「TSUGI」新山直広さん
切り拓く“仲間たちとの未来”
D&DEPARTMENT PROJECTが東京・渋谷のd47 MUSEUMで開催中の「NIPPONの47人 2017」展をreal localが独自の取材で深堀りします! 地域のライターが、地元の出展者を取材するスタイル。こちらは福井県鯖江市河和田地区を拠点に活動する 「TSUGI」新山直広(にいやまなおひろ)さんへのインタビューです。
*d47 MUSEUM「NIPPONの47人 2017 これからの暮らしかた – Off-Grid Life –」のサイトはこちら
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10月12日(木)〜14日(日)に河和田地区を中心に開催されるイベント「RENEW」。その準備で忙しい「TSUGI」の事務所へ、reallocal福井班がお邪魔しました。
「RENEW」の他にも、福井の食文化を再発見するイベント「FUKUI FOOD CARAVAN」(福井新聞社との共同企画)や、眼鏡の端材に着目したアクセサリーブランド「Sur」の開発、さらに9月に河和田地区にOPENしたばかりのものづくりプラットフォーム「PARK」の運営など。
デザインワークからプロジェクトの企画・管理まで、縦横無尽に手掛ける「TSUGI」代表の新山直広さん。
大阪生まれ。京都の大学を卒業後、24歳の時に人口約4,200人の小さなまち・鯖江市河和田地区に移住し、以降、のべ60人以上のクリエイターや職人の福井への移住のきっかけをつくった新山さんは、今や河和田地区、ひいては福井の未来の鍵を握ると言ってもよい、若手クリエイティブディレクターです。
屈託のない笑顔とは裏腹に、生まれ育った場所でない土地へ降り立ち地盤を築き上げてきた新山さん。そのバイタリティーの源を探っていきます。
「産地」とは「仲間」のこと
− 次々と湧き出てくるアイデアと実行力。そのエネルギーはどこからくるんでしょう?
新山「せやなぁ・・・やっぱり『仲間がいるから』。僕にとって仲間ってすごい大事で。
よく産地が盛り上がるためにって言うけど、『一体、産地って誰のことか』と。自分の中の『産地』はクライアントさんであったり、仲間のこと。自分も含めて、その人たちが楽しく暮らせて、稼げないと意味がないですよね」
「TSUGIのメンバーはもちろん、ろくろ舎の酒井義夫くんやataWの関坂達弘くん、PARKのメンバーもそう。河和田の仲間たちが潤えば、自ずと産地も元気になるはず。
今はお金も時間もない中で、苦労しながらお互いにアイデアを出し合って河和田にいろいろなことを仕掛けているけど、いつか共に旅行とかして『あの時大変やったけど、続けてて良かったなぁ』って、いいお酒を飲めたら嬉しいです(笑)」
ハードボイルドな生い立ち
− 河和田に移住するまでは、どんな風に過ごしてきたんですか?
新山「ぼくは、大阪の吹田市の団地に暮らしてたんですが、高校1年の時に家庭の経済状況が急に悪化したんです。高1で先に母が亡くなって、さらに、父が大学入学の3日前に急に倒れて亡くなって。大学せっかく受かったのに入学できなくなりまして。でも建築家になることは諦めたくなかったから、その後もう一度受験しました。
若いうちにつらい経験をしましたが、状況や環境のせいにして、諦めたり後で愚痴を言ったりするのは嫌なんですよ。
面白くないなら自分で面白くする、考えるっていうのが、ぼくの信念なんですが、この時に身についたのかもしれません。
それからなんとか、京都精華大学の建築学科に入学して、大学4年の時に、河和田アートキャンプに参加したのが、河和田に来た最初です」
「河和田アートキャンプ」の主宰でもあった恩師の影響で、コミュニティーデザインに興味を持ち始め、卒業と同時に移住。河和田地区の漆器産業を調査しながら、衰退の一途をたどる現状を目の当たりにし、地域に足りないものを考えた末、デザイナーになると決心。
そこでタイミングよく鯖江市役所からデザイナーの臨時職員として声がかかります。そして、デザインの修業をしながら鯖江のまちに深く関わるようになって・・・。
2013年、鯖江に縁があって移住したメンバーと共に「TSUGI」を結成しました。
– 「TSUGI」を立ち上げたのはなぜですか?
新山「『TSUGI』を始めた頃は、まだ市役所に勤めていて、仲間たちと面白いことをするための団体で、会社にするつもりはなかったんです。でも、続けるためには『このまちで稼げないとだめだ』と思い、本格的に会社として動き始めました。
最初の頃に携わった「FUKUI FOOD CARAVAN」は、『TSUGI』のスタイルを確立するきっかけになりました。福井の食を再発見するというテーマでしたが、企画・演出から空間構成まで総合的な関わり方をしたんです」
「『FUKUI FOOD CARAVAN』のアイデアを考えついた時、福井新聞のまちづくり企画班の記事を読んで、何か一緒にやりたいと思い、高島さん(福井新聞社)に熱い気持ちを書いて手紙を送りました。それから、映像にも残したかったので、その頃まだ駆け出しだったホオズキ舎の長谷川くんにも連絡をつけて、押掛け女房のようにお願いしに行きました(笑)
お金もなかったけど、とにかくやりたくて。それができたから、少しずつデザインの仕事が入るようになりました。地元に根付いた、でも型にはまらない表現というのが、僕ららしいアプローチなんじゃないかと思っています」
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職人の工房を一般の人たちに開くイベント「RENEW」を始めた当初は、地元の職人さんに協力を要請するチラシを持って行っても、新しい試みを理解してもらえず、苦労することもあったそうです。
でも、常に周りの状況のせいにせず、アイデアと工夫を武器に、自らの手で切り拓いてきた。
その姿を見ていると、自分にも何かできるのでは?という勇気を、与えてくれるんです。
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TSUGI
福井県鯖江市に移住したデザイナーや職人などで構成されるクリエイティブカンパニー。「RENEW」のプロデュースや、「Sur」に代表される商品開発に至るまで、その活躍は多岐にわたる。
TSUGIがプロデュースするイベント「RENEW」はこちらをどうぞ!