お日さま農園 西尾佑貴さん/わたしのスタイル1(前編)
山形市内のレストランで目にする機会も多いお日さま農園さんの野菜は、寒河江市内の約2ヘクタールの畑で農薬や化学肥料を使わずに栽培されています。旬の野菜を複数詰め合わせた「野菜セット」は、週一回を基本に、寒河江市、山形市、天童市などの契約している各家庭やレストランに直接配達。その品目数は、常時10種類ほど。
「切らさず作り続けることの大変さはやはりありますね」と話すのは、お日さま農園園主の西尾佑貴さん。それだけの多品目を常に育て、直接届け続けるスタイルには、どんな思いが込められているのでしょうか? それは西尾さんたちの目指す野菜の育て方、農業のあり方とも、深く関係していました。6月上旬の畑を訪ね、お話を伺いました。
美味しさを追求できる
農業の仕組みを模索
甘さが凝縮した寒い季節のホウレン草や、煮れば煮るほど風味が増す大根。夏はしなやかにみずみずしいキュウリに、焼けばとろける青ナス。そして暑さをくぐり抜ける頃届く、ニンジンやタマネギのえぐみのないまろやかな味。季節ごとに豊かな風味と食感が楽しいお日さま農園さんの野菜ですが、それらを育てるうえで西尾さんが大切にしているのは、「それぞれの野菜らしい美味しさ」だと言います。それは野菜の育て方や環境づくりとも、まさに直結すること。
「例えば、今はちょうどズッキーニも育ち始めていますが、なるべく土をカラカラに乾いた状態にせず、植物にストレスを与えないようにします。すぐそばには麦を播いて天敵などをすまわせることで、虫害を防ぐようにしたり。麦は深く根を張るので、土に長期的なよい効果ももたらしてくれるんです」
西尾さんが農業を始める際、影響を受けたという一冊の本があります。それは福岡正信さんによって記された『わら一本の革命』。福岡さんが著書のなかで提唱する自然農法とは、土を耕さず、肥料をやらず、農薬を使わず、除草もしない、自然に負荷をかけず土そのものに宿る生き物の循環を生かした栽培方法です。しかし、土を耕さず肥料をやらない自然農法は、継続的かつ多品目の野菜供給を目指す際には、多大なリスクを伴う側面もあります。そこで西尾さんは、自然農法の考え方を取り入れつつも、肥料を施して野菜を確実に育てていく有機農業を選びました。安定的に野菜セットを契約者に届けて販路を確保できれば、野菜の質を一層高めていくことができると考えたからです。
自分の根っこで立ってこそ
野菜らしい味がする
有機農業とは、国が2006年に定めた「有機農業の推進に関する法律」のなかでは、「化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと並びに遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業」(第二条)と定義されています。西尾さんもやはり、農薬を使わず、厳選した有機質の肥料を使用しています。その一つとして畑で見せてくれたものが、酒粕です。酒粕は、年数が経過すると黒ずんで出荷できなくなるため、酒蔵が処分に困っている話を耳にし、直接出向いて譲り受けるようになりました。「なるべく近隣の地域で手に入り、無料または安価で入手でき、野菜にとって成分のよいものを肥料として使っています」と西尾さん。こうした地域資源の利活用のもと、「環境への負荷をできる限り低減」すべく実践しているのが、契約者へ直接配達する「野菜セット」の仕組みなのです。
「もともと環境問題にも興味があったので、一家族の食をまかなえる品目と量と種類をそろえ、それを軽トラックで直接届けて完結できたら理想的だなと。こういった農家が各地域にいれば、資源消費の無駄をなくして環境問題も打破することができる。目指しているのは、そんな農業のあり方なんですね」
実り始めたキュウリの前で、「これは特にこだわって育てている野菜」なのだと話してくれた西尾さん。キュウリは土壌病害への抵抗性が弱いため、カボチャに接ぎ木をして育てる方法が一般的です。しかし西尾さんは、キュウリそのものの根で育てているのだと言います。「そうするとやはり病害には弱くなりますが、よりキュウリらしい味が出るんです。だからしっかりと自分の根っこで育ててやりたいなって」。
西尾さんの言う「野菜らしい美味しさ」とは、野菜そのものが自立してこそ生み出される味。それを追求することは、農家や地域が、多様な関係性のなかで自立することと深く関わると感じた印象的なエピソードでした。
さて後編では、西尾さんの奥さんの沙織さんにも登場いただき、これまでのこと、現在の暮らしなどについてお伝えします。
お日さま農園 西尾佑貴さん 沙織さん/わたしのスタイル1(後編)はこちら