隊をつくり、皆で力を合わせて戦う物語です。
最近だと『シン・ゴジラ』も良かったですね。飛行機の中で行きと帰りで2回見ました。洋画だと『スティング』など好きですね。映画の手法でいうと「グランドホテル方式」というのでしょうか。
馬場 多彩なキャラクターが登場して、いろんな出来事が同時に起こっていく。それがひとつの物語にまとまっている。多様性を認める市長の寛容さと重なる気がします。
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中島 今回の認定加盟をうけて、「映像文化創造都市やまがた」の今後について教えてください。
市長 ユネスコの考えの原点は「グローバリズムの時代にどう生き残っていくか」ということ。文化の多様性を保持しながら、文化産業を都市間での連携によって盛り上げていくことが創造都市ネットワークの考え方です。
馬場 なるほど、グローバリズムとは世界の均一化で、各国や地域の独自性が失われていくとすれば、「創造都市ネットワーク」とはユネスコが持つグローバリズムに対する危機意識というわけですね。
市長 固有の文化は強く大きな資産なので、そこから雇用や経済につなげていきたいですし、さらには「発展途上国への貢献」や「持続可能な発展」を考えていかなくてはなりません。
たとえば、発展途上国からクリエーターをお呼びして、山形市を舞台に映像を撮ってもらう。その人にとってはそれがチャンスになるかもしれないし、それがどこかの国で上映されたら、山形市のPRにもなる。そんな取り組みを行っていきたいです。
中島 鶴岡市も加盟都市であることを考えると、山形は個性が豊かな県ですね。
市長 そうですね。鶴岡市は「食文化」として登録されていますが、山岳信仰やクラフトも盛んで、食文化だけではない多彩な文化をもつ街です。県内のネットワーク仲間として、今後連携を考えていきたいです。
さらに今後は、文化活動を観光にも生かしていきたいです。外国の人からみると、普通の町内会の盆踊りですらおもしろいというのです。気軽に仲間に入れることも魅力的だそうです。市民のみなさんには身近にある文化活動の価値の高さを改めて認識して、積極的に発信していただきたいです。
中島 地元の文化活動の価値を認識するためには、客観的な目線も必要になりますね。
馬場 その点においても、今回の創造都市ネットワークへの加盟はとても大きな意味があると思いました。山形市に住んでいる人は、おもしろい文化活動や資産があることを“なんとなく”知っている。だけど、バラバラに存在しているし、クリエイティブなものとして認識がつながってなかった気がするんです。
今回創造都市ネットワークの枠組みに入ったことで、「あれ?冷静に考えると、あれもこれもクリエイティブでおもしろいよね」と改めて山形市の文化の多様性を意識化するきっかけをもらえた気がします。
市長 同感です。いろんな要素が頭でつながって整理ができました。今回の認定をきっかけに、山形市全体で改めて身近にあるクリエティブな要素に目を向けていきたいです。
【編集後記】
今回のインタビュー中で、内側からメッセージを放つ原石のかけらを見つけました。それは市長が「群像劇」の映画がお好きだということ。
群像劇とは、一つの場所を舞台に様々な個性を持った人々が集まり、登場人物一人一人にスポットを当て集団が巻き起こすドラマを描く劇のこと。
山形市には多種多様な文化資産があり、それをつくるのも個性豊かな市民の力。圧倒的なひとつの名物やリーダーではない。人も文化資産も、個性ある要素の集合体こそが山形市の魅力である。
市長のお話からは、そんな市政の根本的な考え方が垣間見えた気がしました。それはユネスコ創造都市ネットワークが提唱する「文化の多様性」に通づる考え方でもあります。
リアルローカル山形では、引き続き「映像文化創造都市やまがた」のニュースや取り組みをお伝えしてきます。
撮影:根岸功