トレイルランナー 高橋和之さん/ Yamagata Portrait 2
ふるさとのまちなかで、撮りたい人に会いにいき、撮りたい人の声を聞き、撮りたい人を撮っていく。フォトグラファー志鎌康平によるフォトエッセイ・シリーズです。
「おはようございます。」
11月に入ったばかりの朝6時。僕は予てからお会いしたかったトレイルランナーの高橋和之さんと、西蔵王の駐車場で待ち合わせた。高橋さんはトレイルランニング(以後:トレラン)という山路を走る競技の日本の注目選手だ。今年は海外4つ国内4つの大会に出場し、先日も韓国の済州島で行われたTRANS JEJU2018という国際大会で3位という成績を残している。
現在、日本や世界の大会で上位入賞を果たし年間いくつもの大会に出ている高橋さんは、実は山形県の高校の学校技能員という仕事をしている。トレランと仕事を両立しながら練習をこなしている高橋さん。どんな経緯で今に至ったのだろうか。トレランを少しばかりかじっている僕としても、山形に住みながら世界で活躍する高橋さんの話を聞いてみたかった。
一緒に走りながらインタビューしてもいいですか?とお願いし、軽いジョグ程度ではあるが西蔵王の紅葉の中を、録音アプリを立ち上げたiPhone握りしめ走リ始めた。
「バトミントンしかしてこなかったんですよ。」
トレランをするきっかけを聞いたところ、てっきり部活は陸上部だとか走ることを連想させるスポーツを想像していたので、意表を突かれた。
最初はバドミントンのトレーニングの一環で坂や山を走っていたが、ロードを走るより山の方が気持ち良かった。ロードの大会をいくつか出たところで、どうせなら一番過酷な大会に出ようと思い、初めて出た大会が富士登山競走という大会であった。富士吉田市から富士山の山頂までを走る大会で、標高差3000メートル、気温差21度。完走率は40%弱ほどだったという。高橋さんは初めての出場で完走を果たし、これが大きな自信になった。今から約10年ほど前。バトミントンの締め切った体育館の中から、風、雨、獣、暗闇が待つ自然の中へと、自分の世界を見つけたときであった。
高橋さんに山を走る魅力を聞いてみた。
「山を登ることがきつい、辛いと思う以上に、自然の中でしか見れない景色、普段の生活では味わえないような感覚に出会えることです。トレランと出会って一気に生活が変わった気がします。週末は山の中で生活する機会が増えました。バトミントンをしていた頃からは想像がつかないですよ!」
そうお聞きし、僕はバトミントンをしている高橋さんが想像つかなかった。
30分ほど一緒に走ると、木が生い茂る坂を越え、蔵王瀧山を見渡せる高原に出た。僕が好きな山だ。高橋さんも最初に行った山は蔵王らしい。ここで山形を拠点にしていることについて尋ねて見た。
「大会は全国のいろんな人との出会いがあるのが楽しいです。山形にいることは、大会に出るにはアクセスが悪いんですけど、山がある生活の延長に大会があるので。普段の生活の中で山が身近にあるというのが大事ですよね。」
話をお聞きしながら、高橋さんの言葉に強く頷いていた。
トレランの良さというのは走らないとわからない。これまで経験したことがないような野生の感覚、自然との一体感。それを身近で感じられる場所に居られることはとても幸せなことなのだ。
取材が終わり、高橋さんの出勤時間が近くなってきた。薄暗かった山もすっかり明るくなり、木の隙間からチカチカと太陽が見える。少しだけど朝の山にこれたことが気持ちよかった。別れの挨拶を交わし、高橋さんは仕事場へ向かった。
日本の注目トレイルランナーは、今日も技能員として地元の高校で働きながら、山を愛し駆け回っている。
高橋和之さん:通称「アミル」
1978年山形県生まれ。山形工業高等学校、東北福祉大通信部卒。学生時代からしていたバドミントンの練習で山と出会い、トレランを始める。2008年初めて富士登山競走に参加。2012年100mileレース第一回UTMFに参戦。その後次々と大会で成績を残す。主な成績に、2016年オックスファムトレイルウォーカー東北 優勝。峨山道トレイルラン 2位。2017年トレニックワールド100mile&100km in 彩の国 優勝、OSJ ITAMURO 100 2位。2018年Andrra Ultra Trail Mitic 11位、TRANS JEJU 2018 111km 3位。現在、上山明新館高校にて技能員として働きながら、国内、海外の大会で活躍しているトレイルランナー。