「山形国際ドキュメンタリー映画祭2017」見たい3本はこれだ! vol.2
by. 大澤一生さん(ノンデライコ 代表)
10月5日から開催している、山形国際ドキュメンタリー映画祭(YIDFF2017)。
世界中から審査員、監督、プレス、映画関係者、映画ファンなどが集まり、山形市は映画ムードにわいている。
10月12日まで、市内9つの会場で世界中から厳選されたドキュメンタリー作品が上映される本映画祭。
厳選されたとはいえ、上映作品は約150本。「どれを見たらいいの?」という声にお答えして、おすすめの3本を映画配給・プロデュースを手がける「ノンデライコ」大澤一生氏にピックアップしていただいた。
『カラブリア』
インターナショナル・コンペティション部門
スイスで暮らしていたある一人の男が人生を全うし、その遺体を葬儀屋の2人が男の故郷・イタリアへと移送する。特に事件が起こる訳ではないただそれだけのロードムービーですが、余白を排した端正でストイックなフレーミングの中で、葬儀屋の2人が交わす何気ない会話(または沈黙)の行間に、人生の淡いのようなものが浮かび上がってきてグッときました。時折り、葬儀屋の一人が歌うジプシーの哀愁漂う歌も魅力的な、ヨーロッパ版『おくりびと』。
公開日:8日10:30〈山形市民会館 大ホール〉
『あまねき調べ』
アジア千波万波
インド、といってもミャンマー国境付近ということで、モンゴロイド系がほとんどのナガランド州の山深き農村、そこで今も歌われている労作歌(ワークソング)についての作品で、その歌がとんでもなく魅力的。旋律というよりも、リズムと声の重ね合わせによるコール&レスポンスでブルガリア民謡のような倍音が含まれたポリフォニーを形成。これらの歌が様々な農作業での人々の動きや感情とリンクしていて、こういう歌を資料的なアプローチではなく今も現役で機能している在り方を捉えているドキュメンタリーを滅多に観たことがないので驚きました。
人々と土地と季節、またもっと大きな時間の流れも含めて、その全てを表しているものとして「歌」を捉えていて、とても誠実な映画でした。「皆さん」ではなく登場する一人ひとりの名前を表記しているエンドクレジットに、監督たちの土地と人々に対してのリスペクト具合が感じられて泣けます。
公開日: 8日10:45〈フォーラム5〉
『パムソム海賊団、ソウル・インフェルノ』
アジア千波万波
ベースとドラムの2人組グラインドコアバンド・パムソム海賊団は「キム・ジョンイル、マンセー!」と叫んだりして、かなり挑発的で自由奔放なパフォーマンスが最高(タイマーズに影響受けたらしい)ですが、「国家保安法」でメンバーが逮捕されてからの後半は、反体制的、反骨的なスタンスを巡って映画もバンドも歯切れが悪くなってきます。しかしその歯切れの悪さはヒーローを求める大衆と、ヒーローとして消費されることを拒絶するバンドと監督の位相が異なるせめぎ合いで、一見して直情的な作品のようで実はもう一回り批評的視点を持ったクレバーな作品でもありました。韓国での一般公開時に賛否両論だったというのも納得。
公開日:7日16:20〈フォーラム3〉
大澤 一生(おおさわ かずお) プロフィール
日本映画学校(現・日本映画大学)卒業後、インディペンデント・ドキュメンタリー映画の製作に主にプロデューサーとして携わり、2008年より「ノンデライコ」名義での活動を開始。近年は製作だけに留まらず、配給~宣伝活動まで担うことも多く、製作から劇場の観客に届けるまで一貫させる動きを展開している。構成、編集協力等での参加作品も多数。主な製作作品に『隣る人』『ドキュメンタリー映画 100万回生きたねこ』『フリーダ・カーロの遺品 – 石内都、織るように』、『さとにきたらええやん』。配給作品に『きらめく拍手の音』、『ニコトコ島』&『石と歌とペタ』。
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