里山で始まった賃貸住宅プロジェクト【前編】
昨今、年々加速する地方の中山間地域の過疎化や少子高齢化。
福岡県八女市上陽町の久木原(くきはら)地区も例外なく同様の問題に直面している小さな集落。そんなどこにでもある小さな集落にできた里山の賃貸住宅を舞台に今、民間・地域・行政が手を取り合い、地域課題と向き合うための新たな取り組みが始まっています。
地方の衰退が進む一方で、都市部から自然豊かな地方の農山漁村への移住を希望する人々も年々増加傾向にあり、田園回帰の意識が高まっています。しかし、実際に農山漁村への移住をして希望に沿うような暮らしを始めるにあたってはいくつかのハードルが存在しており、そのひとつが住居に関する問題。
地方の田舎エリアには一般的な不動産市場があまり成立しておらず、家がなかなか見つからない、または選択肢が極端に乏しい。特に賃貸市場においては、本来需要が少ない田舎において事業リスクも大きくなるためアパートなどの賃貸物件そのものがほとんど存在していません。
空き家に関しても、荷物整理が大変、仏壇がおいてあるから、相続などで権利関係が複雑になって意見がまとまらない、よく知らない人には貸したくないなど、様々な理由で貸してもらうことが困難です。かと言って、賃貸よりかは幾分出やすい売買物件をいきなり買うというのも、もし地域に馴染めなかったときのことを考えると怖いところ。
移住者を迎え入れる、里山の集合住宅プロジェクト
そこで、そんな現状を打破すべく、2018年夏に八女市上陽町の久木原地区に誕生したのが賃貸集合住宅「里山ながや星野川」(以下、星野川)。
星野川は、中山間・過疎地域における賃貸住宅を民間企業が建設し、地域や行政と協力・連携しながら移住者の受け入れを進めています。民間企業が自らの資金で建てるわけなので、不動産資産としてもビジネスの視点でも民間主導ではあるものの、同時に地域の資産として地域や行政と連携を図っていくという全国的に見ても珍しい取り組み。
また、このプロジェクトは、地元の木を使い、地元の大工さんが建てることで、地域産業でもある林業との連携、若い世代の大工の育成など地域産業の活性化にも寄与。敷地は廃校となった小学校跡地を利活用しており、地域の風土にあった建築デザインも意識され、広い視点で地域活性化のための象徴となる目的を果たしています。詳細は下記コラムをご覧ください。コラム:「森が地域と人をつなぐ〜里山の集合住宅PROJECT〜」
星野川は、伝統的な板倉構法で施工された木造長屋住宅。長屋は、もともと経済成長期に都心部で急増する人口を受け止めるための住宅であったそうです。今度はそれが中山間の過疎地域で移住者の受け皿となる役割を果たすべく採用されました。また、メゾネットで戸建てのように使え、土に近い生活を送ることも可能です。
専有面積は、約45㎡とそれほど広くなく、単身からカップル、夫婦、もしくはまだ子どもが小さなファミリー世帯ぐらいまでが許容範囲ですが、この場所をステップに、地域に馴染んで定住をするときは、信頼関係の出来た地域住民から空き家や土地を紹介してもらって、そこに新たに居を構えて欲しいという意図も込められています。
住んでからが本番、移住後の充実度を上げるためのしくみ
また、このプロジェクトでは建てて終わりではなく、地域にコミットしたかたちで運営が進められているのも大きな特徴のひとつ。建築以前の段階から、地域住民と何度も協議を重ねてプロジェクトを進行し、まずは運営者と地域とが信頼関係を構築することを重視してきました。
農山漁村のような田舎では、よそ者に閉鎖的な側面をもった地域も少なくなく、当初、星野川がある久木原地区でもプロジェクトに対して不安の声も多くありました。そのため、星野川の建設をきっかけに、運営会社である八女里山賃貸株式会社と地域、八女市の3者において地域活性のための協議会も結成され、地域住民の気持ち、移住してくる側の気持ち、それぞれをお互いに理解しあえる環境をつくろうと、地区の区長さんを中心に特に地域住民の受け入れ態勢の醸成が図られてきました。最近の言葉で言うならば、コミュニティーデザインをしっかりみんなで考えてきたと言えるかもしれません。
そして、移住者と地域住民を結びつける橋渡し役として物件には地域住民と顔馴染みである管理人が居住しており、地域ならではの風習や集まり、地域行事なども把握。入居者が無理なくスムーズに地域に馴染んでいけるように程よい距離感で入居後のアフターフォローをしています。
そのおかげで現在は、定期的に地域住民と入居者の交流会が開かれ、みんなで家から家庭料理を持ち寄ってBBQをしたり、地域住民と一緒にたまねぎをつくったりと物件運営そのものに地域コミュニティーとの関係性づくりが盛り込まれていることが入居者にとっても安心できる要素となっています。結果として、いざ始まった移住後の暮らしにおいて地域も移住者もお互いに充実度が向上しているというわけです。
移住をする際に地域に馴染めるかが不安と言う声は多く、移住後すぐにその問題に直面して他の地域に引越してしまったなんてことを聞くこともあるので、久木原地区のような開かれたコミュニティーがすでに存在すると言うことは、地域を選ぶ際にとても大事なことのように思います。
里山ながや星野川は、残り3組の入居者募集中
そういう意味でも、全国各地に里山・田舎暮らしができる場所はたくさんあれど、本当の意味で地域とともにその暮らしを楽しめる場所は、もしかするとそんなに多くはないのかもしれません。
里山ながや星野川の地域住民の方々は「本当にここは何もない場所だよ」と口を揃えて言いますが、人と人のつながりを大事にしながら前向きに歩みだしている地域住民の存在こそ一番の宝ではないかと思ったり。この場所を選ぶ理由としても十分な気がしてしまいます。
星野川は、残り3組ですが現在も入居者募集中、ご興味ある方はお気軽にお問い合わせください。
物件詳細はこちら:「里山のミライをつなぐ集合住宅」
八女市のエリアガイド:「八女を知る、エリアガイド入門編」
【後編】では、プロジェクトの視点から、この取り組みのポイントや地域住民に与えた影響など、中山間地域の活性化のためのヒントを探ります。
「里山で始まった賃貸住宅プロジェクト【後編】」
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