「差別のない世界」をつくるハーブ農園。
ハーブ農園「PAYSAN(ペザン)」
“石川の北海道”…と、個人的に呼んでいる「河北潟干拓地」。
金沢の中心市街地から、海に向かって車で30分ほど。1,356ヘクタールの広大な干拓地に牧場や農園・果樹園が点在する、なんとも牧歌的な風景が広がります。
県外の方の目には、ちょっと予想外な「石川の風景」として写るかもしれません。
今回はその河北潟にある、先進的な取り組みを続けるハーブ農園「PAYSAN(ペザン)」さんをご紹介。
無農薬農法のハーブ農園。
2.2ヘクタールの畑では50種類ほどのハーブが、農薬や化学肥料を使用しない無農薬農法で栽培されていて、すぐ横に併設されたショップでは、新鮮なうちにフリーズドライにした商品を販売しています。
ハーブ畑も「観光農園」として一般に開放されていて、入園料300円(ハーブティー付)さえ払えば自由に散策することができ、カモミールやラベンダーの季節には、摘み取り体験も可能です。
園内のベンチに腰掛け、そよ風に吹かれながらハーブティーをいただけば、ザワついた心もすっかりチルアウト。。。
ラグジュアリーなキャンプ「グランピング」などイベント会場として使用されたりと、金沢からほど近い癒しスポットとしても人気があります。
農業と福祉の未来を担う「農福連携」。
……と、ここまでの紹介だと、女性誌向けの「ほっこりスポット」に終止してしまうと思うのですが、ペザンの本領はここから。
ほっこりどころか、ガツンとクールな「農福連携」の取り組みを、ペザンの運営会社「ポタジェ」代表の澤邊友彦さんにうかがいました。
「農福連携」とは、農業と福祉の現場が連携することで、障がい者や社会的に弱い立場にある人の自立を支援する取り組み。人手不足が深刻な農業と、働く場を求める福祉のニーズが合致して、この動きは今全国的な広がりを見せています。
ポタジェと金沢市の「株式会社クリエイターズ」が協力して、2016年4月に立ち上げたのが、就労継続支援B型事業所「リハスファーム」。福祉事業所が「作業」の一環として農業を取り入れることは一般的ですが、農家が「パートナー」として福祉事業所と手を組むのは、まだ珍しい事例だそう。
農園にやってくるのは、先天的な知的障害や、統合失調症などの精神疾患を持つメンバーで、精神病院の部屋に何年間もこもりっきりだったという人も少なくありません。
しかし、太陽の光を浴び、土に触れ、体を動かし、作物の成長を見守る中で、担当医師も「奇跡の回復」と驚くような症状改善が見られるように。
ハーブ農家の大きなビジョン「差別のない世界をつくる」。
「ヨーロッパでは『農福連携』はもはや当たり前のこと。農業自体が人を育てる場として捉えられているし、障がいも個性のひとつとして社会に受け入れられています。
そういう意味では日本はまだまだ遅れていて。僕が最終的に目指しているのは偏見と差別のない世界。
農福連携したからこそ、観光農園化を強く進めたいと思っている理由もそこにあって、障がいがある人も元気に働いている光景を多くの人に見てほしい。そうやって彼らとの距離を少しずつ縮めて、『普通のこと』にしていきたいんです」
「それに僕は、彼らはスーパーヒーローになれると思っています。誰に対しても平等で、誰よりも純粋。損得を計算に入れないし、能力も高いです。将来的には農業から派生して、アラスカの『パークレンジャー*』みたいに、緑を守ることを彼らの仕事にしていけたら」
(*パークレンジャー……アラスカの国立公園で自然や史跡保護のために働く職業のこと。アメリカでは子どもたちが憧れる職業として人気が高い。)
今年は向かいの畑を借りて、さらに事業を拡大していく予定。「まずはメンバーの賃金向上。これからやるべきことは山ほどあります」とタフな笑顔を見せる澤邊さん。
ハーブ農家として、福祉や差別の問題に取り組む「ペザン」。ハーブ農園に広がるピースフルな光景が、石川、そして日本の「ふつう」になることを願って。