real local 南八ヶ岳独創的なモノやコトが生まれてくる可能性はローカルにこそある - reallocal|移住やローカルまちづくりに興味がある人のためのサイト【インタビュー】

独創的なモノやコトが生まれてくる可能性はローカルにこそある

南アルプス北麓のデザインユニット、アトリエヨクトの記録  01.NIPPON

2017.06.28

 

初めてヨクトの「OKAMOCHI」を見たとき緊張した。

アトリエヨクトがつくるモノはどれも美しい、そしてどこか懐かしい。モノとしての使い勝手や素材、繊細すぎる加工がそう感じさせるのかもしれない。きっとアートと工芸がほんの少し重なるどこかにあるのだと思う。何よりも、果たしてこの道具箱に納めるに値するモノを自分は持ってこれまで生きてきたのか、そんな問いを突き付けられたような気がしたのだ。

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古川さんが使う「OKAMOCHI」の一つにはどこでも豆を挽いてドリップができるコーヒーセットが収納されている

アトリエヨクトは、古川潤と佐藤柚香夫妻のユニットだ。美術大学でともに建築を学び、途中別々の道のりを進みながらもいま北杜市白州町を拠点に活動をしている。周囲を田園に囲まれ甲斐駒ケ岳が圧倒的なボリュームで視界に飛び込んでくる眺望のよい広葉樹の森。ここに作業所とオフィス兼ショールーム、材料の置かれた小屋がある。天気のよい日は木立の間に、ヨクトの「UMA-table」を置いてランチをする。お茶を飲む。テントを張ることもある。豊かな営みの場所だ。

独創的なモノやコトが生まれてくる可能性はローカルにこそある
ヨクトの森 丸い天板が載せられた「UMA-table (Low) 」

20年位前のこと、古川の違和感は頂点に達しつつあった。その状態を「据わりが悪い」と言葉にする。自分自身の日本人離れした身体寸法に関係があるのかもしれない。古川は細身だが手足が長くすこぶる背の高い人だ。いずれ非合理的な仕組みや自然に反したことに出会うと古川の中にある何かが反応する。この時は「作る」というカリキュラムが建築学科というモノづくりを学ぶ学校にないことに据わりの悪さを覚えていたのだ。

ともかく単位を落とし留年が決まると、古川はバイクにテントだけ積み旅に出た。気になる場所を巡り、夜になるとテントを張る、雨の日は屋根の有り難さを知り、モノを持たない旅の豊かさを学んだ。

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古川 潤さん

その後、たまたま福島県で行われていた民家の解体にボランティアとして参加したことで、古川のキャリアは「大工」という仕事からはじまることになった。「大工になるつもりはなかったけど民家には興味があった」と古川は言う。師匠は宮大工の元で修行を積んだ人で手刻みにこだわっていた。自己満足としか思えないほどに、柱や梁をカンナで仕上げたり、ひたすらノミでホゾを掘ったり、仕事が終わってからも夜な夜な刃を研いだり、それに板金作業を手伝ったり、左官をしたり・・・、「なんて不器用なことをしているのだろう」と疑問を抱えつつもストイックに日々を過ごした。

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アトリエヨクトの作業所 ここから様々なプロダクツが生まれる

気が付くと6年もの間、大工として民家の解体、再生に没頭していた。いわゆる修行だ。「いろいろな木材に触れることができた、きっと自分の性にあっていたのだと思う」古川はこの時期、頭より体を動かすことで「据わりの悪さ」を封印してきた。ひたすら過程にこだわること、それが修行の本質かもしれない、しかし、これが、自分の求めているものだと確信できる瞬間はなかった。少しずつ、古川の身体感覚的な合理性が頭をもたげてきた。

 

その頃、佐藤柚香は古民家専門の設計事務所で働いていた。佐藤も古川と同じく旅が好きで時間ができると海外に行った、そして軽のバンに布団を積み込んで日本を回った。佐藤は、海外からの視点で日本を見ることで、「日本の美しさに気が付いて、この国を見直すようになった」と言う。自然と日本の風土に馴染む民家に関心が向き、設計者として民家再生に取り組むようになっていたのだ。

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佐藤柚香さん

その後、佐藤は独立し、オフィス兼古材と古道具の店ができる場所を友人と探していた。そして向島の下町で「元薬屋」という物件に出会ったことで、運命的な邂逅が訪れることになる。2003年のことだ。アトリエヨクトの歴史を振り返ると、佐藤の決断がいつも大きな意味を持つ転換点となることに気付かされる。これがその始まりだった。

改修工事にあたって、相談した工務店からやってきたのは、古川だった。「面倒臭そうな客だから任せると親方に言われてきた」古川の第一声だ。二人は卒業以来6年ぶりの再会を果たす。

佐藤と古川は、施主であり設計者と大工という領域を越えて現場でお互いに考えながら、時にぶつかりながら、うず高く積まれた古材や古い建具を使って施工を進めていった。佐藤にとっては自らの拠点づくり、古川にとっては師匠のいない現場であり、お互いに制御されてきたモノづくりへの情熱が解き放たれ、それぞれが、自由にできる造作に熱中した。佐藤は古川の木工の技術に、古川は佐藤の自由な発想に、それぞれが身に付けてきた技倆を理解し、尊重し、確認しあう場となった。これが二人で取り組んだ最初の共同の作品となり、店は「una mano」と命名された。

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「una mano」佐藤の古材と古道具の店兼オフィス ベスパは佐藤の愛車

完成してしばらくして二人はここで一緒に暮らし始める。

大工と設計者としていくつか仕事を共にし、古川もその2年後に独立を果たし、新木場にある製材所の2階を借りて古材を使ったオーダー家具の受託を始めた。大工としての高い技術を身に付けた古川だが、「自分には大きな空間よりも小さなモノが向いていると思った。建築には制約が多すぎる。それよりも小さなモノひとつで空間を変えることができる予感がした」と、民家からモノへ活動のフィールドを移したのだ。

古川は、客から言われた通りのものを作るのではなく、独自の提案を加えたモノを作り続けた。「客のためだけというより、自分が試したいという気持ちに抗えなかったから。依頼が来ると、いつも敢えて使ったことのない技術や素材を採用した」と古川は言う。

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アトリエヨクト作業所内「鉄」の加工エリア

特にこだわったのが「鉄」、もともと好きなバイクのパーツ作りのために独学で溶接を学んでいた。いまもヨクトのブロダクツの製造の一部を委託している鉄工所に足繁く通い、質問攻めにして教わることで、鉄を扱う技術を自分のものにした。

「木は曲線が難しい、でも鉄は自由に曲げられる」古川が鉄を愛する理由だ。さらに、この時期、木と鉄と革など、異素材を組合せることに没頭していく。現在のヨクトのプロダクツが木や鉄を軸としながらも更に異素材を付加していくモノづくりの原点がこの時代にある。しかし、古川はだんだんと受託という仕事と自分自身に限界を感じるようになっていった。

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加工が終わった「UMA」

 「さんざんやってきて、いろいろと溜まってきた」と古川は言う。「じっくりと腰を据えて自分のカタチに落とし込みたいと思っても、そこは依頼された家具づくりだから何もかも自分の思い通りには進められない。それに自分には家具に対して根本的な、自発的な何かが足りない」と悩み、据わりの悪さが加速度的に大きくなっていった。独立して4年目のことだ。

佐藤は、una manoの店主、そして設計者として二つの仕事を並行して行っていた。パートナーの変化が気になっていた。直感的に、その頃旅で訪れたスウェーデンという国が古川に合うと思った。唐突で飛躍したアイディアだったがシステムの中でもがき悩む古川は一度外に出た方がいい、いや出るべきだと佐藤は確信した。

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古川も佐藤の直感に希望を感じた。据わりの悪さはいつも自分に戻ってくる、自分の感覚に自信を失うこともある。自分なのか社会なのか、根源はどこにあるのか、古川の自問はループを続ける。一度、この国を出てみてもよいと思った。二人は、スウェーデンのダルスロンゲにある「HDK大学STENEBY校」に入学することを決める。もう一度、大学に入って家具づくりを学ぶことにした。

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ダルスロンゲの運河と水路

ちょうどこの時期、二人は新しい家族を授かる。その半年後、スウェーデンへ旅立つユニットは3人となっていた。

 

02. Dals Långed に続く

 

屋号

アトリエヨクト

Atelier Yocto

URL

https://www.a-yocto.jp

https://www.facebook.com/atelieryocto/?fref=ts

http://instagram.com/atelieryocto

住所

北杜市白州町横手757-1

備考

※ショールーム来場の際は事前にメールにて予約が必要

mail@a-yocto.jp

080−3937−4757(古川)

 

この夏のアトリエヨクト展示会と参加イベント

「アトリエヨクト Pop-up Store in Gallery Trax」

(北杜市高根町) 8/4-14(金土日月の計8日間)

「ハウスのハウス展 2017 on the river」

(北杜市須玉町) 8/18-24

「旅するヨクト展2017-mastue(仮)」

(島根県松江市)9/1-4

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