【長野】海なし県は鯛ではなく、鯉焼き! 藤田九衛門商店/長野市
手頃なおやつでおなじみの鯛焼きは、1909年に東京・麻布十番の浪花家総本店の初代が「めでたい」という縁起物として作ったのが起源と言われている。ところで長野県=海なし県。鯛に限らず海産物が貴重だったこともあり、佐久市を中心に鯉を食する文化が古くからある。
善光寺近くに「鯉焼き」の店がある。2012年にオープンした「藤田九衛門商店」だ。店主は長く日本料理の世界にいた藤田 治さん。大阪や海外、軽井沢で料理人をしてきたが、縁あって長野市に移住。1年間暮らしてみて長野という町の特徴を分析した結果、「お客様が望むものを」と、和菓子の店を開いた。
「例えば京都や金沢はきらびやかで洗練されていて、長野は日本の山間部ならではの素朴な田舎らしさがある。でも善光寺のある長野市のこの場所は、ちょうどその中間だと思うんです」と藤田さん。茶席の上生菓子のようなものではなく、かといって囲炉裏で焼くあんこのおやきではない。ちょうどいい感じを求めたところ、鯉焼きというかたちに行き着いたのだ。長野県には海がない=鯛焼きではない、というのもユニークな着目点。
鯛焼きの型は市販でもあるが、鯉焼きは一から焼き型を作らなければならなかった。そこで富山県の仏像の彫師・吉川浩市さんに木型を依頼。それをさらに金沢の職人に金型にしてもらった。鯛焼きとの違いは、裏表を合わすと躍動感ある立体の鯉になる点。
包み紙には「垂水」と書かれており、これが商品としての正式名称。垂水とは滝のことで、中国の故事・鯉の滝登り(滝を登り龍門を越えた鯉は龍になる=立身出世の話。登竜門の語源)にちなんだものだ。
この鯉焼きこと垂水は、小豆ではなく長野でよく栽培されている花豆を使っている。「県外からやってきた自分にとって、こんな美味しい豆があるなら、わざわざ他県の小豆を使わずそれを使えばいいと思った」と藤田さん。食感はあっさりしているが、小豆なら塩で甘みを引き立てるところを、たまり醤油を使うことでコクも加えている。
味も基本のプレーンに加えて、竹炭入りや季節のものなど5種類程度が店頭に並ぶ。取材時は近隣のイタリアン「こまつや」との期間限定コラボが並んでいた。こういったコラボができるのも、鯉焼きがシンプルかつ、店同士の距離感が近い門前町ならでは。お土産やお持たせはもちろんだが、朝6時半から開いているので善光寺のお朝事帰りのおめざにももってこいだ。