白十字店主 山崎惠子さん/ Yamagata Portrait 1
2018.08.21
ふるさとのまちなかで、撮りたい人に会いにいき、撮りたい人の声を聞き、撮りたい人を撮っていく。フォトグラファー志鎌康平によるフォトエッセイ・シリーズです。
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「昔はね、ここのカウンターが立ち飲みだったのよ。朝、県庁やら市役所やら働きに行く前のお客さんがカウンターにぎゅうぎゅうになって珈琲飲んだの。午前中だけで100人が来てね。人の合間から珈琲出すこともあったんだから」
土曜日の昼過ぎ、店内には3名ほどのお客さんがいた。カウンターに座って雑誌を見ながら珈琲を飲むご婦人、楽器のケースを抱えテーブル席につきカレーを頬張る40代後半の紳士、カウンター越しに話をする作業着姿の男性。皆思い思いこの店内の過ごし方があるようで、僕だけがそれを持ち合わせておらず、どこかそわそわした気持ちのまま店主の惠子さんへ話を伺っていた。
店の名前の由来をお聞きすると、今は亡きご主人が、戦時中発電技師として天津にいたという。その頃、満州・大連のフランス租界にあった白十字という喫茶店によく通い、日本に無事で帰ったら白十字という店をやろうと心に決めたらしい。ご主人がこの地に「白十字」という看板を掲げて46年。店内は3度改装したらしいが、惠子さんはずっとこのお店に立ってきた。カウンターも壁も椅子も変わってしまったけれど、昔の大賑わいだった頃の店内を、惠子さんの目の奥に見た気がした。
2018.7.25