田んぼのソーラー/楽しい暮らしのエネルギー06
田んぼソーラーシェアリング
山形の田んぼが一面黄金色に色づき、稲刈りのコンバインがあちこちで動き回るシーズンになりました。こういう風景を見ながら、もうすぐ新米が食べられるぞと思ってしまうのも、都会にはない、山形ならではの楽しみでしょう。
そんな山形に、ちょっと風変わりな田んぼがあります。東根市の農家、秋葉慶次さんの田んぼです。
この田んぼの上には写真のようなソーラーパネル、つまり太陽光発電が並んでいます。細長いソーラーパネルが312枚、合計出力約30kWの発電所が田んぼの上に乗っかっているのです。こんなことをしてちゃんとお米は作れるのと思う人も多いかもしれません。しかし、ご覧のようにしっかりと収穫できているのです。
こうした太陽光発電をソーラーシェアリングと呼びます。何をシェアするかと言えば、太陽のエネルギーを米にも、電気にもシェアして使うということなのです。
この秋葉さんの田んぼの場合、4分の1ほどは太陽光発電に使われ、残り4分の3は稲に使われます。それでも十分稲は育っています。パネルの影は太陽の動きとともに動いていきますから、ムラができるわけではありません。太陽のエネルギーは植物が本当に必要な量以上に降り注いでいて、ソーラーパネルを設置して光が届かない影ができても、一定程度は問題ないという話なのです。
ソーラーシェアリングは千葉県の長島彬さんが提唱し始め、全国で1,000件を超える広がりを見せています。農林水産省も営農型発電設備としてソーラーシェアリングを定義づけ、農家の所得向上や荒廃農地の解消につながる取組を後押ししていこうとしています。ただし、一時転用許可ということで認めているので、農地として存続させることに違いはありません。ですから農地をつぶしてエネルギーをつくるということではなく、あくまでも農業とエネルギーの両立が前提になっています。
エネルギー兼業農家
いったいソーラーシェアリングでどれぐらいの電気がつくれて、どれぐらいの売り上げになるのでしょうか。
例えば1000m2ほどの土地があれば、約50kWほどのソーラーパネルが設置できます。1年間に発電する量は少なくとも5万kWhにはなります。これを今は20年間電力会社に売り続けることができるようになっています。
単価は2018年度の場合1kWh当たり18円です。とすると、1年間で900万円の売り上げが20年間確実に続くことになります。同じ面積1000m2で米の売り上げを計算してみると、米の収穫を約600kg、60kg当たりの値段を14000円とすれば14万円で、先々のことは全く分からないような状況です。もちろんソーラー設備の投資が必要ですが、非常に大きな違いです。
米をつくっても儲からないという話をよく聞きます。耕作放棄地が増えているという話もよく聞きます。農業をやっても儲からなければ、農業をやる人が減っていくのは無理もありません。
こうした状況は日本だけの話ではなく、世界的な傾向になっていて、それが農村の人口減少と都市への人口集中の原因にもなっています。そうした状況を改善するためにヨーロッパでは農業だけでなく、エネルギーも農家の生業にしていこうとする動きが活発です。
このシリーズ「楽しい暮らしのエネルギー03」でも、ドイツでは牛や豚のふん尿からメタンガスを発生させて発電事業を行っている農家がたくさんいることお伝えしましたが、ソーラー発電を行っている農家も多いのです。なぜなら、農家は広い土地を持っているし、農業倉庫などの屋根など、太陽光発電パネルを設置する場所を一般の人よりたくさん持っているからです。
こうした電気などのエネルギーもつくる農家は、エネルギー兼業農家とも呼ばれています。日本では発電というとどうしても大きな会社がやるイメージで、農家も一般の人も遠い存在のように思われているかもしれません。しかし、実際にはドイツのように自然エネルギーはもっと身近なところにあるのです。特に山形のように自然が多く、農業が盛んなところはそうです。
農家のソーラープロジェクト
去年、秋葉さんはこの田んぼソーラーの他に、長年耕作されて来なかった農地に新たなソーラーシェアリングをつくり、その下でワラビを育てておられます。何も生産することなく、毎年草刈だけはされてきた農地が、こんな形で再びよみがえるということは喜ばしいことではないでしょうか。
このソーラーの建設資金には一口5万円の寄付金も募られました。寄付をしてくれた人には、毎年1万1千円相当のさくらんぼや米が送られてくるという特典付きです。生産者も、消費者も、ウィンウィンです。
鶴岡市のだだちゃ豆農家、木村充さんは農地にトラクターのための小屋を建てましたが、その屋根に10kWのソーラーパネルを設置しました。
山形では農業倉庫らしき小屋をあちこちで見かけます。農業が盛んな地域ならではの光景ですが、もっとこうした小屋の屋根をソーラーパネルの設置場所に使えるのではないかと思います。木村さんも秋葉さんと同じように寄付金を募り、だだちゃ豆とお米でお返しをされています。
やまがた自然エネルギーネットワークでは、この秋葉さん、木村さん、二人の農家のソーラープロジェクトを応援してきましたが、これからもそういう農家をサポートしていきたいと考えています。11月12日(月)には山形市で農地を活用するソーラーシェアリングの学習会も開催します(詳しくホームページにてhttp://yamaene.net/)。
日本の農地の1割ほどが耕作放棄地になっています。この1割ほどの農地をソーラーシェアリングするだけでも日本の電力需要の相当量を賄うことができます。耕作放棄地が多いとはいえ、日本の食料自給率は39%。農地は農地としてこれからも守っていかなければなりません。
しかし、日本のエネルギー自給率は7%と、食料自給率よりもさらに低いのです。狭い国土の中で限られた土地を有効利用するために、同じ場所で農作物もエネルギーも両方生産するソーラーシェアリングは効果的です。農業そのものにとっても収入源を多角化し、経営を強化していくことにもつながるのではないでしょうか。
最近山形でも山を削って巨大なメガソーラーをつくる計画が出ています。日本の国土で一番面積が多いのが森林で、山の管理に手を焼いている人が多い状況からこうした計画が上がりやすいのです。
しかし、山の大規模開発には様々な環境問題や災害が懸念されます。日本の国土で農地は森林に次いで面積の大きい土地です。山間部よりも人里に近く、平野部が多いので、大きな造成もなく、すでにある電線などのインフラも使いやすい場所です。自然エネルギーを中心としたエネルギーに転換していくためには、こうした大きな土地利用の方向性を考えていかなければなりません。
こうした田んぼや小屋の屋根のソーラーパネルは田園風景にそぐわないと思う人もいるかもしれません。しかし、あちこちで見かけるビニールハウスもすでに見慣れた風景です。田園風景にふさわしいソーラーのデザインを考えていくことも大事になってくると思います。自然エネルギーというのは技術的な要素もさることながら、都市計画やデザインのことも考えていかなければならない、まちづくりでもあるのです。