【長野】箱山ふとん店 箱山正一さん 老舗の4代目だからできる町のこと
「僕の存在意義。それは西之門町で生まれ育ったことに尽きます。若い世代が何か新しいことを始めるときや空き物件を探すときでも、『しょうちゃんが一緒に行ってくれると話が早い』って言ってもらえるんです」
そう語るのは、長野市善光寺の門前町、西之門町の寝具店「箱山ふとん店」4代目の箱山正一さん。創業100年を超え、この町で商売を続けている。西之門町は門前町と言っても、南北100mほどの小さな町。酒蔵や洋傘屋などの商店があり、西山(鬼無里や戸隠、小川村など長野市北西部の中山間地域)から山の幸の行商に来たひとが買い物をした場所でもありました。
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現在箱山さんは家業を営みながら、4~11月の第2土曜に開催される手作り市「善光寺びんずる市」の実行委員として活動しています。この善光寺界隈は、古い物件のリノベーションにより新しい商いが興っており、こまつやにナノグラフィカなど度々このreal localでも取り上げています。そういった界隈からも挙がる「しょうちゃん」の名前。布団屋の若旦那と、移住者と、古くて新しい町。それらを繋ぐストーリーはどこにあったのでしょうか?
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「大学入学で上京して就職。結婚を機に地元で飲食業をしようと思ってたんですよ。それで『小布施堂』に修業を兼ねて就職しました。小布施には葛飾北斎の作品が残されているんですが、これは北斎に部屋を与えてもてなしていたからです。田舎町なのに、外から来た人を迎える懐の広さがある。社長の市村次夫さんは会社の利益にならないことでも取り組み、町の魅力を高めていました。小布施堂で働いた4年間はとても素晴らしい経験でした」
箱山さんが影響を受けた小布施町は、1980年代に行った「町並み修景事業」でも知られており、アメリカ人のセーラ・マリ・カミングスさんなどによる「小布施見にマラソン」「小布施ッション」などの地域活動が注目されていました。
2009年に西之門町に戻った箱山さんは、飲食業ではなく家業を継ぎ、青年部で空きガレージなどを活用して手作りの品を販売する「西の門市」を始めました。その市に買い物に来ていた善光寺の宿坊のご住職から「おびんずるさんの誕生300年を機に、境内で何か企画を始めたい」と相談が寄せられました。その縁で、2013年から「善光寺びんずる市」が、善光寺や門前町の有志で実行委員会を立ち上げるかたちで始まったのです。
元々善光寺は無宗派で、365日24時間、境内が誰に対しても開かれている稀有な寺。その昔は39ある宿坊も参拝客にお朝事までの時間を過ごしてもらう場所でした。そんな寺の背景があるからか、ご住職も出店者の荷物運びを手伝ったり、砂埃が立たないよう打ち水をしたり、心地いい気配りを自発的にされているそう。ちょうど代替わりで箱山さんと同世代のご住職が増えてきたのも、寺と門前町が新しい関わり合いを始める契機だったのかもしれません。
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「善光寺に観光で来られる方も多いですが、観光の原点って、(企画されたイベントで集客するのではなく)地域の日々の暮らしにあると思うんです。西之門町なら、古くから善光寺とともにある暮らし。元々住んでいる人たちにはこの地域の暮らしを守ってきたという自負がある。当事者として暮らすイメージが持てれば、(移住者でも)ナノグラフィカのたまちゃんのように町に溶け込める。びんずる市がきっかけで門前周辺で店を持ちたいと相談があれば、僕も相談にのります!」
箱山さんちのしょうちゃんーー。
「それが僕の存在意義」と自ら言い切れるのは、“箱山ふとん店の4代目”という歴史ある町における絶妙な立ち位置と、この門前町で誇りを持って暮らしていくという健かな自負があるからかもしれません。
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※箱山ふとん店以外の写真はすべて箱山さん提供
屋号 | 箱山ふとん店 |
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URL | |
住所 | 長野県長野市大字長野西之門町933‐4 |
備考 | 「善光寺びんずる市」は4~11月の第2土曜開催。時間は10~16時。小雨決行。 |